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精霊星の物語 ~精霊島の物語~  作者: uki yoe
第一部 精霊島の物語
2/65

プロローグ

コルニアの朝に精霊達が一匹の龍と話をしている。


龍の体は鮮やかな白銀色の鱗に覆われ、その姿に穢れのような薄汚さはまったく感じられない。

生きているというのに、生物的の持つ汚れ感を感じさせないのだ。

白く輝く翼は大きい。

瞳は黒いが、瞳孔の周りの光彩部分は白い。


「どうした、お前たち」


そう問いかける白銀の龍。

問われる先にいるのは、(もや)がかった三つの精霊体。


「何かおかしいです」

「今日は朝からそわそわするね」

「落ち着かない、感じ」


この星に司る形を持たぬ精霊。

素体の集合体。

そのうちの一体が不思議そうに空を舞い、そのうち二体が龍の頭に近づいた。


「やっぱりおかしいのです。あちらから何かザワザワしたものを感じます」

「サフィも感じるよ。これは多分ビボック山の方」

「これは、この感じは嫌じゃ、ない。この感じは何、かしら」


白銀龍は遠き山を見やりながら、平穏な気配を払しょくする物が存在(ある)のかどうか探りを入れる。


「我には何も感じぬ。何かが起きるとでも言うのか」

「分からないです」

「分かんなーい」

「ザワザワ、するだけ……そわそわ……わくわく……?」

!?

「わくわくだと!お前達どうした。何かが起こる前触れであろうか。我には何も感じぬぞ。むう、何事か。このような事がこれまでにあったろうか」


不安の思いを口にした龍。


「大丈夫です、レスリー」

「私達、この感じ嫌じゃないな」

「知っているかも、知れない」


立ち上がる白銀龍に精霊は諭す。


「これ、王様の力、かも」

「似ているね」

「多分そうです」

「……王だと…だが、我には感じぬぞ」


日の光を浴びる白銀の体。

その姿は神々しい。

精霊体が付き従うように空を舞う。


龍はその鋭い眼光をコルニアの中央部、三つに連なる山の方へ向けたまま離さない。

何が起きると言うのか。


――行って見ねばなるまい――


「お前達、ここでじっとしている訳には参るまい。彼の王であるのかどうか確かめねばならん。仮に、王であるなら出迎えねばならんだろう。とは言え、我にはお前達の感じる原因がつかめておらん。お前達の思うところへ案内しろ。さあ行くぞ。まずは中央三山へ向かえばよいな」


龍はそう告げると大翼を広げ、ゆっくりとした動作で上昇し、大地を後にする。




動き出す、断崖の大地コルニア。

一匹の龍と三つの精霊体。

目覚めの出会いは間もなく訪れる。

一人の人族、青年との出会い。


この大地はこれから新たな局面を迎える。


龍と精霊が向かう先。

彼との出会いは、もう間もなく。

よそ見はしないで……。

今、そこに……。


『精霊星の物語』


………始まりです。



――――――――――――――――――――――――――――――



ピチャン ピチャンと音がする。

天井から水が滴となって落ちてくる音。

真っ暗闇のその闇の、さらに深い闇の中。

気が付けば青年はそこにいた。


振り向いても前を向いても、闇は闇。

不思議なことに彼の目には闇の中の全ての物が見えていた。


何故、闇の中で目が見えているのか。

何故、目が見えているのに、暗闇の中にいると思うのか。

何故か分からず、

青年はただそこにいた。


ピチャン ピチャンと音がする。

天上から落ちてくる水滴は止まることを知らない。


巨大な鍾乳石の柱が、見上げる遥か頭上からパイプオルガンのように並び落ち、荘厳な姿を見せている。

絶え間なく落ちて来る水滴は、足元に清冽な水の流れを生み、静かな空間内に小さな流れの音を響かせていた。


暗闇の中、青年はそこが途方もなく大きい洞窟内だと気が付いた。



ここはいったいどこだろう。

目の前に広がる未知の大空間を前にして、青年は危機感とは真逆の安心感を持っていた。

先ほどまで感じていた深い闇への恐怖感は既にない。

真っ暗闇の中だというのに、自分の中から緊張感が出てこない。

清々しさを感じる大気の中に、危険な香りは感じない。

生き物の気配はない。

水は静かに流れている。

このまま、水の流れの方向へ進めばいいのか。このまま、前に進んでいけばいいのか。


青年は暫く立ち止まり、周りを見ながら己の立つその場所を知ろうとする。


青年は知らない。

彼の住んでいた星とは異なる星に来てしまっていることを。

青年は知る術を知らない。

精霊王カイラルプスが創り上げた、彼にのみ反応する時空間回廊を、ほぼ無意識のうちに利用してここへ来た事を。

青年は知らない。

彼が洞窟内に現れた時、ロストランドに生を持つ、生きとし生けるものの全てが、彼の存在に気付いた事を。


青年の顕現。

全てはこの場所から始まった。

洞窟内の行き止まりであろうその場所は、彼がこの世界で生きていく事となった、その全ての始まりの場所であった。



そして彼と星の物語は幕を開ける。



――――――――――――――――――――――――――――――




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