ボクのパパ
レスカリウスは話を続ける。
『この精霊晶をこの世界に置いて行ってはくれぬだろうか』と。
ああ、そうだよな。
どう考えても、その方が有用だ。
「分かった。レスリー、この精霊晶はあなたに預ける。この世界の為に有効に使ってくれ」
うん。
俺から生成された精霊晶も、伝説の精霊王様と同格の『宝珠』って言ってもらえたし。
満足だ。
白銀龍レスカリウスなら、この精霊晶を決してやましい事には使うまい。
安心して残していけると言うモノだ。
俺の分身だ。
「大事にしてくれよ」
「もちろんだ」
目と目で通じ合う龍と人。
こんな信頼関係が結べるなんて、世界は広い。
別世界だけど……関係ない。
俺は知っているぞ。
そう。
別世界だろうが知ったこっちゃない。
こんな繋がりは生涯のモノなのだ。
俺が地球へ行っても、この龍は俺の事を忘れない。
俺もこの龍との繋がりを忘れない。
短い期間だったが、この事実は曲げられない。
男と男の友情なのだ。
熱い、固い友情なのだ。
男の良さここに極まれり。
男に生まれて良かった。
―確認―
……男…だよな。
「なんだ?」
「レスリー、男だよな」
「雄か雌かと言うのであれば、我は雌だぞ」
「ううううううっっっわーーーー」
ぎゃー
やってしまった。
おっさんじゃなかった。
やってまった。
おっさんじゃない。
えぇー?
彼…じゃ…。
やって……
おっさん……
お姐サン……
メスってなんだっけ?
ああ、レスカリウスが引いている。
穴があったら入りたい。
「パパッ」
へ?
天から声が降りてくる。
誰かがパパを呼んでいる。
「パパッ」(二度目)
俺の窮地に声がかかる。
誰かが俺に向かって呼んでいる。
へぇっ?
目前にテネアが降りてきた。
「ユーキ、この子ユーキ、の子」
「パパッ、僕のパパ」(三度目)
テネア?
精霊ズがふよっている。
「あー!自我が持てたのですね」
「やったぁ、仲間がふえたー。幸せ誕生日だねー、おめでとう」
ラーンとサフィ?
あれ?テネアと?ん?数が合わない。
この目の前をものすごい勢いでブンブン動き回っているのは誰?
良く見ると、色……緑?
テネアとラーンとサフィと…誰?
え?
「パパッ」(四度目)
「は、はひっ?」
声が裏返った。
恥ずかしい。
パパって俺の事でよかったんだよね?
俺じゃないのに返事をしてたら、顔から火が出ちまうぞ。
そう思ったら、突然その子は俺の胸に飛び込んできた。
勢いづいて、ぶつかってきた薄緑のもやもやちゃん。
俺はその子の存在をあわてて手で包んだ。
デジャブ感なシチュエーション。
モヤモヤしてフヨフヨしているその子は、形がないのにやっぱり何となく質感があった。
自分の気持ちに?マーク。
いやコレ確かに、前にもあったよね。
様子を見守るテネアさんの目がキラキラしている。
デジャブどころの話じゃない。
コレ、このシーン。
テネアの入れ知恵か。
タネが分かったところで、……まあ、分かっちゃったけど付き合ってあげる。
手をそっと広げると、手の中の子と……目は合わないよ。
俺が覗き込んだことに気付いたか?
ひゅんと手の中から飛び上がる新緑色の初々しいフヨッタちゃん。
「パパ。僕、バビ。パパのおかげでこの姿になれた、バビだよ」
この子の感覚は初めてじゃない。
俺はこの子の事を知っているぞ。
どこでだっけ?
