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石榴の悲願  作者: 流架
12/23

11≪時忘れの館≫―6

長いです。まだシンのターンが続いてますがこれが最後です。ええもちろん最後ですとも。





石榴の君―――

まさかの名前に、深雪は首を傾げた。なぜ彼が殀芽を知っているのだろう。



「居ると思います、けど」



「うわマジか」



聞いた癖にシンの反応は物凄く失礼だった。

頭をがしがしと掻き、深雪に視線を送る。だから、せっかくだから気になった事を聞いてみた。



「お知り合いですか?」



「一応は、そうなるかな。ただ、ちょっと訳ありで………あんまり会いたくない」



その訳が気になる。だが、あんまり他人のプライベートに立ち入るのは心苦しい。

まだ、彼―――殀芽とも、出会って間もない相手だ。けれど、気になる。



「何があったんですか?言いたくないならいいんですけど………」



「いやいや、そうじゃなくて、オレが会いたくないの。多分≪石榴の君≫は気にしてないっていうんだろーけどね」



何だか複雑らしい。

これ以上は聞くのやめようと思ったら、がっちりシンと眼があった。


金色がかった、淡いペリドットのような瞳。印象的な瞳は、誰かに似ているように感じた。



(………誰?)



異世界の知り合いなんていない筈だが。内心首をひねると、シンから話しかけられた。



「で、悪いんだけどちょーっと頼まれてくれないかな?」



にっこり、流石自分の外見を知っている人間の笑み。柔らかかつ華やかな美青年の微笑みの威力は凄まじい。反射的に頷きそうになった。



「………内容によります」



断るという選択肢を排除する笑みに、口から出てきたのは妥協の返事だった。



「大丈夫、簡単だから。そんな構えないで」



するとシンは、自分の腰にある長剣をベルトから外した。

長身のシンの腰にあると自然だが、やたら長い剣である。ナニかは分からないが革の袋に入れてある。



「?」



「これを持って、≪石榴の君≫に伝言を頼みたいんだ。いい?」



「それぐらい良いんですけど………シンさんが自分で行けば良いんじゃ………」



「うん、確かにそうだけど、そういう約束だから」



はい、と渡されるままに深雪は剣を受け取った。

見た目の長さよりも、思った以上に軽い。ひんやりとした冷たさが心地好く手のひらに伝わる。



「『あの時預かった物を、正当な持ち主にお返しします』これだけ、≪石榴の君≫に伝えてくれる?」



真剣な眼差しに、深雪は折れた。

まぁそのぐらいなら、と思ったのもある。



「………わかりました」



「ありがとう。お礼にもならないけど、何か聞きたいことがあるなら答えてあげるよ」



明らかにホッとした様子のシンに思わず深雪はとても正直な問い掛けをしてしまった。



「殀芽さんとどういうご関係で?」



「………えーっと」



わかりやすく詰まった。

しかし深雪も引くつもりは全くなかったので、ひたすらじーっとシンを見詰めた。答えろと無言で圧力をかけた。


シンは暫くうんうん唸ったあと、絞り出すように話し出した。



「………≪石榴の君≫が神様だってるのは知ってるよね?じゃあ、元々が人間だったって言うのは知ってる?」



「ああ、ルビスさんが言ってました。殀芽っていうのが人だった頃の名前だって………」



「オレもその名前については詳しくは知らないけどね。元々、あの人はラクシャス皇国っていう国の、オレが生まれた大陸の海を隔てた西の果てにある島国の皇帝だったんだよ―――それも、最後のね」



最後、深雪にその意味はよく分からない。ただ、日本の天皇のようなものかとぼんやり思った。



「ラクシャス皇国の滅亡云々は、そういう時期だったからとしか言い様がなくてね。んで、そのラクシャス皇国の皇帝―――≪石榴の君≫は、民を出来る限り東へ渡らせた。オレが生まれた大陸に」



「それ、シンさんとなんの関係があるんです?」



「あるんだよね、これがまた。その、≪石榴の君≫が大陸に渡らせた民の中には自分の親戚がいたんだ。オレはその子孫にあたるってワケ。まぁ、もう千年経ってるから血の繋がりなんてないんだけどさ」



「は!?」



あははと笑うシンだが、深雪はまさかの繋がりに唖然とした。だってまさか先祖と子孫とか誰も思い当たらないだろう。



「ってことは、その国が無くならなかったら、シンさんて皇子だったってことですか?」



「いや、さすがにそれは無いと思う。その親戚っていうのが≪石榴の君≫の従兄弟だったっていうのは聞いたけど、継承順位は低いから精々貴族だろってさ。それを証明も出来ないしね」



これで納得して貰えたかな?

