Story.02 ホンモノとマガイモノ ~side-R~
更新遅れましたたたたたたたた。
まこと申し訳ない……
少女を救けた日から2週間ほど経っただろうか、蘭は荒野のど真ん中でしゃがみこみ何かを探していた。
「クッソ……どこにあんだよ……」
彼が探しているのは【狭間の隙間】。つまり、【創世の道】の入り口である。入り口と言ってもその形態は中空に出来た裂け目で、ある場所を正しい方向から見なければ見付かりすらしないという代物であった。
「場所はこの辺のハズなんだが……」
もう一度言う、中空に出来た裂け目なのだ。
つまり、しゃがみこんで見付かるはずがないのだ、見上げるべきなのだ。
「あ゛ぁ……もうやだ………」
蘭が半ば諦めたように仰向けに倒れこむ。
すると必然的にその視線は上を向く。その目に映ったのは………影だった。
「ちょっ!!ちょちょちょっ!!!」
それも、人型の。
「あぁ……?」
「ど、どいて避けてぇぇぇぇ!!」
……結果から言うと、衝突は避けられた。
「っと、大丈夫か?」
「え、あ、ぇあと……は、はい、大丈夫です」
蘭が抱き留めるという形で。
「ってか、いつまで抱きしめちゃってんだよ」
「ん、あぁ、悪い悪い」
蘭が離すと彼女(おそらく)は5mほど飛び退いた。
「ったく、抱きしめるとかアンタまさかアッチの人か?」
「……はぁ?いや、ロリコンじゃねぇよ」
蘭の言葉に彼女は怪訝な顔をする。
「え、なんか変なこと言ったか?お前はまだまだロリの類いだと思うが」
「わかってねぇ……全ッ然わかってねぇよ……」
彼女は、大きく息を吸い込む。
「俺は!!女じゃねぇ!!!」
辺り一帯が静寂に包まれること約数秒。
「………可哀想に。自分の性別がわかっていないようだ」
「いや、マジだからな」
再び、静寂が訪れる。
「マジだからな」
「……マジなのか…」
そのまま2人は一通り自己紹介をした。
彼女、もとい彼の名は秋月 久遠。
この荒野には、あるものを探しにきていたらしい。
「鍵だよ」
「鍵……?」
久遠曰く、【創世の道】の鍵だよ、と。つまり、アレである。
「あぁ、これか?」
「……ん?んんん??」
久遠の反応があまり芳しくないので聞き返す。
「これか?」
「え、あぁ、それだけど……なんで持ってんの?」
「なんでってなぁ……俺が国王だから?」
三度、静寂がこの場を包む。
「アレ、名前言ったよな?」
「相崎……あ………」
「な?」
蘭が二度目に自己紹介を終え、あることに気付く。
「お前鍵探してるってことはさ、【狭間の隙間】の場所知ってんのか?」
「え、誰でも知ってるぞこの辺の奴なら」
言葉を失う。そして、今度は蘭が大きく息を吸い込む。
「さ、最初から誰かに聞きゃ良かったああああああああああああ!!!!!!」
「お、おう」
しばらく頭を抱えていた蘭であったが、意外とその復活は早かった。
そして、まるで王でもあるかのような(実際そうなのだが)態度をとりだす。
「で、いつまでジッとしてやがる?さっさと案内せんか」
「ちょま、なんで俺!?」
「お前しか居ないだろう」
「探せやっっ!!」
このような問答が続くこと十数分。ついに、久遠が折れた。
「んああぁぁあぁぁああ!!もういいわ!!案内だけだからな!?」
「最初からそう言ってればいいものを……」
時刻は陰刻7時。辺りはすでに暗くなり始めていた。
龍族としてはまだまだ視界は明るいのだが、人間には少々厳しいようだ。
「てかもう暗いし、明日でいいか?」
「む……まぁいいだろう、今日はここで寝るから明日の……そうだな、陽刻9時に来い」
久遠の表情が曇る。
「アンタまさか野宿か?」
「ん?そうだが?」
久遠はこの日何度目かも分からない溜め息をついた。
「うち、泊まれよ」
* * * * *
「さ、着いたぞ」
久遠の住む街は蘭が思っていたよりも、酷かった。
散らかっている、貧乏である、そんな理由ではない。この、死臭は……
「人間………?」
そう、人体の放つものだ。それはこれまで途方のない時間を生きてきた蘭でさえも、戦場以外では決して感じたことのないほどのものだった。
「あぁ、ここ最近流行っててさ」
「流行っている?何が?」
「アンタは本当に何も知らないんだな……」
久遠は上着を脱ぎ、その小さな背を蘭に向ける。
「これ、アンタなら分かるだろ?」
蘭に向き直った久遠の顔は悲嘆に満ちていた。
「翼、だよ。アンタら龍族の」
「な、なんで人間のお前に……」
久遠は順を追って全て話してみせた。
昔からこの荒野に住む人間に、極稀ではあるが龍族の翼が生えてしまうということ。そしてそれを【翼憑き】と呼んでいること。翼が生えた人間は18~25歳辺りになると突如豹変して周りの人を襲いだしてしまうこと。そして最後に、この数年でその数が激増していること。
「んで、ある日、こんなことを言った奴が居たんだ
『【翼憑き】は、殺せばいい』
『そうか、それなら未然に被害が抑えられる』
ってな」
勿論、俺は反対したさ、と久遠は続けた。
しかし、まだ小さい久遠の声は誰の耳にも届かなかった。否、誰もが目を背けていた。
「まぁ、その結果がこの有様だよ」
小さな街の一角に死臭の源はあった。それはただひたすらに深い穴。一体どのようにして掘ったのかすらわからない。
「少なくとも、人間には掘れない深さだな」
「あぁ、これは【翼憑き】がやったんだ」
久遠によると、【翼憑き】はその身体能力も龍族に近いものになるらしい。
「まさに、墓穴を掘るってとこか」
満足げな蘭に憤りを感じた久遠だったが、相手が相手なので引き下がった。
「そして、ここが俺の家だ」
「ほう……」
大穴から少し歩いた所に久遠の家は位置していた。故に、死臭が酷い。
「ゔぇ……臭いキッツ……」
「このくらい我慢してくれ」
軽く言い放つ久遠の嗅覚はもう死臭をほとんど認識していないのであろう。つまり、聴覚で言うとノイズのような感覚である。
「なぁ」
「なんだ?」
蘭はニヤリと、何かに気付いたような素振りを見せる。
「なんでお前は【翼憑き】なのに殺されてないんだ?」
「……街の惨状を見たろ。もうみんな死んだからだよ」
「ふぅん………?」
蘭は意味深な笑みを浮かべながらも既に寝床を見付け、寝ようとしていた。
「ちょっ、もう寝るのか?」
「ん?あぁ、明日は朝が早いからな」
じゃあ、おやすみ。と蘭は眠りに就いた。
これが、【龍王】と【翼憑き】の出会い。
………ね、遅い上に短い。
話の進行上仕方ないんだ許してくださいな。