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精霊星の物語 ~精霊島の物語~  作者: uki yoe
第一部 精霊島の物語
13/65

精霊晶

「なあ、レスリー」


俺はドラゴンを愛称で呼んでみる。

怒るかな?ちょっとドキドキ。

怒らないでね。


「何だ?」


大丈夫。

怒られていない。


「あなたはどうやって、コルニアを囲っている結界を通り抜けているんです?」


そう、この疑問。

こればかりはどう考えてもよく分からなかった。

精霊王でなければこの大地を囲む時空間結界は、通り抜けられないのではなかったか。

以前レスカリウスは、精霊王カイラルプスの意識体に導かれてこの大地にやって来たとも言っていた。

それはどういう事だったのだろう。

コルニアの結界の向こう側、外界と呼ぶ場所にレスカリウスは出入りしている。

その事実を俺は知っている。

この大地の向こう側に何があるのか、この大地の向こう側で白銀龍が何をしているのか、知りたい気持ちはあるが、まずはそれを抑えてこのドラゴンがどうやってコルニアの結界を出入りしているのかを聞いてみたかった。


時空間魔法と白銀龍レスカリウス。

コルニアを囲む精霊王オリジナルの時空間結界。

俺が地球に戻る時の参考になる事柄にも通じる話かも知れない。

自分の為にも一応、聞いておかなければならない。


龍の瞳が俺を捉える。


「この結界の内と外とを行き来出来ている理由か。そなたには教えても構わないだろう。我はカイラルプスの力を帯びた精霊晶を呑み込んでおるのだ」


答えは少し間が空いてから返ってきた。

初めて聞く言葉があった。


「精霊晶を呑み込んでいる?」


精霊晶とは何ぞや。


「我が呑み込んだのは、カイラルプスより授かりし、彼の王自身が生んだ精霊晶だ」


だから、精霊晶って何?


「ちょっと待って下さい。精霊晶ってなにか宝石みたいな物なんでしょうか?」

「宝珠だ。精霊がその力を過大に使っていると、稀に結晶が生成される。精霊王カイラルプスも然りだ。そなたはともかく、我に精霊晶は生成できぬ。精霊でなければ決して生まれてこぬものなのだ。故に、宝珠。ユーキよ、そなたでなければ、この話はしておらん」


精霊って宝石みたいなモノまで創ってしまうのかな……そう言葉に出したら『宝珠だ』って突っ込まれそうな勢いだけど……ただ、それだけ精霊晶の価値は高いものらしい。

しかも、レスカリウスが呑み込んでいるという精霊晶なる物体は、かの精霊王カイラルプスから出てきたものなのだそうだ。

そりゃ希少価値も高いだろう。


「精霊晶はそれを生み出した精霊と同じ属性の力を帯びている。素体の塊に近いものだ」

「なるほど。つまり、カイラスプスの精霊晶を持っていれば、精霊王と同じ力が使えるのですね」

「概ね間違ってはおらん。だが、精霊王とまったく同じ力というものではない」


ちょっと結論を急ぎすぎたか?


「確かに精霊晶はそれを生んだ精霊の属性を帯びている。だが、精霊晶は素体そのものとは違うのだ。精霊晶を源に魔法は使えぬ。素体を持たぬ者が精霊晶を持っていても、決して魔法は使えないのだ」


どういうことだ?

精霊晶を持っていても素無し者には宝の持ち腐れ、と言うのであれば、レスカリウスがカイラルプスの精霊晶を持っているからと言って、結界を通り抜けられる理由にはならないではないか。


「では、カイラルプスの精霊晶が特別という事なのでしょうか」


白銀龍レスカリウスは11属性の持ち主である精霊王ではないのだ。

にも関わらず、結界を越え、外界と内界とを行き来している。

カイラルプスの結界は、カイラルプスでしか通り抜けられないという前提が崩れてしまう。

おかしいではないか。

カイラルプスの精霊晶が特別製でなければ何なのだ。


「精霊晶の価値は、己の素体を透して、別の属性魔法を発現させる事が出来るという事にある」

「えっ?」


何ですと?そりゃすごい。

素体持ちの素体が仮に風属性であった場合、火属性の精霊晶を持っていれば火属性の魔法も使えるということか。


「一つでも魔法が使える者なら、誰もが11属性の魔法を使えるようになるという事ですか」

「理屈ではそうだ。それが精霊晶の最も価値のある使用方法でもある」


おおー。

なるほど。


レスカリウスは続ける。


「精霊晶は通常二つ同時には使えぬ。精霊達の波長が違うのだ。無理に使おうとすれば、己の素体が侵される。カイラルプスの精霊晶が他と違うと言うならば、その弊害が出ないと言う所にもあるとも言えよう」


