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精霊星の物語 ~精霊島の物語~  作者: uki yoe
第一部 精霊島の物語
30/65

未来か過去か

力不足。

そうか、そうだったか。

それなら仕方がない。

バビが生まれる前と後とでは自分でも首をかしげるほどに能力の差が生じている。

きっとあの時、俺の中で何かのスイッチが入ったのだ。

バビと出会う前であったなら、やはりスムーズには事は運ばなかっただろうと思い起こす。

まあ、今の俺であれば何の問題もなく空間転移は出来るはずだ。

もしかしたら、どこかの宇宙空間から彗星の集団を引っ張ってきたり、高電圧の雷雲を生じさせたり、コルニアを縦断させるほどの地割れを引き起こしたりすることも今の俺ならば可能かも知れない。

さすがにそこまでは無理か……。

だが、出来る。

出来たらどうする?

出来そうで怖い。

そんなとんでも現象、こんな事ばかり思い浮かぶのは良くない傾向だ。

せっかくだがら、もっと生産的で建設的な魔法の使用を考えたらどうだろう。

――例えば?――

例えば……宝くじの数字を当てるとか?

――は?――

あ、やっぱりイケメンに姿を変えてみるとか?

――なんだかなぁ。小っさいなぁ――

じゃ、じゃあ、ほらアレだっ、不老不死の魔法を編み出すとか。


おう……それ、すごいな。

ぶっ飛んでるな。

リスクもすごそうだ。

やってみようか。

やってみるなよ。

やってみようよ。

やるなよ。

やってみない?

考えるな。

~魔法は安全に使いましょう~って取説に書いてなかったか?

不老不死だなんて百害あって一利なし。

余計な事を考えてしまった。

考えなかった事にしておこう。


しかし生産的で建設的な魔法か……。

いきなり振られても、何だかあまり思い浮かばない。

大きな力って、損得を超えたところでいざ使うとなると考えてしまう。

小さな事で損をせずに得したい、っていう個人的な気持ちであればポンポン出てくるのだけれど。

さすがにそれは良心が咎めるし……そもそも今の俺にそんな事する必要はまったくない。

コルニアにいても日々の生活に何の不足も感じていないし……。

そうか、おれに足りないものって日本でもあまり無かったのかもと改めて感じ入る。


勉強と友人と少しばかりのお金。

これさえ上手に周っていれば、地球での俺は日々の生活にあまり不満を感じていなかったのだ。

足腰にガタの来ている年配者でもなく、1人で生きていくには力のない幼児でもなく、健康で若い青年だったと言うところも大きい要素ではあったろう。

付き合っている彼女がいないって言う事だけがネックだが、それ以外に魔法を使わなければ打開できない状況がここへ来る前の俺にあったかと言えばNOなのだ。

心の問題は心が解決するものだ。

魔法ではない。


黄金則の魔法が使えると言っても悪素の消えたコルニアで、特に何かを豊かにさせる必要性があるかと問われても、俺にできる事で特段なにかがある訳でもないだろう。


こんなものなのか。

こんなもんなんだな。

――では彼女を魔法で手に入れられるとしたらどうだろう――

どうなのかな?

なんだが一番楽しい部分をすっ飛ばしてしまう気がする。

仮に世界中の女性を魔法の力で意のままに操ることが出来たとして、俺はそれをしたいと思うのだろうか?

まじめな話だぞ。

どうだ?


残念。

思わない。

俺はそこまで英雄ではない。

1人でいい。

1人がいい。


精霊力を欲望のままに利用するのは俺の本意ではない。


そう言う事か……。

この力を使って、この星を征服するとか考えてもいいだろうに。

ハーレムをつくっちゃうとかさ。

――めんどくさ――

やっぱり?

1人で十分だ。

1人を探そうぜ。

そう言う事か。

……そう言う事だ。


大概その1人だってそう上手くいくものじゃないんだ。

彼女が欲しいなら、そういう行動を日々していけよって事だな。

自分磨きに手を抜くな。


泣くのが嫌ならさぁ歩け……だ。




だがそれにしてもレスリー。

俺の精霊力の状態が分かっているとは恐るべし。

カイラルプスの精霊晶を取り出す時でも、俺を背に乗せて空を舞う時でも無詠唱で魔法の力を起動しているし、やはりドラゴンの能力ってのは凄いのだ。

つくづく感心してしまう。

困った事や分からない事はこの白いドラゴンに聞けば何でも解決してしまいそうだ。

最高に頼れる兄貴、いや、姉貴と言ったところか。

実に頼もしい姉貴だ。


「じゃあ、十字洞窟へ行く時にでも空間転移を使ってみようかな」


大丈夫だろう?と、尋ねるように言ってみる。


「そうするといい。あそこまでの距離ならば、空間転移の練習には最適だろう」


うなずくレスリー。


「空間転移が出来たら次は時間魔法が加わった時空間転移だな」

「うむ。だがこちらはそう簡単に、我もそなたに教える事が難しい」

「と、言うと?」

「時空間魔法はかなり繊細なモノなのだ」


ふむふむ。

なんでも出来ちゃうレスリーが繊細とはどういう事だ?


