尖閣諸島問題について
つれづれレビューの方に書こうかとも思ったが、あっちに政治的な話題を放り込むのに抵抗があったので、分離独立させた。
まあ、とりあえず尖閣諸島問題である。
この問題に対して、私なりに書いておきたいことがあった。もちろん私が書いたところで何の影響もないだろうが、一応は選挙権を持つ身である。何らかの意見を(後の自分のためにも)表明しておこうと思って筆をとった。
まず結論から言うと、尖閣諸島は完全に日本の領土である。
自分が日本人だからという贔屓目も多少はあるだろうが、冷静に事実を見れば順当に日本の領土だ。
まず中国自体が「尖閣は沖縄の一部」だとはっきり言っている。それも戦前に日本の軍事力によって強制されてそう言わされていたのならともかく、戦後に言っていたのである。そして中国が尖閣諸島の領有権を主張したのは、尖閣諸島の海で資源が発見された70年代以降だ。逆に言うと、それ以前は全く問題にしてなかった、ということだし、明らかに資源が目的で領有権を主張し始めたと見るのが妥当だろう。
そして最大の根拠は、所有者が日本人だった、ということだ。いや、正確に言うと日本の土地行政の中に完全に組み込まれていた、ということだ。
これは中国にとって、かなり痛かったに違いない。日本の「国有化」を執拗になじり、またそれに反対して大規模なデモが起こったことでもそれは容易に想像できる。
このデモに関してだが、これも人民が自発的に集まったというより、政府主導のデモだろう。無論、私に確たる証拠など挙げられるはずもないが、状況証拠なら挙げられる。
まずタイミングが良すぎる、ということ。まるで中国政府に「外交カードに使ってください」と言わんばかりのタイミングのよさ。
そして急速に発生して(それも用意周到に)、目的の日本企業への破壊活動を終えた途端の急速な消滅。誰かが以前から計画を練って準備していたのだろうか。あとは警官隊の奇妙な静観。これは二重の意味でひどい。デモ隊と警官隊はひょっとしたら裏で繋がっているのではないか、ということ。もう一つは日本企業の安全を守る義務を放棄したこと。
デモ隊と警官隊の繋がりも確たる証拠などないが、テレビの映像などを見てもそうであると考える方が自然だろう。まあ、それは中国人の勝手だからいいとしても、日本企業を守る義務を放棄したことは、文明国としての最低限の礼儀すら守らない、野蛮な行為だ。
あまりに急速に、かつ大規模なデモが発生し、警官隊も全力を尽くしたのだがやむを得ず被害がでた、というならまだ話は分かる。
今回は、明らかに途中まで警官隊は静観を決め込んでいた。そして日本企業が一通り破壊されたのを「見計らったかのように」、破壊活動が終わってからデモの鎮圧を始めた。
まず当たり前のことだが、どの国であろうと自国内の外国人の身の安全を守る義務がある。
もし、日本でデモが発生して日本のデモ隊が中国の企業を襲い、日本の警察が同じ対応をしたら、中国はどれだけ口を極めて罵るだろうか。
日本は、まずこのデモのことを、国際社会に対して告発していかなければならないだろう。日本企業の安全を守るという文明国として最低限の義務すら果たさず、しかもデモを政府が主導した疑いが非常に濃厚だ。デモが政府主導なら、その政府の正当性すら根底から揺らぐことになる。いくら国益のため、外交のためだからと言っても、自国内の治安を乱すようなことを政府が主導するなど、言語道断だ。もう一つタチの悪いことに、中国はアジアで唯一の国連常任理事国ということだ。このような国に常任理事たる資格があるのか、徹底的に国際社会に訴えるべきだろう。
それを日本政府はやっているのか? 領有権の主張をやるのはいいが、それ以前にまずはこういった中国の文明国失格の行為を告発すべきだろう。
話がデモにそれてしまった。要するに、「尖閣は日本の領土」と主張することも大事だが、それ以前に「中国の野蛮行為」に対しても絶対許さない姿勢を貫くべきだ。それを日本政府はしているのだろうか。どうも中国に対して甘いような気がするのは私だけではあるまい。
もう一つ気になることは、日本の政治家で尖閣諸島の重要性を理解している政治家がどれだけいるのか、ということだ。
日本に運ばれてくる原油の内、約9割を台湾付近のシーレーンを通ってやってくる。中国は台湾を併合しようと躍起になっている。もちろん、中国が台湾を軍事力で併合してしまうと、日本のシーレーンの安全も保証の限りではない。最悪、日本に資源が入ってこなくなる可能性もある。アメリカはそれを防ぐために、台湾に兵器を輸出して、中台軍事バランスを保っている。
何が言いたいかというと、尖閣問題はもはや日中間「だけ」の問題ではない、ということだ。中国が尖閣という拠点を得れば、台湾の安全がどうなるのか、誰でも分かるだろう。もはやアジア全体のパワーバランスを揺るがしかねない問題だと思う。
しかしまあ、仮に、仮に中国が何らかの手段で尖閣諸島を獲得し、それでも中台軍事バランスが何とか保たれたとしよう。それでもことは尖閣諸島だけにとどまらない。
日本には尖閣諸島のような、外洋に浮かぶ無人島が無数にある。「尖閣がOK」ということになれば、他の無人島も「同様にOK」ということになっていくのではないか?