と笑うシンに、深雪は頭がパーンしそうになった。複雑すぎる。



「さて、じゃーオレは自分の世界に還るよ。≪石榴の君≫に伝言よろしくね」



「自分で還れるんですか!?」



なら自分も!と深雪は意気込んだ。なんとかなるかもしれない。



「?まあ、オレみたいに迷い込んだ場合はね。ありきたりだけど、来た道を逆に辿れば良いから」



つまりもう一回湖にダイブすれば良いと。

深雪は直接≪時忘れの館≫に来た訳ではないので適用されない。がっくりと項垂れたくなった。既に気分はorzだが。



「えと、多分また会えると思うよ?オレとなら」



深雪の見るからに意気消沈した様子をシンがどうとったのかしらないが、そんな慰めにきゅんときた。優しく頭を撫でられる感覚にちょっとときめく。………こんなお兄ちゃん欲しかった。



「………ありがとうございます」



「冗談とかじゃないんだけどね、実際」



「へ?」



確か、世界を渡れる存在はそんなにいなかったはず。

ふと疑問に思うと、シンは苦笑した。



「オレは、良くも悪くも此処の関係者と縁が深いからね。今日みたいに何か切っ掛けがあると落ちやすいんだ。だからまた、≪時忘れの館≫でなら会えるかもしれない」



「本当に?」



「うん、また、深雪ちゃんがオレに会いたいって思えばね。≪時忘れの館≫で、会えるよ」



異世界とでは時間が違う。流れる時間も、長さも。深雪も、これからの身の振り方によっては永遠に会えない。ずっと、≪時忘れの館≫に居られる訳じゃない。

シンがその事情を知っている筈がないのに、その「会えるよ」は妙に安心出来た。大丈夫、と言葉には出さなくても。


それに、あまりにも常識外れの事態ばかりが起きて、深雪のキャパシティがシンの優しさに触れたせいで崩壊した。



「………ふっ、ふぇ……あう………」



「え!?ちょ、深雪ちゃん!?どうしたの大丈夫ってオレなんかした!?」



はらはらと深雪の目から零れる涙に、シンが思いっきり動揺した。そりゃあいきなり泣かれたら驚くだろう。



「ふ、ふぇ………うわぁん、シンさぁん………」



はうぅ、とまるで小さな子供のように泣く深雪に、シンはおろおろしつつも頭を撫でながら抱き締めてくれた。

ちょっと戸惑いがちに差し出された腕に、深雪からすがりつく。色々な事があり過ぎて、不意討ちで与えられた優しさにすがった。

恐らくは、もう二度と会えないだろう家族や友人たちの事を無意識に悟ってしまったからかもしれない。近い内に、何かを選ばなくてはいけないと深雪は解ってしまっていた。それは、高い確率での自分に近い人達との決別。



「っ、はぁ………あぅ………ひっく」



「………よしよし、大丈夫だよ」



シンは、いきなり泣き出した深雪に面食らっていたが、開き直ったのか深雪を抱き締め返した。袖にすがり付かれた手を外し、懐に抱き込む。深雪は細身だが長身のシンの懐にすっぽりと収まり、一定のリズムで背中と頭を撫でられた。

今まで彼氏や恋人など居なかった深雪だが、今は他人の温もりがとても有り難かった。本来なら絶対にしない行動である。



「も、なんでぇ………帰り、たいよぅ………」



「そっか、うんうん。言いたいことは言っちゃいな、聞いてあげるから。大丈夫だよ」



優しい言葉が心に沁みる。子供のように、甘えてしまう。そうさせてしまう何かがシンにはあった。


絶対的な安心感。無意識に張り詰めていた緊張が解けてしまった。

今まで、本人の自覚がないままに死んでしまったかも知れない。このままではどうなるのか解らない不安が、シンという不意討ちによって崩れた。


深雪は与えられる優しさに素直に甘え、泣き続ける内に眠ってしまった。



「………寝ちゃったか。まぁしょうがないよね」



シンは泣き過ぎたせいで赤くなってしまった目元を痛ましく思った。髪を耳にかけ、まだ残っていた涙を指で拭う。


詳しい事情をシンはしらないが、だいたいの予想は付いていた。深雪について、今のところ一番理解しているのはシンだろう。その事に若干腹が立つ。

本来なら、これはシンの役割じゃない。



「………ほんと、仕方がない、か」



呟くと、シンは深雪の小さな身体を抱き上げた。短いスカートが捲れないように注意しつつ、眠ってしまった深雪を起こさないように。


少しでも、彼女が安らかに眠れたらと思った。


深い雪―――冬に積もる雪は眠りの季節の象徴。暖かで幸せな春を待つ為の深い眠り。


願わくは、とシンは思う。

目覚めた後、彼女が幸せになる事を。



「来世は、幸せになるって言ってたもんね」



ねぇ、氷月さん―――シンの呟きは、誰も聞かずに風に溶けた。



※※※

なんでシンと甘くなってんの?バカなの?死ぬの?てかお相手シンじゃないでしょ?違うでしょ?


………注意しないとマジで深雪がシンとくっつきそうで怖い。

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