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石榴の悲願  作者: 流架
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7≪時忘れの館≫―4

≪時忘れの館≫はこんなところです。


さらに新キャラが登場(笑)



グラスに並々入っていた水が零れたとして、そのこぼれた水を再びグラスに戻すのは難しい。


彼が―――殀芽が語ったのはつまりはそういうことだった。



「………どうしろって言うんだろう………」



ぽつりと呟いた深雪は、さらに場所を移動していた。

ルイ・ルナが「お客様ですから」とホテルのスイートルーム並の部屋を用意してくれた。実際のスイートルームなど泊まったことはないが、テレビで見たスイートルームなら知ってる。


「絶対に安全」だと言い切っていた≪時忘れの館≫だから、危害を加えられることは有り得ない。

しかし、館の中で迷うのは有り得るから気を付けてくれとは言われたが。だから散歩とかするなら庭にしておくといいとルイ・ルナから言われている。そのため、薄水色のフェアリーランプを二つ手渡された。


深雪は言われた通り、フェアリーランプに火―――ライターのような着火マンのような器具で―――を入れた。更にナイトテーブルを窓際に持っていき、その上に二つあるランプの一つを置く。

このフェアリーランプは≪時忘れの館≫の中での迷子防止の為に作られたモノらしい。慣れている存在(ルイ・ルナとか殀芽とか)は兎も角、慣れない深雪のような存在は十割の確率で迷子になるからと。


二つセットのフェアリーランプは、片方は戻る場所に、もう片方は自分で持っておけば、迷わずに片方がある場所に戻れるらしい。持ち運ぶにも手のひらサイズだし、何より花びらが重なったようなランプは可愛らしい。


その為、今はランプを持って≪時忘れの館≫の中を散歩中だ。

灯りがないわけではないが、ランプは火を入れないと効果が無いらしい。

それに、摩可不思議な≪時忘れの館≫の基本は深雪の感覚で言うバロックとかゴシックとか、中世ヨーロッパ貴族の館のイメージだ。しかし、外から見たときはコの字型だったが、実際中を歩くと無数の渡り廊下によって枝分かれしている。確かにコレは十割迷う。



「うわぁ………凄い」



ふらふらと≪時忘れの館≫の中から、庭へ降りる。この館はあちこちから庭へ降りる為の階段が設置されている。その階段を降りて、深雪は外に向かった。


≪時忘れの館≫の空は、薄闇の色をしていた。ぽつりぽつりと空に瞬く星に、人工的な灯りはほとんどないが、それでも狐火のような、つまりは火の玉のよーな灯りはある。幻想的を突き抜けて、≪時忘れの館≫のバロックな洋館と相まって相当不気味だ。窓に明かりがほとんどついてないので余計に。


しかし、やけに凝った外観の割には、庭はシンプルだ。いや、深雪が降りたところがシンプルなのか………ある種究極的。

ただひたすらに広がる草原。花や生垣もなく、道もない。目の前には丘や―――恐らく湖がある。明らかに池の大きさではない。


そよそよと吹く風に、草原が揺れる。さくさく歩みを進めると、余りにも果てがない。

まるで元風景。

現代日本ではお目にかかれないだろう光景にぼうっとしていると―――



「―――っ、うわわわわああああああっっっ!!?」



ばっしゃあああん!!



「………………」



明らかに不似合いな、誰かの悲鳴が聞こえた。多分男性で、恐らくは目の前にある湖に落ちたであろう音が。


取り敢えず溺れてたらヤバイと深雪は冷静に湖のどこかを目で探し始めたが、あっさり見付かった。自分の斜め左前、せっせと岸に向かって泳いでいる人影がいた。

明らかに不意討ちで―――何がどうなってこうなるのかは解らないが―――湖に落ちただろうに、冷静に泳げるとは。妙にあの不審人物を尊敬してしまう。


取り敢えず知らんぷりは出来ないなと歩いていたが、そうこうしているうちに不審人物は岸に辿り着いたらしい。



「―――はーっ、はーっ、はぁー………死ぬかと思った………」



普通ならいきなり湖に落ちた段階で溺れるだろう。

思わず突っ込みそうになった深雪だが、そこは堪えた。



「大丈夫ですか?」



「え?ああ、ハイ。大丈………」



あ、良かった言葉は通じてると安心した深雪だが、声を掛けられた不審人物はものの見事に固まった。

ぴたりと微動だにしない。

本当に大丈夫かと思ってもう一度声を掛けようかと思ったが――――――



「―――………嘘、ひづき、さん?」



何だか訳の解らない言葉が飛び出てきた。

深雪は眉をひそめつつ、取り敢えずスルーした。



「早く上がらないと風邪引きますよ」



「え?ああ、大丈夫。荷物あるし」



何がどうなって大丈夫?と思ったが、敢えて言わなかった。

不審人物は足だけ湖に入ったまま、自分の荷物らしい革製のカバンからよく使い込んだタオルらしき布を取り出してざっと水分を拭い始めた。


改めて見てみると、不審人物はかなりの美形だった。水の滴るなんとやらとは言うが、まさにそんな感じ。

全体的に、不審人物は精悍だが優しそうな雰囲気の青年だった。


年は多分、大学生くらいだと思う。いっても二十代半ばぐらいに見える。

金髪にも見えるが、やや暗い金茶の髪は少し長め。白い肌は男性にしてはきれいだが日に焼けており、健康的に見える。おそらく殀芽より高いだろう身長に、服の上からでも分かる鍛えられた体つき。男らしさは感じても武骨さはない。全体のバランスが、深雪の目から見てもいいのだ。

顔も、目鼻立ちにこれといった粗がない。どちらかというと優しげでちょっと甘めな顔だ。


ズボンにジャケット、アンダーシャツに、足元はブーツ。上にはケープのようなコートと革製の肩掛けカバンといった服装は確かにファンタジーっぽい。左腰にはやや長めの剣まで吊るしていた。



「えーっと、ごめん、幾つか質問してもいい?」



ざばっと水音を立て、彼が湖から上がり、水を払う為かジャケットを脱いで叩きだした。



「私が答えられることなら」



「ココ何処?」



「≪時忘れの館≫の庭かな」



「えええ!?オレそんなトコに落ちてきたの!?」



マジか!と叫びだす彼に深雪は質問を返してみた。



「貴方誰?私は深雪っていうんだけど………今は此処に保護されてる」



「ミユキ?ああ、オレはシン。シン・イラディレイト、一応普通の人間だから安心して」



彼―――シン・イラディレイトと言うらしい彼は、取り敢えずの水気を飛ばしたジャケットを羽織り、深いふかーいため息をついた。



「どうかしたの?それに、一応普通の人間ってどういう意味?」



「気にしないで、ちょっと自分の運の無さが嫌になっただけだから。一応は一応なんだよ。ちょこっとだけ体質が特殊なだけ」



それは普通とは言わないんじゃないだろうか。

そう思ったが、口には出さなかった。本人が好きに主張する分には構わないし、自分も"普通の女子高生"というカテゴリーからは外れているだろうから。


彼は一応普通というかあんまり目立たないことを目標に生きてます。

埋没しつつそこそこ生きていけたら良いなと思ってますが意外に逞しく図太く強かに生きてます。


取り敢えずこの物語の中では一番常識的かつ健全な精神を持ってます(笑)

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