ブレイクタイム 神と天使とティータイム
第6話投稿です。
輪廻神の居住区のとある一角。
その名の通り神の住処となる場所だ。その最上階に位置する部屋に一組の男女が居た。
女性の方は椅子に腰掛け、机に大量に積まれた紙の束をじっとながめていた。目の焦点があっていないのは気のせいではないだろう。男の方は片手に空の小型ポッドを持ち、そんな女をじっと見つめていた。こちらはしっかり見つめている。
かれこれ10数分経とうとしていた。完全に痺れを切らした男はいらいらとした調子で女に話しかけた。
「アルテナ様。そろそろ…」
「後もう少しいいじゃないと思うけどなあ。」
ぐずる女の目の前に無言で拳を見せる男。
「っ!…ああ分かったから。じゃあいつもの。」
あいまいな返事を返したがこれでも生の循環を司る輪廻神である。
高位の天使がアルテナと本当の呼び名で呼ぶことが出来ることから、男性の方もかなりの地位が高い天使だということが分かる。
と言いながら輪廻神は軽くけのびをした後、手に持っていた鉛筆を持ちなおし紙の束もとい書類をすさまじい勢いで書きはじめた。
男は輪廻神が仕事を取り掛かり始めたのを見てから、部屋の隅にある据え置き型の水道に向かいポッドへと水をどんどん入れる。
終始、水が流れ落ちる音と鉛筆特有の尖った音が部屋に流れる。
男は溢れんばかりのポッドに術式を施した。
「冷を熱に変える炎。」
この言葉を鍵に冷たい水もあっという間に沸騰し泡を吹きはじめた。
沸騰することによりもともとポッドいっぱいだった水にはもうこぼれるまでもう数秒もないほどに増した。
それを左手に持っていた茶葉をぶちまけると、すぐにふたを閉め、ポッドを振り始めた。
人間離れしている(そもそも天使なので人間ではないが)その振りは水がこぼれることもなくただ振られた。
「どうぞ。」
振りまくったおかげで水と茶葉が混ざりあって黒く淀んだ、水とは呼べないものがコップに注がれている。丁寧に砂糖付きだ。
「…ありがとう。」
書いていた手を止めこの水とは違う何かをじっと見つめる輪廻神。
飲んだが最後30分は苦しめられることだろう。
念のためコップの中身を指差しながら聞いてみる。
「アルト、これは…?」
「悪意のこもった茶です。アルテナ様。私、『高等お茶汲み天使 NO,1A√』の注いだお茶が飲めないのですか。」
「そんな茶あったっけ?「あります。」…ん。」
絶対これを回避しなければ。
逃げ道はないのかそんなことを考えつつもなんとなく視線を書類に戻した。
「そういえばアルト。この前の称号抹消については、どうなっていたっけ。」
「ああこの前のアルテナ様がやらかした件ですね。すごい語り草になっていますよ。『最上級管理天使』さんがそれで怒っているとかで輪廻神の居住区で持ちきりですよ。」
そこでアルトの青い髪がふわりと揺れる。輪廻神の記憶上これは心底楽しんでいる笑みだ。本当に部下なのだろうか輪廻神はつくづく思う。
「ああ。まあそこら辺は後日、本人に聞いてくださいね。…っと忘れてました。」
ここでアルトは手を叩く。
「この前の転生した人間を殺しちゃった天使ですけど、どうします?現在、クオランテの方で管理してますが…」
アルトは余りある書類の中から1枚の紙を抜き取り、神に見せた。
「ん…なるほど。えっと確かこの子は…「マリーです。」あ、そうそうマリーは私の直結の管理下にお願い。あの仕事大好きに休暇でも出しといてください。期間は2週間ほど、あの子も疲れているでしょうしね。」
輪廻神はアルトが書き止めているのを確認し、仕事に戻ろうとした。
書き止めたアルトは書き上げた資料を片付けると思い出したかのように輪廻神に言い放った。
「そういえば。悪意のこもった茶飲まないのですか。1滴も飲んでないように見えますが。」
痛いところをつかれた輪廻神は少し失笑するとお茶をぐいと飲み干した。
青髪の男の軽い笑い声だけが部屋に木霊する。
輪廻神がどうなったかはご想像におまかせします。
次話からはいつもどおり本編をお送りします。