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精霊星の物語 ~精霊島の物語~  作者: uki yoe
第一部 精霊島の物語
16/65

老樹の風格

「この辺りでいいだろう」


緑の波に呑まれた俺達にレスカリウスがそう告げた場所は、林と呼称すべきエリアではなかった。


林じゃない。

断じて林じゃない。

こんなジャングルな林があっていいものか。

何て言うんだっけ?言い方があったはずだ。

そうだ、樹叢(じゅそう)だ。

人の手が入らぬ自然林。

この場所は超・広域広範囲な世界樹叢地域とでも呼ぶべきだ。

まさしくこの場所だけの世界樹叢。

こんな場所、ほかに幾つもあっていい訳がない

他人が認めても俺が認めない。

理不尽な場所だ。


空から世界樹の林を見とめた時、世界樹の周りにはうっそうとした立木がならんでいた。

世界樹の樹下に生きる数多の植物。

様々な樹種の木々。

俺には名前はわからないのだが、どの木々も立派だ。

決して世界樹とは呼ばれる樹ではない。

それでも軽く30m以上の高さを持つ木々もある。

普通の樹木ではあってもかなり大きい。

昔、幼いころに見た、カシやケヤキの木に似ているように見える。

これら木々も相当な年数が経っているのだろう。

自然の造形の妙とでも言うべきか。

奇妙に折れ曲がっている物もあれば、幾株にも別れている幹が、それでも一本の巨木となって鎮座している木も見える。


そしてその奥、それら樹齢数百年単位の木々を圧倒するかのようにそびえ立つ、世界樹と呼ばれる巨木群。


世界樹は別格だ。

大きさがまるで違う。

世界樹は一本で一つの小山のようだった。

幹回りは最大の物で80m近くもあるのではなかろうか。

地面から見上げていると、気持ちが悪くなるほどの巨大さを感じる。


「大きいだろう」

「大きいですね」


いやいや、デカすぎやしないか?これ。

気配は清々しいけど。


「何のために、こんなに大きくなる必要があったんでしょうね?」

「愚問だ」


そうですね。

口に出してから自分でもそう思った。

何故、生きる必要があるのか。

答えは簡単、そこに命があるからだ。

それが理なのだ。

摂理なのだ。

それ以上でも以下でもない。

世界樹はただ生まれ、生き抜いてて来ただけだ。

それでこんなに大きくなったのだ。

このコルニアでの環境の中、生き残るためにこんなに大きくなったのだ。

正しい理由があるとすれば、きっとそんな理由でほぼ正解なのだ。


まあ、そうは言っても大きいよね。

周りの木、何で枯れていないんだ?

