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石榴の悲願  作者: 流架
10/23

9≪時忘れの館≫―side→S

やたら長いです。

新しいキャラクターのシンの視点


わけわかんないかもしれません。

シン・イラディレイト―――

≪大陸人員派遣協会≫、通称≪協会≫に所属する二十七歳の青年である。

柔らかな金茶の髪に、引き締まった長身の見事な体躯。仄かな甘さのある顔立ちは端整な造りをしており、珍しい特徴的な、けむったような金緑の瞳の持ち主である。物腰も柔らかで、性格も温厚ながら強か。


一見二枚目に見える彼だが、実は若冠二十歳にして≪協会≫の≪幹部候補≫の試験を突破、≪許可証≫を取得、史上最年少記録を打ち立てた人物である。

一般教養、礼儀作法、武芸十八般、度胸に頭の回転の速さなど、軍人貴族と同等以上の能力を求められる試験では全て合格者の平均以上を叩き出し、現役幹部の度肝を抜く。合格者の多くは三十代の猛者というのだからその難度は推して知るべし。


特に卓越したナイフ捌きは≪閃刃≫と熟練者からも賞賛を受け、期待の若手として上層部からの期待も高い。


現在は生まれつきの外見の良さを活かした護衛任務を中心に依頼を引き受けつつ、集団任務の代表としても研鑽を積んでいる―――



というのが、シンに対する大概的な評価である。

が、その実情を本人が評価すれば「色々諦めた結果」に早変わりするのだ。


まず≪幹部候補生≫の試験はシンが受けたいと思って受けた訳ではない。親が「稼げるから」という理由だけで試験当日に≪協会≫に息子を放り込んだ。ぶっつけ本番で受かる訳あるか!と思ったがなげやりで―――サボろうとか考え無かった自分が不思議だが―――受けたら受かった。

武芸に関してはやったら出来た。ぶっちゃけ殆ど見よう見まねだったし、ナイフが得意なのは家が子沢山で貧乏だから家に武器になりそうなのがナイフしかなかっただけだ。剣とか買うなら食材を買えという家だ。

イラディレイト家は山間の山村にあるため、獲物を仕留める為のスキルだけは向上させられる。シンはナイフが得意だが、上の兄や姉も弓や槍と各々扱い安い武器(手作り)を片手に山に入って食材を確保してくるのがイラディレイト家だ。

能天気な両親の下産まれた兄弟姉妹は、シンが知っている限り十三人。シンはその三男になる。まだ増えてるかも知れないが。

現在は稼ぎの半分ぐらいを実家に仕送りしつつ、割りと自由気ままに生活している。


結果的には良かったのかもしれないが、まぁ噂と現実とは違うを体現している身としてはひっそり生きれたら良い訳で。

だからか、妙に嫌な勘、危機察知能力だけは冴えるのだ。


そしてその"勘"に逆らえた試しはない。



※※※


その日、シンは確かに嫌な予感がしていた。何だか背筋がぞわぞわしたし、物凄く不吉な事に鏡が割れた。しかも使ってる時に蜘蛛の巣状のヒビが入るというオプション付きで。

………一応自分の顔や身体は大事な商売道具だから、それなりに手入れはしてる。外見て大事だ、うん。


で、その嫌な予感は特に腰にある長剣―――≪雪冥の六花(せつみょうのりっか)≫というが、やけに冷えきっていたからだ。普段は目立たないよう革の刀袋に入れて持ち歩いている。そのまま持ち歩くと目立つし、この剣は冷気を纏っているので直に触ると冷たいのだ。だいたい氷からギリギリ水ぐらいの冷たさ。夏は良いけど冬は最悪な剣である。


この剣はとある人からの預かりモノで、さらにコレ、シンはある一定の条件を満たさないと抜けないというちょっと困った剣でもある。

シンは基本的にナイフ使いなので剣は使わない。使えないこともないが、まぁそこそこ。


この剣を預けられた経緯にはイロイロ―――本当にイロイロあるのだが、兎に角シンには不本意だったと主張する。何しろ、この剣の本来の持ち主は恋人や愛弟子、部下を差し置いてシンを選んだのだ。とばっちりも勘弁してくれと頼み込んだが徒労に終わった。シンが良いと言って譲らず、結果シン以外が持つと持った人物ごとたちどころに氷の彫像になるという迷惑極まりない代物に変貌させて。

………彼女らしいと言えばらしいが。



「………どうしたんだ?」



その日の夜、シンは久々に≪雪冥の六花≫を抜こうと、わざわざ野営していた。この剣は誰かに見られるとヤバい。ヤバすぎるぐらいヤバい。

だから、曰く付きらしい池のほとりで抜く事にした。何だか知らないが幽霊が出るらしい。

そして直接柄に手を掛けた瞬間――――


足元の地面が無くなった。



「―――っ、うわわわわああああああっっっ!!?」



ばっしゃあああん!!