ついさっき……。
俺は振り返り、その感覚を思い出す。
これだ。
この規格外の別格世界樹。
俺が悪素をみつけようと意識を集中させていた時、『ワルサ、スル』と教えてくれた、世界樹の意志。
あの時の声。
目の前の高さでフヨフヨ浮いている精霊――悪素の存在を教えてくれた声。
「さっき会ったかな、バビ」
「うん会った。さっき会った」
「樹の中で教えてくれたよな」
「ワルサする奴の事」
「俺にこの枝をくれたのも、お前か?」
「うん。そうだよ。パパに渡したくて」
精霊の声がポンポン弾んでいる。
テンションが高いぞ。
「お前は、この世界樹の精霊なのか?」
「僕はこの世界樹の中で目覚めたの。だからこの世界樹は僕のママなんだ。僕はママの中で目覚めたの。気づいたのはパパがコルニアに来た時だよ、あの時、何となく分かったんだ。パパが来たって」
「俺が、コルニアに来た時に、気づいた……で、この樹がママ……」
「そう。テネアが僕に気付いてくれた時、僕はパパへ、ママの枝を持って行ってってお願いしたの」
「そうして、俺が、今日、ここへ来た……」
「うん。パパが近くへ来た事が分かったから、僕、一生懸命ココだよってパパを呼んでいたの。パパが来てくれて、パパが僕に力を分けてくれたから、僕はしっかりと自我が持てるようになったんだよ」
この世界樹が別格だと思ったのは、この樹のもつ土石素の素体の力が、他の樹と比べて段違いだったからだ。
そして、おれの力はこの世界樹に引っ張られた……。
ん、ん?
白銀龍が顔を寄せる。
「バビよ、話の途中で悪いが、まだ我の話が終わっておらん。楽しい話は後にしろ。―――ユーキ、先ほどの話の続きだ。この精霊晶は我が責任を持って預からせてもらう、それで宜しいな」
『ブー、ぶーぶー』
レスカリウスが話を戻す。
バビが一人で?ブーイング。
精霊って、皆こんな感じなのかな。
生まれたてだと言うのに、白銀龍にブーイングとは、末恐ろしい。
男の子なのにこいつも結構自我が強いのだろう。
三精霊ズに加わったら、姦しいどころの話じゃなくなるな。
先が思いやられるぞ。
レスリーも大変だ。
こんな元気な奴ら、相手にするのも骨が折れる。
ああ、でもレスリーも女か‥‥。
ちらり、と白銀龍を盗み見る。
「駄目か?」
「あ、いやいや、全然OKだよ。問題ない。女だろうが男だろうが……」
「何の話だ?」
しまったー。
一度出してしまった言葉の撤回は難しい。
俺はこんな失言で何度痛い目に合ってきた?
俺の判断力落ちている?
さっきのスーパー精霊人の後遺症か?
―――もともとだろ―――
ソウデスナ。
「ユーキよ、黄金則を持つ精霊晶は宝珠なのだ。おいそれと取り扱うべきものではない。なればこそ、我は、そなたに間違いのない確認をしておきたいのだ、分かってくれ」
「すみません。ごめんなさい。別の事を考えていました。ええと、精霊晶の話でしたね」
構わないんだよレスカリウス。
あなたを信用している。
いやそれ以上だ。
戦友じゃないか。
俺とあんたの間に隠し事は無い。
心と心の友なのだ。
俺はレスカリウスに向き直る。
レスカリウスに掛けるべき言葉を使おう。
白銀龍から、俺に求められている言葉を選択しよう。
俺から、レスカリウスに精霊晶を託すための言葉。
きっと、今、レスカリウスは俺にそれを求めている。
これは儀式だ。
引き渡し式だ。
よし。
ピシッとしよう。
こんな時、小太刀の練習が物を言う。
背を伸ばし、体の重心を腰から下へ意識する。
真面目な顔で隙のない姿勢を作り上げた俺を見て、レスカリウスも姿勢を正す。
コルニアに響くよう、腹に力をいれて声を出す。
聴衆はこの大地を構成するコルニアそのものだ。
聞くがいい。
一世一代のハッタリを。
「惑星リテラにおいて、入寂されまし偉大なる精霊王カイラルプス。失われた大地コルニアの三精霊、ぁ、もとい、…コルニアの四精霊、風属性を司るサフィ、水属性を司るラーン、闇属性を司るテネア、そして土属性を司るバビ達に誓って、我、悠木縁は自らの名のもとに、我が創りし黄金則の力を持つ精霊晶一つを、祖龍たる白き龍、白銀龍レスカリウスその者に与え、それを永続的に授けておく事をここに宣言する。この精霊晶の譲渡は我、ユーキエン名のもとに発せられ、ここにおわす全ての立ち合いの理解者によって保障されるものとする。時は…エ~ト、…ロストランド、コルニアに新たな精霊、土属性のバビが誕生した日。銀河系第三惑星、通称、地球からの来訪者、悠木縁。以上。」
次回サブタイトル予告です。
~世界樹のママとバビ~
お楽しみに。




