6≪時忘れの館≫―3
長いです。
まだ説明がおわりませんが次ぐらいでひとまず説明は終わります。
深雪はぼーっとしていた。
ルイ・ルナやルビィ・リコリスとの会話で頭がショートしそうで、頭の中を整理したかったのだ。
新しくルイ・ルナに入れて貰ったお茶はふんわりと甘い花の香りがして、とても落ち着く。甘い花の香りはくどくてあまり好きではないのだが、鼻からすうっと抜けていく清涼感が清々しい。
(ああ………落ち着くなぁ………)
出来ることならこんな状況で味わいたくなかった。
ルビィ・リコリスはぺろりと山積みケーキを平らげ、今はお気に入りだと言うクッションですぴすぴと寝息を立てている。………本当に全部食べきるとは思わなかった。だって今は猫サイズだし。ケーキどこ行った。
ルイ・ルナ曰く、ルビィ・リコリスの嗜好品らしい。嗜好品とかゆうレベルではないだろうと言う突っ込みは華麗にスルーされた。
「悪い、待たせた」
のほほんとティータイムをしていたら、何故か可愛らしい花を抱えた彼が入ってきた。
若干顔は疲れているが、美形ゆえに物憂げな雰囲気に見える。本来男性には似合わないだろう可憐な花が似合うって………なんか女として負けた気がする。
「お帰りなさいませ、主にはお会いできましたか?」
「ああ、できた。それとコレ活けといてくれないか」
わさっとした花―――花束ではなく、適当に摘んだだけの花である。それをルイ・ルナに渡した彼は、そこで自分に目線を移した。
赤みがかった琥珀色に、どきりとする。
「いきなり混乱させて悪かったな。俺は殀芽―――≪石榴≫なんて名前で一応神とかやってる。此処の主に許可は取ったから、暫くゆっくり過ごしたら良い」
男らしくも色気のある容貌が優しく微笑むのは、中々凄まじい破壊力だった。
面食いではなかった筈だが、うっかりときめいてしまう。
深雪は基本的にミーハーな面もある。カッコいい人を見て目の保養をしたいというのは女の子共通の思考だと思う。
「深雪と言います。初めまして、あの、助けて頂いてありがとうございます」
思わずカップを置き、立ち上がって頭を下げる。
高校で剣道部に入っていたこと、礼儀には厳しい両親の下に育ったため、お礼はきっちりするように自分も心掛けている。
「気にしなくて良い、俺の仕事でもあるんだ」
彼はあっさり言うと、クッションの上ですぴすぴと寝るルビィ・リコリスに視線を移す。………若干肩が落ちたのは気のせいじゃないと思う。多分。
「あの、それで、私はどうなるんですか………?」
ルイ・ルナやルビスの説明を受けて、深雪の一番の疑問。
≪時忘れの館≫が、迷った魂の行き着く先だと言うのなら、私は。
「私は、死んだんですか」
真っ直ぐに彼を―――殀芽を見詰め、その言葉を吐き出した。
ルイ・ルナもルビィ・リコリスも断言はしなかったが、言っている事はそういうことだ。
誤魔化すな、という意味を込めて深雪は睨み付けるように殀芽を見る。
彼はがしがしと頭を掻いてから、どっかりと一人掛けのソファーに腰を下ろした。軽く身を投げ出すようにしてどさりと。
「―――死んじゃいないだろ」
「っ、じゃあ、」
私がいた世界に戻して、という前に手で制された。待て、と。
「ただ、元の生活に戻れるかどうかはわからん」
「………どういうことですか?」
殀芽はひとしきり唸った後、口を開いた。
深雪も座れと促されたので、さっきと同じ場所に座る。
「今、自分が魂だけの状態だってのはわかってんな?」
そういう殀芽だが、ソファーからまた身体を起こし、ルイ・ルナが置いていったカートを引き寄せた。
神様だとか言う割りには自分でお茶を淹れたり、カートにあったらしいクッキーを摘まんでいる。外見はかなりの美形だが、やっている言動や行動は普通の人間に見える。むしろ神様らしさが無い。
可愛らしいカップに並々とお茶を注ぎ、味わうどころか一気に飲み干した。
「本来、人間の、特に魂だけの状態っていうのは人間だったころの姿ってのは保てないんだ。生きてた頃を水が並々入ったグラスだとすれば、魂は水。今の深雪の状態はまさに水だけの状態な」
もう一杯ポットからお茶を注ぎ、ゆらゆらと揺らして見せる。この水が無くなった時が魂の消滅になるらしい。
普通に死ぬ時は器であるカップが壊れたとき。
「で、今の深雪の場合は、器が壊れてないのに魂である水が脱け出してる訳だ―――つまりは、幽体離脱してる状態」
「それって………大丈夫なんですか?」
よく聞く王道は、三日のうちに肉体に戻らないと死んじゃうとか。そんなことだったら呑気にケーキなんか食べてる場合じゃない。
「此処は≪時忘れの館≫だからな。その名前の通り時間を忘れた空間で、出るときに願えば、自分が望む時に帰れる」
まさしく名前の通りに。≪時忘れの館≫は時間から隔絶された世界。方法さえ間違えなければ、魂が望むままに、元の世界の時間と場所に還る。
その言葉に深雪は安心した。
が、殀芽の顔は晴れない。
「身体は兎も角今の魂の状態も、すぐにココに連れてきたからそこまで影響はされていない筈だ。時間の影響を受けないのは中も同じだからな―――だが」
そこで一息区切って、殀芽は言葉を続けた。
「元の身体に還る方法は、危険すぎる。身体か魂かに何が起こっても保証できん」
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