中国の海洋戦略は沖縄を狙っている。すでに中国内では「沖縄は中国領土」という宣伝が始まっている。これは大学のとき、ゼミの中国人留学生が言っていたことだから、確実だ。そしてそのための第一歩として尖閣が槍玉に挙げられているのだろう。
翻って、日本の政治家は中国の戦略を見抜き、それに対応しているのだろうか?
どうも場当たり的な対応しかしていないように思える。中国が領有権を主張したから反論する、というような、中国に対して常に後手に回っている。
国際裁判だの自衛隊派遣だの、なんだのかんだの言っているが、まず中国の戦略・もくろみを看破して、それに対応する戦略を練らなければ、それらは全てただの「場当たり的な行動」でしかないだろう。
果たして中国の官製デモ(ということにして話を進める)に対してオロオロしながら「平和が、友好が」と小言をいうだけの日本の官僚・政治家にそれだけの能力があるのだろうか。私は中国の行動より、日本の政治家の能力の方が心配である。先見性のなさ、視野の狭さ、行動力のなさ、何より国民を守る気のなさ。河野や田中(あえて呼び捨て)が訪中したが、彼らのような売国奴は少数だと信じたい。それでも、結局その少数に動かされてきたのが日本の政治だ。
これ以上言うと愚痴になるので止めとこう。
最後に言いたいことは、巷にはびこる「国際裁判絶対説」だ。
橋下市長もツイッターで述べていたが、あくまで私流に市長の意見を要約すると「絶対に自衛隊を派遣してはいけない。とにかく国際裁判所で決着をつけるべきだ」といったところだろうか。
とにかく、絶対国際裁判所で決着をつけるべきだ、という意見だ。
まず国際裁判には出頭義務がない。だから中国は応じる必要もない。最初から国際裁判所で勝てる見込みがあるのなら、中国だって自国内で官製デモなどやらずに裁判に訴えているだろう。日本は「訴えられたら国際裁判所に出頭する」と宣言しているので、もし中国が訴えて日本が出頭しなければ日本の国際評価を下げることができるし、どう転んでも有利になる。しかし裁判での勝算がないから、中国はあの手この手を使ってきているのだ。まず、この「中国の思考を読む」ということがスッポリ抜け落ちているから「国際裁判所に任せればなんとかなるさ」という依存が生まれるのだろう。そして橋下市長は「中国を出頭させるにはどうすればいいか?」という問いに対して「国際社会に訴えていくしかない」という具体性ゼロの曖昧な回答しかしていない。
はっきり言うが、国際社会が何かしてくれるというのだろうか?(ごめん、はっきり言えてない) チベットやウイグル、パレスチナ問題、最近ならリビアの事件もそうだろう。北朝鮮もそうだ。もちろん、国際社会が一切何もしなかったことはないし、やれることはやっただろう。だが、それでもこれからの問題は根本的には何も解決していない。
しかも上記の、道徳・人権に関わる重大な問題ですら中々解決できないのに、日本と中国の、それも尖閣諸島という、恐らく外人にとってどこにあるかも定かではない小さな島の領有権について、国際社会が何かしてくれると本気で思っているのだろうか?