ある意味デジャヴな黒くて丸い穴に落ちた瞬間。コンマ一秒後には、シンは何故か水に叩き付けられた。


そこからは今まで培った経験と条件反射と言うべきか、すぐに岸辺に向かって泳いだ。取り敢えず方向だけは確認して。カナヅチじゃなかった自分万歳。

そこまで遠いところではなかったのか、割りと直ぐに岸には着いた。



「―――はーっ、はーっ、はー………死ぬかと思った………!」



カバンは密封性の高いやつにしておいて良かった。中身が濡れない≪協会≫特別仕様にしておいて本当に良かった………!

高かったけど!!


全身濡れ鼠だが荷物の心配の方が先にきた。アレには色々大事なモノが!



「―――大丈夫ですか?」



「え?ああ、ハイ、大丈………」



まさか誰かいるとは思いもしなかったシンは、迷いなく顔を上げた。


自分の眼を疑った。そこにいたのは、懐かしい―――"彼女"


水色がかった長い銀髪に、大きな薄氷の猫眼。ほっそりと折れそうな肢体に、青白い肌はまるで氷人形のような風情。

光沢のある白いドレスが、まるで現実味を帯びずに夜空に広がる。

忘れられない佇まいは、まさに"彼女"



「―――嘘………ひづき、さん?」



が、しかし次の瞬間には、全く違う少女の姿になっていた。



「早く上がらないと風邪引きますよ」



「え、ああ大丈夫、荷物あるし」



自分に声を掛けてきたのは、見馴れない服を着た少女だった。


確かにこのままだと間違いなく風邪を引く。

シンはカバンからタオルを取り出し、ジャケットに付いた水気を払う。ちょっと高かったが、ジャケットとズボン、ブーツは特に良いやつを買ったのだ。防水防塵忙刃までばっちりだ。払うだけである程度の水気は弾く。


その間に彼女を観察しておく。



(………スッゴい、似てる。髪とか眼の色変えたら本人?)



着ている服は、紺色のジャケットに驚く程短いスカート。中には白いシャツに、胸元には青いリボン。紺色の靴下に革靴という、シンからするとなんだこれな格好である。

だが、この少女は、"彼女"に瓜二つだ。顔立ちもそうだが、纏う冷たい雰囲気も。


小柄な身体つきに、肩口で切り揃えられた髪と大きな猫眼。

特徴から見ても、似てる。

他人の空似とは思えない。


だとしても先の優先順位は。



「えーっと、幾つか質問しても良いかな?」



「私が答えられることなら」



「ココ何処?」



「≪時忘れの館≫の庭かな」



「オレそんなトコに落ちてきたの!?」



マジか!!

現在位置の把握だが、いきなりとんでもない所だった。




(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいめっちゃくちゃヤッバい!オレあの人に会わす顔ないんですけど!!どうしろっていうの!?)



まさに大混乱。シンにとって≪時忘れの館≫は浅はからぬ縁があるが、個人的にはもう一生来たくなかった場所だ。

頭の中で、赤い瞳がちらつく。警告信号なら既にもう緊急事態で真っ赤で点滅している。冗談抜きに血の気が引く。


≪時忘れの館≫が駄目じゃない。此処にいるだろうあの人にオレが駄目だ。



「貴方誰?私はミユキって言うんだけど………今は此処に保護されてる」



「ミユキ?オレはシン、シン・イラディレイト。一応普通の人間だから安心して」



ただちょっぴり厄介なのに引きずり込まれてるけど。もうため息しか出てこない。

………自分の人生は一体何処で間違ったのか。


ただシンは気付いていなかった。何回も≪時忘れの館≫に出入りしている時点で普通ではない。



「どうかしたの?それに、一応普通の人間ってどういう意味?」



「気にしないで。ただちょっと自分の運の無さが嫌になっただけだから。一応は一応だよ。ただちょっと体質が特殊なだけ」



もう自分じゃどうしようもない。


………腹を括るしかないんだろうか(遠い目)。

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