10≪時忘れの館≫―sideS・2
引き続きシン視点です。
彼には彼の都合と事情があるのです。
何とか移動するのは勘弁してもらって、シンは深雪と話していた。
………嫌な予感もするが、ちょっとだけ嬉しい感じもして複雑だが。
「へえ、ミユキって深い雪って書くんだ?」
「そう、私が産まれる時に雪が降ったからこの名前にしたんだって聞いた」
見れば見るほど"彼女"そっくりな深雪は、大分緊張がほどけたらしく気楽に話してくれる。
そして言葉を重ねれば重ねる程に、シンの中の確信が確かなものになってきた。
それを本人に言うつもりはないので顔には出さないが。
「オレのとこはそう言うのないなぁ………ただ、シンていろんな意味に通じるから効果的に使えって言われたけど」
「効果的?」
「ホラ、話すときは相手と場所とその場の雰囲気で違うでしょ?」
くるくると宙に文字を書きながら説明する。
本当は、シンは≪Sin≫―――≪罪≫という意味を持つ。シンの親はもちろんそんなつもりで名付けたわけではない。自分の在りたいがままに在れと、わざと単純な名前を付けた。
それは確かに愛情の一つだが、≪名前≫は呪いの一つ。親を通して、≪偶然≫を装って身体に刻む≪呪い≫だ。
シンはそれを身を持って知っている。
深雪―――その名前が示す意味は、時として親が込める意味以上の役割を持つ。
それは、まさに天の配剤と言わんばかりに。目印のように名前という首輪を嵌められる。
そして、その名前の持つ意味を、シンは六割ほど悟ってしまった。
「そういえば、深雪ちゃんて此処に保護されてるんだっけ?」
「ええ、実はちょっと拾われまして」
ちょっと微妙な顔をする深雪に、シンはちょっと苦笑した。何と無くわかる。
しかし思いがけないカウンターが来た。
「シンさんて、此処に来るの初めてじゃないんですか?」
無邪気な問いが心に刺さった。
確かに初めてではない。しかし前回の経緯はあまり言える要件でもなかった。これ以上後ろめたくなりたくない。
「え、え〜っと………まぁ、無い訳じゃない、かな」
あまりにもお粗末な濁し方だったが、深雪は察しがよかった。
「へぇ、そうなんですか。シンさんの居たところってどんなところです?」
「どんなところって言われると困るけど………そうだね、見えないと思うけど、オレの職業っていわゆる傭兵なんだ」
「ようへい?」
「うん、荒事もする雇われ兵ってとこ。大陸を網羅する≪協会≫っていう、オレみたいな人員を派遣するところがあってね。そこで依頼を受けて、報酬を貰って生活してる」
深雪のいた世界には無い職業らしい。いまいち意味が掴めていないのか、不思議そうな顔をしていた。
「楽しいことばっかりじゃないけど、それなりに楽しいよ。今のところは大きな戦もないし、割りと平和かな」
「じゃあ、シンさんの仕事って具体的には?」
「オレが受けるのは、八割ぐらい護衛任務かな?対象は人だったりモノだったりするけど。≪協会≫も流石に入る人間は選ぶしね、そーゆー≪協会≫からあぶれたのが破落戸とか盗賊とかになったり」
実は結構そういうのは多かったりする。≪協会≫はそんなに甘い組織ではない。不祥事をやらかせばペナルティもある。最悪脱会させられることも、一生≪協会≫に飼い殺される可能性だってある。
逃げ出した≪元会員≫を追う専門部隊までいるという噂もあるのだ。
が、まぁ、そこまで言う必要はないだろう。
「ああ、そうそう、深雪ちゃんにちょっと聞きたいんだけど」
「何ですか?」
「もしかしてだけどさ、今≪時忘れの館≫に≪石榴の君≫が居たりする………?」
もし彼が今此処にいるのなら、シンの予想は確信になる。
※※※
シンのターン終了しました!こいつ書いてるのが楽しくて仕方がないです。
次からは深雪ちゃんのターンです。
因みに彼女の登場は未定です悪しからず。