まあ、仮に中国が国際裁判所への出頭に応じたとしよう。そして判決で日本の領土だと確定されたとしよう。それで、中国はおとなしく引き上げるだろうか。
国際裁判の判決には、残念ながら何の拘束力もない。最悪、守らなくても「国際社会からの批判」を受けるだけで、何らかの処罰があるわけではない。
無論、そういうことをやるとそれでも普通は国連で何らかの経済制裁などが議決されたりするが、残念ながら中国はその国連に対して拒否権を持つ常任理事国なので、国連での立場は日本より圧倒的に上だということを知っているのだろうか。中国が拒否権を発動すれば、国連の議題にもならない。ゆえにチベット、ウイグル問題は国際社会から見殺しにされてきたのだが、それもご存知なのだろうか、この政治家たちは。
無論、「だから国際裁判所なんて何の意味もない」とは私も思わない。国際裁判の判決は決定的な正当性の証明になるだろう。ただ、あくまで証明にしかならない。「じゃあ自分の領土は自分で守ってね」ということである。
もし国際裁判所で日本の領土だと認められて、それでも中国が軍事行動で尖閣を奪おうとすれば、さすがにアメリカ軍も黙ってないだろうから、確かにそう言う意味では大きな効果もあるし、意味もある。
ただ、それを「絶対化」するのだけはやめたほうがいい。軍隊を絶対化すれば「軍国主義」となり、様々な弊害をきたすのは誰でも分かるだろう。だがこの「軍隊」を「平和」や「国際裁判所」や「萌え」や「恋愛」にすり替えると、多くの人がコロッと騙される。
国際社会は汚い駆け引きの連続である。そこではいろんなカードを織り交ぜて目的を達成せねばならない。本当は自衛隊を使う気が全くなかったとしても、駆け引きで自衛隊というカードを使うそぶりを見せれば、もしかしたら裁判に応じることもありえるかもしれない。最初から可能性を捨ててしまっては、駆け引きもできなくなる。
さらに先ほど述べたように、国際裁判は完璧ではない。それに対して様々な事態を想定し、万が一に備えるのが政治家の仕事だろう。当然、中国の侵攻も最悪想定しなければならない。無論、そうならないように最大限の努力を双方がすべきだが、それでも最悪の事態をも想定してことに臨むべきだろう。そのためには、いかなる手段も検討に入れなければならない。自衛隊派遣も、当然検討し、準備くらいして備えておくべきだろう。
国際裁判所もひとつの手段だが、それを絶対化して自分で考え行動することを放棄してはいけない、ということだ。
橋下市長の国際裁判絶対説は、おそらく市長が元弁護士の経歴から来た発想だろう。だが、政治家がいつまでも弁護士と同じ考え方をするのもどうだろうか。国際裁判は日本国内の裁判とは上記のような大きな差がある。
どうも橋下市長は地方政治ならともかく、国政レベルになるとズレた話をすることが多いように感じる。日本維新にも大した期待はできまい。
私は、この尖閣問題は国際裁判所で解決しないと思う。
中国が目指すのは「冊封体制の復活」だろう。結局、日本を中国の「臣下」にしたいということだ。その第一歩が尖閣諸島というわけだ。
日本は明治時代以降、脱亜入欧を目指した。それは今でも続いていると思う。製造業のアジア進出が盛んになり、確かに入亜した感はあるが、それでも日本が憧れを抱く、目標とするのは結局「欧米」だ。
一部の人を除いて、「中国のようになりたい」と思っている日本人はいないだろう。
政治的には欧米とつながり、経済的にはアジアを重視するのか。それともアジアとも政治的に連携していくのか。その際の連携はどのような形になるのか。
もちろん、将来のことを正確に予想することは不可能だろうが、問題は日本の政治家に将来の見通しが何もない、ということだ。尖閣諸島問題にしても、同じく中国と領土問題を抱えるベトナムとの連携もできるはずだ。
中国の「現代版冊封体制」に対して「平和と友好」で迎合しかできない日本の政治家こそ、一番の問題なのかもしれない。