常盤色の大地
感覚が鋭い。
自分ではないようだ。
コルニアの細部にまで手足が伸びている気がする。
水の中に生きる魚、地を這う動物、山の花、空を漂う細かい虫。
コルニア全ての存在に意識が回る。
土石素が広がって行く。
あそこに見えるのはレスリーだろう。
レスリーは本当に世界樹そのものになっているように見える。
溢れる素体はもう世界樹そのものだ。
さすが、レスリー、やることがいちいちカッコいい。
その横に見えるのは、あの年老いて傷ついている老樹だ。
ヤバいな、あの老樹。
やはり相当傷つき弱っている。
そばにいる精霊ラーン、サフィ、テネア達の存在も相当強い。
素体の大きさだけでいえば、彼女らの素体もやはり相当な力を持った特殊な存在であるのだ。
感覚を広げるとコルニア内で素体が強く集まっている、特異な場所も見えてくる。
俺がはじめてコルニアに来た場所、ビボック山の十字洞窟内、半透明な壁がある辺り。
それと、何だ?精霊の集まる場所だからだろうか、俺達がコルニアで拠点としているレスカリウスの住処あたりにも相当大きな力を感じる。
そして目の前にそびえるこの世界樹。
俺の素体を劇的に変化させた、この世界樹にも相当な力を感じる。
俺の力も加わっているからだろうが、この感じ方はこの大地でも頭一つ飛びぬけている様だ。
きっとこの世界樹は特別な一樹なのだろう。
世界樹よ教えてくれ。
俺は悪素を何とかしたい。
悪素。
悪素を何とかせねば。
問題の悪素……。
―――アレガ、ワルサ、スル―――
世界樹からの意思を感じる。
返答があった?
何だ?どれの事が……。
あれ?あれかっ。
あれが…悪素。
感じ取る悪素の存在。
悪素と思われるもの。
悪素のなかに感じる強力な力。
悪素に含まれる強毒性の呼称。
悪毒。
あれか、あれがヤバいのか。
テネアがその存在を司る精霊でありながら、完全な除去に手をこまねくもの。
精霊王、カイラルプスがその身を賭して防いだもの。
それが、あれか。
悪毒。
大地を覆い、草木を覆い、空間を覆い尽くさんとする、黒い霧。
コルニア全体に漂う黒い靄。
この姿になるまで、俺には見えていなかったモノ。
否、気づいていなかったモノ。
こんなに身近に存在していた物だったとは。
その靄は確かに存在していた。
コルニアの空気に、大地に、その奥に。
しかも、時空間結界のむこうから、じくじくと滲み出てくるその悪素の存在。
一度認識してしまうと、吐き気を及ぼすほどの醜悪さを感じてしまう、その汚れ感。
世界樹の土石素はその汚れをシュワシュワと払いながら、規模を増していく。
俺の素体も役に立っているのだろう。
大地の奥深くに感じていた悪素が綺麗に消滅していく。
コルニアを覆う悪素がかなりのスピードで浄化されていくのを感じている。
「……ーキ、…ユーキ」
レスリーの声が聞こえる。
「やあ、レスリー、何だか、すごい事になっているよ」
「おお、やはりそなたか、ユーキ。驚いたぞ。この土石素の奔流はそなたが源であったか」
レスカリウスの意識が俺に伝わる。
それを不思議と思わない俺。
「どうなったんだが分からない。とにかくここにある、テネアに枝を預けたこの世界樹が、俺の土石素を引っ張ったんだよ」
俺にも分からない。
悪素を浄化せしめんとする力の顕現。
それをさせたのはこの世界樹だ。
俺のみの力じゃない。
俺は自分の中の素体の力を、世界樹の素体の流れに合わせただけなのだ。
「そなたが触れているその世界樹の力の大きさが我にも分かるぞ、他の樹とは少々格が違う様だ」
そうだろう。
それは俺にも分かる。
この世界樹は他の樹と違う。
規格外の力なのだ。
いくら世界樹と云えども、ここまでの力は他の樹にはない。
だが、それでも足りない。
連鎖的に広がりを見せた土石素の範囲。
世界樹達から感じる土石素は次々と動き出し、浄化の範囲を広げていた。
コルニア全ての世界樹が目覚めたと言っていいだろう。
そして、全ての世界樹が目覚めたところで、それ以上の土石素の放出はなく、コルニアの中心に一定の力となって留まっている。