白銀龍はそう言うと、白く輝く巨体をさらに輝かせる動きを見せ話を続けた。


「この精霊晶はカイラルプス本人の波長を有している。このような精霊晶は他にない。11属性の黄金則を纏った唯一無二の精霊晶。それがこの宝珠だ」


俺とレスカリウスの間に小さな箱が現れた。

レスカリウスが空間魔法を発動させているようだ。


「この精霊晶を用いて、我はコルニアの結界を越えている。この宝珠が無ければ、我はこの大地に来ることさえ叶わぬ。見るがいい」


白銀龍と俺の間に現れた一つの箱。

見えない台の上にでもあるかのように、しっかり浮いている。

この中に精霊晶があると言うのか。

俺の目の前に来る精霊晶入りの箱。

手に届く所まで来てその動きは止まった。


カチャリといった音もせず、ゆっくりとその箱の蓋が外れていく。

俺は目を凝らした。


「この精霊晶は我がこの地に降りた時、カイラルプス王その人より、賜った物だ」


きらきらと輝く人の握りこぶし大ほどの結晶体。

そこには8色に輝く宝珠があった。


黄金則を宿した精霊晶。

「この精霊晶は、この星の宝だろう」とレスカリウスは俺に告げた。



――――――――――――――――――――――――――――――



黄金則を持った精霊晶の色。

素体分けの色。


8色。


これは俺が当初予想していた6色の素体分けより若干多い色だった事になる。

だがこの瞬間、俺にはこれでかなりの物が見えて来ていた。


赤色系

黄色系

緑色系

青色系

紫色系

白色系


ここまでは正解。

間違った色は使用していない。

ただこのうち、赤系色と青系色がそれぞれもう1色ずつ多かった。

俺の想像した色が青と赤だけ、1色ずつ足りなかったと言うべきかも知れない。

赤系が2色、青系が2色の計4色だったのだ。


6色ではなく、8色。

赤は赤でも鮮やかな赤と橙色の入った2色の赤。

緋色と飴色といった具合。

青系であれば、ラーンとサフィで想像していた通り、緑色を含んだ藍色と深い青の紺青色の2色。

といった具合である。

ここまで分かれば後は、これらの色に各素体を合わせてみるだけでいいだろう。

恐らく、さほど問題なくイメージ通りの色が当てはまるはずだ。


八色に輝く精霊王カイラスプスの精霊晶宝珠。

色の発色が固定されずにキラキラと移動している。

八色はまるで生きているかのように形を変え、場所を変え、明るさを変えている。

カイラルプスの波長のせいなのだろうか。

その変化はゆっくりで、眺めていて飽きがこない。


その昔、レスカリウスがコルニアを覆っている時空間結界を通り抜けようとした時に、この精霊晶はこつ然と目の前に現れたと言う。


「この精霊晶が現れなければ、何の障害もなく結界を通り抜ける事は叶わなかった」


その当時はカイラルプスの意識体はまだ存在していたはずだ。


「その時は、カイラルプスがこの精霊晶をよこしたという事でしょうか」

「そうだ。意識体であったカイラルプスがこの精霊晶をよこし、結界の道に我を導いたのだ。我はこの宝珠に導かれ、墓に浮かぶカイラルプスの意識体に出会ったのだ」




――――――――――


通り抜ける事の出来ない強固な結界の前で、レスカリウスの前にこつ然と現れた8色に輝く精霊晶。

その輝きに導かれるように結界を潜り抜け、コルニアの空に大翼を舞わせた一匹の龍。

レスカリウスは精霊晶のその動きに導かれるようにコルニア内の空を飛び、カイラルプスの墓標上までやって来た。

そこに佇み、龍を見上げた意識体の精霊王。

鱗を白く輝かせ、カイラルプスの前に舞い降りる白銀龍。


――――――――――


その時の光景が目に思い浮かぶようだ。




「そしてその時に、カイラルプスからこの精霊晶を受け取られたと言う訳ですか」


白銀龍は大きくうなずいた。


「あの時、彼の王は、我のような存在を待っていたと我に意識を伝えてきた」


カイラルプスは何千年もいや、何万年もこの龍を待っていたのだ。

何故、精霊王は意識体になってまで、そんな気の遠くなる時間を待っていたのだろうか。

そこまでしなければならなかった状況って一体なんだったんだろう。

理由がある?

どんな?

そこまでの理由ってどれほどのモノなんだ?


