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石榴の悲願  作者: 流架
4/23

3≪時忘れの館≫―1




「………凄い」



無意識に口から溢れ落ちた。

ルビィ・リコリスと彼に挟まれたまま、深雪は門をくぐった。そしたら、目の前に広がった玄関ホールに目が点である。


玄関ホールは、大きな八角形の形をしていた。真ん中から少しずれたところに入ってきた門があり、ちょうど入ると人が真ん中にくる配置。天井は高く、おおよそ三階分ぐらいの吹き抜け。

黒と白の大理石の床は幾何学模様を描き、柔らかいクリーム色の壁紙にアクセントの焦げ茶色の華奢な飾り柱。天井からは豪奢なクリスタルのシャンデリアが下がり、蝋燭の灯りに金色に輝いていた。

そして此処にも、あちこちに黄色の薔薇がある。



「ようこそ、≪時忘れの館≫へ、歓迎致します」



呆然とする深雪に、先程も出迎えてくれた女性が声をかけてくれた。

遠目では分からなかったが、すらりと背が高い。綺麗なモデルさんのようだ。

派手さはあんまりないが、すっきりと美麗な容貌は優しげで安心する。



「え、えと」



「ルイ・ルナ、悪いが彼女を部屋に。俺は≪金華≫様に挨拶に行ってくる」



「畏まりました」



彼女―――ルイ・ルナと言うらしい女性は緩く微笑みながら受けた。

自分はどうしたら良いのだろうと思ったら、さっさと先に降りた彼におろされた。………お手数お掛けしました。



「あともうひとつ、≪リカ≫を呼んでおいてくれ―――ルビス」



〈なんじゃ〉



「彼女に付いてろ。意地悪しないできちんと応えてやれよ?」



ビシ、と人差し指で深雪の後ろにいたルビィ・リコリスをさして再び念押し。そんなに自分の相棒が信用ならないのかと思ったが、次の瞬間ルビィ・リコリスの姿を目にし、そんな疑惑は吹き飛んだ。



(か、かわ、可愛いいい………!!)



なんと、ルビィ・リコリスは小型化していた。黒い艶々した毛並みに赤い眼。獰猛な牙や爪は小さくなりを潜め、見事な翼は身体に合わせて小さい。

まぁ、とどのつまり、子猫になっていた。やばい、凄くきゅんときた。

わんこかにゃんこなら迷わずにゃんこ派な深雪である。



(さ、触りたいし抱っこしたい………!!)



手がわきわきと動きそうなのを堪え、なんとか自重する。いくら今の外見が可愛くても本性は先程の肉食獣だ(多分)。間違いなく深雪が行ったら喰われる。



〈わかっておるわ。はよう行って参れ〉



「はぁ………わあったよ。とっとと済ましてくる。二人とも頼んだぞ」



彼は大きなため息をついて、いくつかあるうちの扉に向かって行った。

若干の寂しさに少しだけ心細くなる。



「それでは、ご案内させていただきますわ。着いてきて下さいませ」



「は、はい」



確かルイ・ルナと呼ばれた彼女に呼ばれて、深雪は咄嗟に返事をした。向かうのは彼とは真逆の扉。途中でルビィ・リコリスが足元に来ていたので思わず抱き上げてみる。特に抵抗されなかったので、多分大丈夫だろう。



「こちらの説明をさせていただきますわ、歩きながらで申し訳ありませんが………」



「いいえっ、十分です」



「そうですか?失礼ですが、お名前をお聞きしても?わたくしはルイ・ルナと申します。この≪時忘れの館≫の警備兼管理をさせて頂いております」



何か不便があったらおっしゃってくださいね。

ふふふと上品に笑う彼女―――ルイ・ルナさんの口からちょっと信じられない単語が飛び出してきた。

なんて言ったよこの人。


扉の先にあったのは絨毯の敷かれた廊下で、それなりに広い。ただ、先が見えないだけで。



「更科深雪と言います。あの、警備、ですか?本当に?」



管理はわかる。偏見かもしれないが、ルイ・ルナさんの対応を見る限り、此処のメイドさんのような役割なんだろうなとは思った。

今は引きこもりのニートを自宅警備員をとかメイドさんとか揶揄するが―――彼女に限って無いと信じたい。



「どちらかと言えば警備が本職ですわ。この≪時忘れの館≫は、色々と狙われやすいので」



〈まぁ、安心せい。ルイ・ルナ達がおるなら此処は落ちん。ましてや妾と殀芽もおるのだからの〉



ぴく、と深雪が震えたのが伝わったのか、ルビィ・リコリスが付け加える。

だが、肝心なことを聞いていない。



「あの、此処は、≪時忘れの館≫って、何処なんですか?」



「≪時忘れの館≫は≪聖母金華≫様の住居です。世界の果てにありまして、迷う魂たちの安寧の地でもあります」



「………は?」



意味が分からない。

その様子から悟ったのか、ルイ・ルナは安心させるように微笑み、目的地と思わしき扉を開けた。



「詳しいことは座ってお話しましょう。どうぞ、中でおくつろぎください」



ぐいぐいと廊下から深雪を室内に押し込んだルイ・ルナは、「お茶の用意をして参りますわ」と無情にも扉を閉めた。



(え、これどうしたら良いんだろう)