改めて小山のような巨木を見上げる。

外界の大地では世界樹は一本しか存在しないと言う。

この大樹が外界に一本しか無いのならば、その樹がエルフ族の聖樹となって信仰の対象となっていると言うもの頷ける。

清々しさの中にも威厳があるのだ。

コルニアの歴史と共にここに立つ巨木群。


どこか、この星の歴史の重みさえも感じはしないだろうか。




世界樹林の起源はおよそこの星、リテラ創世の歴史と匹敵するとレスカリウスは言う。

この星に生命が誕生した原始の頃からの生き残りなのだ。

土属性の素体を持ち、世界の名を冠に持つ樹。

世界樹。

癒しの効果を持つ成分を揮発し続け、その葉一枚で、失われつつある命を現世に繋ぎとめる力があると言う。

その枝一本を身に置けば、その効果は大傷にも万病にも効くらしい。

薬としての効果だけではない。

葉や枝は優良な食料にもなる。

太古、リテラの大地に寒波が襲い多くの命が失われようとした時、ここにある世界樹は多くの命を救った。

6000万年前の悪災発生時、精霊王カイラルプスはこの世界樹林の希少性を相当意識したらしい。

当時であってもこの世界樹林は聖地でもあったのだ。


現代においてはエルフ族の国、エルフ小国において国の聖樹とされているたった一本の世界樹がその役目を負っている。

この星にとって、世界樹は聖なる樹でもあったのだ。

エルフ小国に住まうエルフ達の拠り所。

癒しの聖樹。

土石素や水素の素体を持つ彼らエルフ族は、世界樹から採取できる素材と自分の持つ属性魔法を組み合わせて、ヒーリング等に使われる生薬を生成しているらしい。

枝を所持しているだけでも体力の回復が図れるのだ。

薬として特化させた世界樹の製剤効果はきっと相当なものだろう。

エルフ達はその世界樹を一寸の無駄もなく有効に利用している。

結果として、人族が欲望のままに利用するより、そういった利用のされ方が世界樹にとっては良かったのだ。

エルフの国にたった一本の世界樹があるとは、適材適所、うまいこといっているものだと思う。



「あの樹はね、コロニアが結界で覆われる前に雷に打たれて燃えたんだって、雷属性の精霊があの樹の上でくしゃみをしたんだよ。だから今でも全体が黒いんだよ」

「向こうに見える樹の下には、清水が湧き出ているのです。私はあの樹の下で生まれました。動物たちが集まる場にもなってにぎやかな所なのです。」

「あの樹からユーキに枝を持って来た。あの樹が、テネアに持っていけ、って言ったの」


三精霊ズが樹にまつわる話しをしてくれる。


「サフィ、くしゃみ一発、ぴきぴきドカンって、雷属性の精霊様ってのもやるもんだね」

「ラーン、君はあそこで生まれたのか、おめでとう。その瞬間に立ち会ってみたかったよ」

「テネア、この枝は俺が使っていた馴染みの道具に似ていて、とても気に入っているんだ。ありがとう」


彼女らの話は聞いていて楽しい。

これだけ数多くの世界樹があれば、話題には事欠かないだろう。

数々の物語や伝説の一つや二つ、あっても全然おかしくない。

むしろ、その伝説を語れる者がここにいる精霊ズと白銀龍しかいないのが残念だ。

ラーンの生まれは兎も角、サフィのくしゃみ一発って話しには風情かけらもあったものじゃない。

せっかくの希少な世界樹林が泣いているぞ


よし、ならばここは俺が新たな伝説を打ち立てていってやろうか。

俺がこの地を去った後、いつか訪れるであろうこの地に来る新たな者に精霊ズか言うのだ。


「昔むかしコルニアに、ユーキという精霊人が現れて……」


とか。

いいね、いいねぇ。

伝説が俺か、いや、俺が伝説か。

いやー鼻が高い。


「何をするつもりだ?」

「精霊人ユーキ、ここに参上って」

「………」

「冗談ですよ、冗談。ツリーハウスなんかもいいかなあなんて……冗談ですよ、冗談……」


世界樹の幹に傷をつけて、ここに来た証をたてておこうかなとか、こんな樹にツリーハウスが造れたらカッコいいだろうな、などと思っていたら白銀龍に咎められそうになった。

分かっていますよ。

ちょっと思ってしまっただけです。

そんな事を本当にやったら、別の伝説になってしまう。


「むかーし昔、コルニアに、お馬鹿なユーキが現れて……」


とか。

このセリフはサフィだな。

イタすぎる。

理想と現実は違うとはいえ、冗談もほどほどにしておこう。



レスカリウスと俺達は、悪素によって弱っているという、(くだん)の老木がある場所へ向かっている。

世界樹林へ突入する際に感じた、雑多な雰囲気は影を潜め、世界樹の足元に目立つ木立は多くない。

レスカリウスは巨木の間を流れるように、先を歩いている。

世界樹自身の根上りなどに気を付けてさえいれば、歩いての移動にそう難しくはないのだ。

龍と精霊と俺、伝説の樹の下で一緒になって連れ歩くシチュエーション。

俺は今、伝説の中の一コマにいる。


『大きな樹の樹の下で、レスリーと俺ら、仲良く歩きましょ、大きな樹の樹の下で』


鼻歌も出るってもんだ。


『大きな世界樹の樹の下で、ユーキと私、楽しく遊びましょ・遊ぼう、ね・遊ぶです、大きな世界樹の樹の下でー』


精霊達が真似をして歌ってくる。

俺より上手いな。

でも、「遊びましょ」って、ここはカイラルプスが守り抜いた聖地だぞ。

そんな神聖な所で鬼ごっことかして、遊んでいいのか?

