12≪時忘れの館≫―7
「………頭痛い………」
泣きながら寝たせいか、頭がガンガンする。心無し目も腫れぼったい。
ふかふかと柔らかくスプリングのきいたベッドの感触と、ふわりと軽い布団の肌触り。
「あうぅ………昨日何したよ私………」
ゆっくりと起き上がり、自分がどうなっているか確認する。
(………ブレザーはベッドの隅、シャツのボタンは二つ外れてるだけ。ローファーは………ベッドの下か)
必要なく着衣が乱れてると言うことはなかった。
が、
昨日の記憶は、シンにすがり付いて散々泣いたところで途切れている。何気無い言葉に酷く安心して、思わず泣いてしまった。すがったら「大丈夫だよ」って言って抱き締めて、暖かい体温にさらに緊張が解けて涙腺が崩壊した。
深雪は入った覚えの無いベッド―――しかし部屋は昨日案内された部屋だった。見れば、昨日持ち歩いていたフェアリーランプ二つ揃って置いてある。これでこの部屋にたどり着けたのか。
今はいないシンに申し訳ないが、とても感謝である。
目と頭痛は兎も角、思考回路はしゃっきりした。
次に会えるかどうかは分からないが―――とりあえずあの剣はテーブルの上にどーんと鎮座している。どうやら持って還ってはくれなかったらしい。ご丁寧にメモまで添えてある。
………見たくない。でも見ないとダメなんだろうな。
深雪はベッドから降りると、そのままテーブルのメモを引ったくった。女は度胸!!愛嬌なんかでやってけるか!!
【深雪ちゃんへ、
泣き疲れて寝ちゃったから部屋に運びました。必要以上の事はしてないから安心してね。
我慢するなとは言わないけど、無理はしちゃダメだよ?
また会おうね
シン・イラディレイト】
………ヤバいまた泣きそう。あんな紳士でカッコいいお兄さん、次に会ったら惚れちゃいそうだ。いやマジで。
思わずほわほわしてたら、二枚目を発見。
【お願いもよろしくね】
………強かだなあの人。
※※※※※
とりあえずタオルを洗面台の水で濡らして、目の腫れを引かせる為に目元を覆った。けっこうコレは気持ちが良い。
聞き齧りの知識でも意外に役に立つものだ。
これからの事を思うと憂鬱だが、まぁそれは仕方がないだろう。
何とかなる。半ばそう自分に言い聞かせた。
ふと、何やら扉の外が騒がしいことに気が付く。詳しい事はわからないが、口論のような。
「………!………ぃ……!」
「………………!」
「……………!…………!?」
「………ぃ!」
「………?」
一体何だろう。
思わずタオルをずらして扉の方を見る。
すると、凄まじい勢いで扉が開けられた。金具は無事だったらしい。
が、それよりも深雪は入ってきた人物に目を見開いた。なんで、此処に。
彼女は深雪と同じ制服を身に纏い、トレードマークとも言える緩く波打つ艶やかな漆黒の髪を背中にすきやった。彼女のアダ名の由縁の髪に、人形のように整った顔に薄く笑みを浮かべて。
「―――おはよう、更科さん。まさかこんなところで会えるなんて思わなかったわ」
"魔女"
浮世離れした独特の雰囲気に、人形のように整った美貌と口の上手さ。普通の高校生にしては逸脱した空気を持っていた彼女は畏敬と外見を皮肉った意味を込めて"魔女"と呼ばれた。
名前は、木兎槻李架。
そんな彼女とは、一応同じクラスメイトというだけの関係だったのに。
なぜ≪時忘れの館≫に居るんだろう。
あまりの事態に呆然とする自分に彼女はまたくすりと笑った。
「申し訳ないけど、≪石榴≫の代理よ」
ああ、なんかもう現実逃避したい。
深雪はなんでこんなことになってるんだろうと、ちょっとまた泣きたくなった。
†††††
またまた新しいのが登場しました(笑)
そろそろ深雪ちゃんを動かしたい。




