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石榴の悲願  作者: 流架
16/23

15・石榴の事情

「彼はーーーーー」



≪魔女≫の言葉は、彼によって遮られた。



「そっから先は言わせねぇぞ、≪リカ≫」



いつの間にか、ドアに手をついて≪石榴の君≫が仁王立ちしていた。その顔は険しく、≪魔女≫を睨み付けている。美形が怒ると本当に怖い。


思わず小さくなった深雪は、「私は空気」と心の中で念じることにした。日本人の本能がここで口を出してはいけないと警告している。



「その言葉は俺との契約違反だ。わかっているな」



「ええ、知っていて口出しを致しましたわ。ですが、更科深雪さんが≪アレ≫をシンさんから譲り受けた時点で彼女は此方側でしょう」



低くドスの効いた≪石榴≫の声音は、間違いなく怒っていた。多分タイミング的にルイ・ルナさんが呼んでくれたのだろう。

ただ、普通に反論する≪魔女≫に深雪の方が冷や汗をかいた。



「誤魔化されませんわ、気付かなかった等の戯言も聞きたくありません。何故か、理由を今此処で私が言ってもよろしくて?」



「≪リカ≫、それは越権行為だぞ。この件に関しては部外者であるお前の口出しは不要だと、俺とアイツとの≪誓約≫を忘れたか」



「だとしてもですわ、私は≪神下≫として、この事態は見過ごせません」



≪魔女≫はキッパリ言い切ると、自分の上司を睨み付けた。ガンつけている、といっても良い。

こんな場面だが、彼女が≪魔女≫と呼ばれる理由が何となくわかった気がした。



「私は暫く失礼致しますわ。部外者はいない方がよろしいのでしょう?」



でしたら、と≪魔女≫は不敵に笑って魅せた。



「此方で落とし前を付けるべきですわ」






※※※※





「っ、オイ、≪リカ≫!?」



不敵に笑って魅せた≪魔女≫は、あろうことか上司を部屋の中に突き飛ばした。そうは言っても所詮華奢な少女の力だ。成人男性の≪石榴≫尻餅やどこかに身体を打ち付けることはなかったが、体勢を崩させることで十分だったらしい。

その反動で自身は扉の外へ行き、しかも何やらがちゃんと鍵の閉まる音がした。


先程から上司と部下の会話がちんぷんかんぷんな深雪は、まさかの事態に硬直する。え、なにこれ。


しかしそれは突き飛ばされた上司も同じだったらしい。



「………何だか悪いな、いきなり見苦しい所をみせた」



「………………お気に為さらず」



何となく疲れた顔をしている≪石榴≫に、深雪は掛ける言葉が出てこなかった。

今まで気が付かなかったが、彼は金モールの軍服ではなくシンプルな黒いシャツ姿だった。第2ボタンまで外されたシャツから覗く鎖骨が妙に艶かしい。


だが、妙な沈黙に耐えたくない深雪は、さっさと自分の用事を済ませてしまおうと思った。



「あ、あの、これ、預かりものなんです。≪石榴の君≫へって」



「………は?」



テーブルの上に置きっぱなしだった包みを両手で持ち、差し出した。

しかし渡す方も差し出された方も自分のことで手一杯の、状態である。



「『あの時預かった物を、正当な持ち主にお返しします』シンさんからの伝言です」



どうぞ、と差し出す深雪だが、≪石榴≫はぽかんとしている。しかもいっこうに受け取る気はなさそうだ。



「………まさか、シンからそれしか聞いてないのか?」



「私は預かっただけですよ?≪石榴の君≫に渡して欲しいって」



だから受け取ってもらわないと深雪も困るのだ。



「………………ソレは俺のでもねぇ」



「え?!」



「まぁ、そこら辺も含め説明してやるから。取り敢えずソレは置け」




※※※※※



自分の上司とクラスメイトを部屋に閉じ込めることに成功した≪魔女≫こと李架は、≪時忘れの館≫の中にあてがわれている自分の部屋に向かった。


彼がきっとやきもきしながら待っているだろう。



「お待たせしましたわ」



「いや、気にしないで。オレが勝手に待ってただけだから」



居たのは、もう自分の世界に帰ったと思われていたシンだった。ただ、≪石榴の君≫がいるせいかあまり顔色が良いとは言えないが。

椅子に座っているのも居心地が悪かったのか、窓を開け放ち、窓枠に腰かけていた。金茶の髪がさらりと揺れるさまは、祖先の≪石榴の君≫を妙に彷彿とさせる。



「上手くやれたみたいだね。その様子だと」



「ええ、ただ、随分とこの件に関してはへたれていますわね」



珍しいので面白くはあるが。

李架はそう溢すと、シンは苦笑した。



「………まぁ、彼女の性格上仕方ないんじゃない?」



彼女とは、シンが深雪に返したモノの持ち主だ。

シンは彼女について多少知ってはいるが、李架は全く会ったことがない。かろうじて≪神下≫の誓約を交わした時に肖像画を見たことがあるだけだ。



「そんなにですの?」



李架の印象だが、とてもおしとやかで、儚げな風情が印象的な人だった。ただ、あの≪石榴の君≫が選ぶ女性となると一筋縄ではいかなさそうとも思う。


………あの上司とも長い付き合いになるが、 どうも李架には彼が女性と恋愛をするという想像か出来ない。いや、女性に言い寄られている場面なら数え切れないほど見てきたが。



「………うん、結構強烈。それはディエルに聞いた方が良いと思うけど」



「ディエルに?」



ディエルーーー李架を神の一柱にした張本人であり、元上司であり、何を隠そう、あの≪石榴≫の血を分けた息子である。

彼もまた神の一柱ではあるのだが、≪石榴≫とは別格である。因みに外見は兎も角、性格はあまり似ていない。



「そう、彼女はディエルの師匠で、育ての親だから」



「………何となく分かったわ」



それに、彼女の持ち物を≪石榴≫じゃなくてシンが持っている段階で悟るべきだった。そもそも≪石榴≫がアレだけ振り回されているのに。



「でも、彼女はディエルの母親じゃないの?」



≪石榴の君≫が未だに想い続ける、最愛の彼女。

普通なら、彼女がディエルの母親だと考えるべきだ。だが、シンの言い様では母親は別に居るように聞こえる。



「彼女はディエルの母親じゃないよ。でも、これに関してはオレも詳しく知らないし、べらべら喋ることでもない」



ただ、この件に関しては李架よりもシンの方が近いと言うだけの話だ。 そうは言っても詳しい事情は個人のプライベートなので言えないが。



「そう、でもこれは聞いても良いわね?」



李架は、ここにきて誰も口に出さなかったことを口にした。



「更科深雪さんは、≪彼女≫の生まれ変わりなのね?」



心の器、魂は生まれ変わり続ける───


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