コルニア全土をカバーさせるには後もう少しの所で、浄化の力は留まっているのだ。
「レスリーあなたは、まだ魔力が高まるかい?」
俺は白銀龍の状態を確認する。
「可能だが、これ以上魔力を高めても、我の力はここまでだ。そなたは、今以上の浄化作用を求めておるのだろうが、今の我は一本の世界樹にすぎぬ。浄化作用の範囲は限られるぞ」
そうか、レスリーの感覚だと、ここにある一般的な一本の世界樹と変わらないのか。
言われれば、もっともだな。
一本の世界樹が移動できたとしても、残りの範囲をカバーすることは不可能だ。
だが、と思う。
俺が自分自身に感じ持つ感覚は少々違う。
俺は単なる一本の樹ではない。
きっと俺の進化は止まらない。
ならばやってみよう。
俺の限界を試してやる。
俺の力はさらに上がっていく。
俺の力は目の前の世界樹を通して、さらに膨らんでいく。
常盤色の線となり、流れとなり、素体の奔流が、周りの木々に伝播していく。
俺の体から、そして俺が触れている世界樹から、渾然一体となった土属性の素体が世界樹林を覆っていく。
「こ、これは……、ユーキ、そなたの力が我の力を押し上げているのか……こんな事が……おお、素体が繋がり広がって行く…」
その現象は世界樹林に留まらず、なお一層濃い常盤色となって、コルニアの大地に広がっていく。
伝播の受け渡しは世界樹林内だけに留まらない。
草や木や鳥や獣が、虫や魚や、岩や水にまで、土石素は入り込み、そこにある悪素を浄化し、さらに次のエリアに素体を飛ばす。
コルニアの大地と海と空がそこにある全てのモノが土属性色に染め上げられていった。
悪素は消えていく。
コルニアの表と裏に隠れこむ強毒性の悪毒が、世界樹の持つ強力な浄化作用によって、霧散するように消えていく。
緑の惑星リテラ。
その片鱗が今、コルニアに再現されている。
常盤色の大地コルニア。
世界樹達が喜んでいるようだ。
コルニアから悪素が消える。
コルニアにある全てのモノから悪毒が消える。
悪素の消滅を大気が感じる。
大地が感じる。
海が感じる。
俺が感じる。
皆が感じる。
悪素の存在しない環境。
この環境こそ、リテラ本来の形だったのだ。
俺に満足感とやり遂げた感が広がる。
良かったな、皆。
もう大丈夫。
そして気の遠くなるような長い長い時間を掛け、ゆっくり、ゆっくりとコルニアの結界内に溜まったた悪素は、その悪素が内包する悪毒を含めて、あらゆる物から完全に消滅したのだった。
俺はコルニアから悪素の存在が消えた事を把握すると、自分の中にある土石素へのイメージを取り下げた。
レスカリウスも土属性への力を収めたようだ。
静かに力が抜けていく。
自分の常態の変化を感じつつ、時空間結界へ飛んでいる土石素へと意識を飛ばす。
俺を中心とした素体の奔流は、カイラルプスの時空間結界にまで食い込んで、そして静かに消えていっているようだ。
上出来だ。
上出来。
これ以上の事は恐らく誰にも出来まい。
俺は気持ちを落ち着かせる。
一連の出来事で、世界樹達の素体も多少強化されたはずだ。
これで暫くは安泰だろう。
あの老樹も寿命をまっとうしてほしい。
条件は整えられたのだから、まっとう出来るさ。
俺は気持ちを切り替えて、まだ十分に光り輝いている世界樹に手を置いたまま、世界樹の主に語りかける。
「ここに来た甲斐があったよ。コルニアもあんたらも当分これで大丈夫だな。これで心残すことはない。ありがとう。あんたらも、長生きしてくれよ」
「ユーキ、すごかった」
「やっぱり王様は違うのです」
「皆、元気になっちゃった。ユーキすごいよ、サフィもビックリ」
傍に寄って来る三精霊ズが微笑ましい。
上手いったんだよな。
三精霊ズを見ながらしみじみ思う。
コルニアに来た俺の存在価値もあったというモノだ。
他人から必要とされるって素晴らしい。
殊勝な気持ちになって来る。
ああ、満足だ。
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次回サブタイトル予告です。
~副産物~
お楽しみに。




