13・星の魔女はかく語りき
「申し訳ないけれど、≪石榴≫の代理よ」
そういって、彼女はにっこりと、優しげに微笑んでみせた。
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≪魔女≫
それは、深雪の高校のある女生徒を指すあだ名である。
緩く波打つ黒髪を腰近くまでのばし、小柄で華奢な身体つきは儚げな風情。整い過ぎた顔立ちは人形のようで、浮世離れした雰囲気を醸し出す。
高校入学当初から、ミステリアスな美少女は良い意味でも悪い意味でもよく目立った。クラスは違ったが、学校中を駆け巡った美少女の噂はそういうことに疎い深雪の耳にも入ったのだから相当だったのだろう。
そこそこ可愛らしい、けっこう美人等々の形容詞が付く女の子はたくさんいるが、誰もが認める美少女は数が少ない。というか滅多にいない。
そんな彼女が≪魔女≫等と言う物騒な、もしくは厨二なあだ名が付いた経緯を深雪は知らない。
とりあえず自称では無いことは確かだ。もしそんなこと言ってたら引く。いくら美少女でもそれはない。
うろ覚えだが、誰かが≪魔女≫に振られたとか何だかんだだったハズ。
ただ、彼女の雰囲気や言動がその≪魔女≫という形容にあまりにも適格に当てはまってしまった結果だ。
その≪魔女≫の名前を木兎槻李架という。
現在、深雪のクラスメイトでもあったりする。
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「ごめんなさいね、いきなりで驚いたでしょう?でも、そうも言ってられない事情があったのよ」
「………はぁ、そうなの」
「全くもう、仕方無いけれど、応じなきゃいけない部下も大変よ」
困ったように、しかし半ば諦めも入ったような≪魔女≫こと木兎槻李架は可愛らしく小首を傾げた。………美少女は何をしても様になるらしい。
が、次の発言は頂けなかった。
「更科さんも、今回の事は運がなかったと思って貰えると嬉しいわ。私から見ても仕方がないとしか言えないもの」
「………じゃあ、木兎槻さんは何しに此処に来たの?≪魔女≫ってあだ名は本物だったってこと?」
仕方がない、それだけで深雪の葛藤、苦悩を片付けて欲しくなかった。
確かに世の中には事故なんてありふれている。電車を巻き込んだ事故はニュースになるが、自動車なら毎日数件は確実に起きてる。死亡事故ならもっと数は減るかもしれない。───だが、どこかでありふれていることなのは事実だ。
深雪はそれを体感してしまっている。
ありふれた可能性は自分の身に降りかかる可能性だ。
しかし、≪魔女≫深雪の想像の上を行った。
「───そうよ」
≪魔女≫は不敵に笑ってみせた。
人形のようと言われる美貌が、恐気を奮うほど美しく微笑んで。
「運がなかった、仕方がない、部外者である私がそれを言える立場だからよ」
「………≪魔女≫さまだって言いたいの?」
ガンガンと頭が痛むような気がした。
ただ、これ以上の情報を持っても頭が受け入れない。間違いなくキャパシティオーバー、ヒートする。
「いいえ、私は≪石榴≫の神下」
ゆらり、黒目勝ちの≪魔女≫の瞳が、彼と同じ赤みがかった琥珀色に揺らめいた。
「元々は人間だったけど、今は神様の一柱。人間として生まれながら世界を巡り続ける存在、世界の傍観者、凶星の天使、他にも色々言われてるけれど、正式には≪星紅輪華≫(せいこうりんか)と呼ばれているわ」
赤い華を司る神々の先触れ、永遠に朝と夜巡り続ける星の華。
「望むなら、私が元の生活に戻してあげるわ」
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