あ、ちょっと待て、なんだかまずい。

これ以上は首をつっこまないほうがいい。

聴いてはいけない理由のような気がしてきた。


「何故、我を待っていたのか詳しくは我にもわからん。だが、彼の王は我のような者を待っていたと言っていた」


俺の思いを他所に、レスカリウスは話を続ける。


「額面通りに捉えてよいならば、彼の王が待っていた者は我ではなかったのであろう。言葉は悪いが、我でなくとも良かったのだ。だが、あの時カイラルプスにとっては、確かに我しかいなかったのだろう」


気が付くとテネアやラーン、そしてサフィまでもが、この話を真剣に聴いているようだった。


「あの時、黄金則を持たぬ我をみて、カイラルプスは少し気を落していたようにも見えた。だが、我が闇の種族との共存に嫌気をさしたドラゴンであると知って、安心したとも言っていた。……精霊王とは意識体となってもまだ、そのような感覚があるのかと我は驚いたものだ。彼の王は我の意を汲み笑っておったな。……そして彼の王は次代を担う精霊王が現れると、我にお主のような存在が現れるであろう事を予言し、その者を頼むと、この精霊晶を我に託したのだ」


一呼吸した後に、白銀龍は言葉を結んだ。


「カイラルプスが本当に待っていた者がいたとするならば、それはそなたであったと我は思うぞ」


聞いちまった……。

重いよ。

俺に何を期待した。

偉大なる精霊王。

話を聞いてしまったじゃないか。


無邪気に輝いて見える精霊晶を前に、俺はただ黙している。


この輝きの無垢さは何だろう。


精霊晶は何も語らない。



~~~~~


コルニアの大地に風が吹く。

風が草葉を揺らし行く。

精霊サフィーが風となる。

風に吹かれて晶がある。

風の音色が梢に触れる。

揺れた梢に風を見る。


精霊達が空を舞う。

コルニアの風に空を舞う。


精霊ラーンが歌を詠む。

精霊テネアが唄い出す。

歌の調べは旋律に。

静かな調べは福音に。

空と大地に祝福を。

刻と命に祝福を。


貴方と私に祝福を。


~~~~~


大地は何も語らない。

精霊晶も語らない。




俺は目を閉じ、深呼吸をしてからカイラスプスに思いを馳せた。

精霊晶に何を託した、精霊王。

お前は俺に、何を伝えたかったのだ?


俺だったのか?

でも、おカイラルプスは俺に会えなかった。

でも、お前(精霊晶)は俺に出会った。


精霊晶は俺の視線を受け止める。

精霊晶に変化はない。


触ってみてもいいだろうか。

レスカリウスに許可を得て、俺は八色に輝く精霊晶に手を伸ばす。


消えゆくように歌は止み、精霊達は俺の一挙手一投足を見守った。




ひんやりと冷たい精霊晶宝珠。

白銀龍の空間魔法の力を離れ、俺の手の平に荷重がかかる。

キラキラと色を変え、表情を変える精霊晶。

まるで生きているかのようだ。

吸い込まれるように光の動きを見つめる三精霊と俺。


「綺麗な色」


誰の声ともなく、言葉が漏れる。

暫くの間、飽きもせず眺めている。


と、次第にその光の力が失せていき、何じゃ?と思う間もなく、ふっと消えた。

消…えっ?


ふぇっ?

え?


あっけにとられ、目をむく俺とテネア。

ラーンとサフィも驚いているようだ。

消えた?

あわててレスカリウスを見上げると、レスカリウスの目も点になっていた。

俺以上に目を見開いている白銀龍。

鼻の孔も広がっているよ。

ドラゴンの驚き顔。

思わず笑いそうになった。


だがレスカリウスにとっても想定外の現象に、俺はやってしまった感がぬぐえない。


ん?

精霊晶からなにかが俺に流れた?

一瞬の事で、気のせいかどうかも分からない。


色を失った精霊晶を疑い深くながめていると、また、ふっと光が戻ってきた。

!?


「戻った」


「戻った。ユーキ、色が戻ったよ」

「良かったです」

「ビックリしたね」


思わず皆が、声を上げていた。


「……戻ったな。……今、何があったのだ?」

「いや、俺もにも分からない。今のは、……なんだったんだろう」


そう言いながらやってしまった感たっぷりの気持ちを胸に秘め、レスカリウスに精霊晶を返すと、俺は改めて自分の身に変化が起きていないか確認してみた。

変わったところは何も無い。

気が付いたら、精霊晶、精霊箱はなくなっていた。

レスカリウスの空間魔法が働いたのだろう。

精霊晶にも問題は無いようだった。

あのまま色が戻らなかったらと思うと冷や汗が出る。

気を付けないと。

この世界、何が起こるか分からない。


でも、今のって、フラグだったんじゃないだろうか。

だとしたら何のフラグなんだろうね。

口に出したくない。

口に出したら、フラグって叶ってしまうんだよね。

追及は……しないほうがいい。

くわばら、くわばら。



――――――――――――――――――――――――――――――



次回サブタイトル予告です。

~素体での会話~

お楽しみに。

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