まさか残されるとは思わなかった深雪は、腕からルビィ・リコリスが抜け出したことに気が付かなかった。呆然と扉を見ている。



〈深雪と言ったか、まぁこちらへ座るが良い〉



ルビィ・リコリスの、妙にあだっぽい声に振り替えると、ソファーの上にちょこんと座り、てしてしとソファーを叩く姿が。

可愛い。


そこでやっと、深雪は部屋の中を見渡した。


重厚なワインレッドの絨毯にはくすんだ金と緑の唐草模様。飴色につやつやと輝く家具は全部同じデザインで、統一感はあれど重苦しくはない。壁紙はクリーム色で、暗く見える部屋が明るく見える。明かりも上品な淡い金の小さなシャンデリアで、主張し過ぎることなく部屋にまとまりがある。


センスが良い、趣味が良い非の打ち所がないぐらい調度品は良いのに、一つだけミスマッチなモノがある。

テーブルの真ん中に活けられた、赤い花。何の花かは分からないが、木に咲く花らしく、一枝そのまま一輪挿しに活けてある。

………いや、活けてあるとか言うよりも、その辺から適当に切ってきた枝を挿しただけだ。どう見ても。



〈なにを呆けておる。事情を妾が説明してやるのじゃ、はよう座れ〉



「すいません」



苛立ったルビィ・リコリスの声に、深雪は条件反射のように謝った。肉食獣には逆らえない。ゆらゆら揺れる尻尾が苛立たしげにぺしぺしソファーを叩く。

深雪はちょっと考えて、ルビィ・リコリスの目の前にある三人掛けのソファーの隅に腰を下ろした。あまりにふかふかで居心地が悪い。



〈さて、改めて名乗ろうかの。妾の名はルビィ・リコリスじゃ、気軽にルビスと呼ぶが良い〉



「更科深雪と言います。あの、助けて頂いてありがとうございました」



座ったままだったが思わずぺこりと頭を下げると、彼女―――ルビスはゆるりと赤い目を細めた。



〈その礼はあやつに言うべきじゃ。まぁ、多分受け取らんとは思うがの。妾達の仕事ゆえ〉



「仕事?」



〈そうじゃ。妾確かに妖魔じゃが、妾のことをわかり易く説明するのであれば妾は"神獣"。あやつの仕事の手伝いをしておる〉



首をかしげる深雪に、ルビスはまだ言葉を続ける。



〈あやつ―――≪石榴≫と言うのが通り名じゃが、≪石榴≫はひとの心を護る神じゃ。いつもはひとの心の奥底の、深層意識という水底で妾と共に過ごしておる〉



ひとの心は海と同じ。

しかしひとが認識出来るのはその海のごく僅かだという。ひとの心に魔が差すのは、妖魔がひとの意識に浮かび上がって行くから。

通常、深層意識の奥底はひとが触れられる場所ではない。たまに表層に触れるひとはいるが、触れても中に入ることは出来ない。



「じゃあ、私は何だって言うの?」



〈そう焦るでない。ごく稀にじゃが、その深層意識に何らかの理由で引っ張り込まれるやつがおるのじゃ。深雪もきっとその類いじゃろう。そのように気にするでない〉



気軽に言うルビスに、深雪は聞き返した。



「じゃあ、私はどうなっているの?自分の記憶が確かなら、私は跳ねられて死んだはず。なんで」



〈落ち着かんか。深雪の言い分であれば、深雪は跳ねられた衝撃で自らの意識の中から飛び出した状態じゃ。常ならばあの深層意識の中で肉体と同じ姿を保つことは出来ないのじゃが、まだ何とも言えんの〉



冷静に返すルビスに、深雪は自分の手を見つめた。

平均以下の背丈に相応しい小さな手。

しかし剣道をしていたせいか豆が潰れて爪も短い手だ。

………自分の記憶にある通りの。



〈詳しい事はあやつに聞くが良い。妾にはどうにも出来ん〉



「あやつ?えと、≪石榴≫って………」



〈それはあやつの神としての名じゃ。殀芽と言うのじゃが、これはあやつがまだひとだった頃の名じゃよ。妾は神に付き従うものであって神ではない。妾以上に出来る事も多い故、深雪が願えばある程度は聞いてくれよう〉



「………神さまって、そんな簡単にお願いって聞いてくれるもの?」



〈さあの。妾も詳しくは知らなんだ。ただ、直接言えば聞くぐらいはするじゃろう〉



曰く、神社や神殿で祈るのは神にとって自分の別宅を崇められているようなものらしい。



〈己の状況に納得はいったかえ?〉



「まだいくつか疑問はありますが………」



が、これはルビスに聞いても仕方がないだろう。≪石榴≫に聞くしかない。


自分は死んでしまったのか。

元の世界に帰れるのか――――――



※※※

やっと説明半分?


本当に気長にお待ち下さい。

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