「いや、繊細なのは時空間魔法ではないな。正確ではなかった。繊細なのはカイラルプスが創りあげたこのコルニアを覆う、時空間結界が繊細なのだ。そなたが行うべき時空間転移はこのコルニアを覆うカイラルプスの結界と同種のものだろう。精霊王の結界を通るにはそなた自身で結界の道を解いていくしかないだろうな。」

「カイラルプスの時空間結界…やっぱり一癖ありか……」


そう簡単にはいかないとは思っていたが、やはり最後に壁となって立ちふさがるか。


行きはよいよい、帰りは恐い…

 …行きは這いずり 帰りは歩き? 怖いながらも 通ります ええ通ります。


ふざけちゃいない。

このくらいの精神状態が俺にとってはベターなのだ。

根を詰めなければならない時がある。

その時はその時。

今は今。

一人の俺は気負わない。

他人に迷惑を掛けていないのだ。

何を気負うところがあるだろう。

気楽に行こう。

歌でも歌いながら。

しかし、もっと朗らかな歌は無かったのか……。

よりによって――帰りは恐い――とか。

よけいに怖くなるわ。



――――――――――――――――――――――――――――――



――あー、あー、俺の心スタンバイ、OK?――

OKだ。

よし、では早速、時空間転移魔法をやってみよう。


俺はレスリーの言うとおりに数度の空間転移を成功させ、ビボック山にある十字洞窟へも問題なく行ける事を確認した。

今度は時間軸を組み合わせた時空間転移を試みる。

転移して見る場所はココだ。

今現在、俺の立っているこの場所。

白銀龍や精霊達と共に多くの時間を過ごしたこの大岩のある、レスカリウスの住処であるこの場所とする。

場所が決まれば次に決めるのは日にちと時間だ。

転移先の日にと時間を一体いつにするかである。

転移先の指定する日時。

俺が現れるであろう目標の時間。

その時間をいつの日のいつの時間に設定するのか。


空間転移を難なくやって見せ、次に時間転移をと考えた時、ふと頭をよぎったある思い。

時空間魔法を使って、未来か過去かどちらへ行くべきかと考えた時。

未来の自分が地球へ帰ろうと試みて失敗し、自分の存在が霧散してしまっている事を想像してしまった。

ぐにゃりと歪んだ空間に、愚かな人間のなれの果てが、ゆらゆらと揺れ動いて定まらずにいる。

未来にも過去にもそしていつの時代にも存在できぬ存在として、たゆたんでいる生身の俺のなれの果て。

オーマイガッ。


だとすれば、今俺が行おうとする時空間転移の練習には、成否のカギを握る為にもコルニアを去った以降の、俺のいないコルニアへ行って見る方がいいような気もする。

……が、到底そんな気分にはなれない自分がここにいる。

未来に失敗があるのだと確認出来るのであれば、過去である今日に戻り修正案を考えて、明日の成功を確定づける道筋を見出せばいいのだろうが、生憎とそんな勇気は持ち合わせていない。

そもそもだ、未来の失敗を現在の俺がなんとかするなんて、そんな事が果たして本当に可能なのだろうか?

例えば失敗について、何故失敗したかの原因がどうして分かる?

カイラルプスの時空間結界は俺一人で取り組まなければならないとレスリーは言った。

ならば、失敗した時の原因は恐らく、俺にしか分からない。


百歩譲ってだ。

仮に原因が分かったとして、失敗を再び繰り返さないとどうして分かる?


今、俺が未来へ行って、失敗していた事を確認して、再びここへ戻ってくるとしよう。

するとその時間軸上ではやはりどう転んでも、それは俺が失敗するという結果しか生まないのではないだろうか?

失敗することが前提の仮定。

ああ、いや、この考えはマイナス思考だ。

やめた方がいい。

仮に、そんなささいな勇気を持ち合わせていないのだとしても、俺が地球へ帰省した後の未来へ行って、俺の帰省が成功していたかどうかを見て来る価値は十分にあるはずだ。

どうだろう。

未来へ行って見ようか。

――だが、断る。

ちっ。

ここで、そのセリフかよ。

何と言う後ろ向き、何と言うヘタレ。


未来へ行っとけよと思う俺と、絶対嫌だと思う俺。

――選択肢はもう一つあるだろう。

なるべくなら未来へは行きたくない。

だから、もう一つの可能性。

過去か。

そう、過去だ。


過去時間だ。


次回サブタイトル予告です。

~タイムトラベルの行方~

お楽しみに。

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