こんな神聖な場所で隠れんぼとか、やっていいのか?

もういいかい?「もういいよ」って答えてたら「悪い子はいねがー、罰があたりはいねがー」と刃物を持った鬼が出てきたり、隠れたら最後、見つけてもらえずに、神隠しにでも遭ったりしたらどうしてくれよう。

異世界に来て、さらに異世界とか……洒落にならん。


それにしてもこんなに大きな樹の下にある、つる草を含めたシバは何故、成長していけるのだろう。

世界樹の周りに生えている草木があまり枯れていない理由はなんなのだろう。

これも精霊力の源、素体と何かしらの関係があるのだろうか?

それともこの世界樹達から溢れだす、癒しの力が関係しているのだろうか。


「両方だ」


と俺の独り言に反応してくれたレスカリウスの歩みが止まる。

目の前に現れた老樹。

その姿は圧巻であった。

これまでに見て来た世界樹とは、似ても似つかない異様な姿をした姿形。

この樹も世界樹なのか?

こんな形であっても世界樹であると言うのか。

いささかの疑問が頭をかすめる。

それは正に異形だった。

キングオフキング、世界樹の中の世界樹。

傷を負いながらも先頭に立ち続け、尚、皆を守っている体を張った王様の風貌だ。

枝の羽振りは恐ろしいほどに発達し、天へ向かって今なお伸びようとしている枝もある。

それは巨大な幹から、所狭しと伸びい出る怪物の腕や足の様にも見えるのだ。

だがその枝も天にまで届かせ、その責務は果たしているものは数本と残っていない。

そのほとんどが途中で折れ、曲がりくねった枝は力尽きるように割れている。

世界樹にとって自慢であったろう青々とした葉も、ほとんど見受けられない。

傷つき、倒れそうになりながらも大地に踏みとどまり、俺はまだ生き続けるのだと仁王立ちする、年老いた老王の姿がそこに在った。




悪素は届く。

ゆっくりと、だが、確実に。

じわじわと、その悪素が土壌を犯す。

世界樹達の清浄作用能力を超すほどに。

情け容赦なくコルニアの土壌を犯す。


世界樹は悪素に侵された土壌に反応した。

この老樹は悪素の影響を受けてしまったのだ。

悪素による土壌の変化に対応しきれなかったのだ。

樹齢。

もしかしたらそれは、年老いた世界樹の宿命であったのかも知れない。

どんなに長い寿命を持つ長寿な樹であったとしても、寿命と言う自然の摂理はあるものだ。

たまたまその寿命が今、だったのかも知れない。

それでも、である。

この老樹は生きようとしているのだ。


「悪素に侵された土壌でなければ、私の寿命はまだ先なのだ」


と、この世界樹は語っている。

俺にはそう感じた。

そうだろ、世界樹。


「カイラルプスの時空間結界に緩みが生じ始めている。そのせいで悪素の伝播が強くなっているのだ」


レスカリウスは老樹を前に、うめくようにつぶやいた。


「いずれ、この大地に存在する世界樹の全てが、この老樹と同じ運命を辿ることになるやも知れぬ。もっとも、今すぐの話ではない。仮に、その事態が現実として起こりうるとしても、それは我がこの世に生を受けた日々と同じほどの月日が経った、まだ暫く先の話ではあるだろう」



――――――――――――――――――――――――――――――



次回サブタイトル予告です。

~土壌~

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