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井上達也 短編集3(それでも彼はまだ書いてる)

コーヒーと殺人犯と逃亡者と千駄ヶ谷と

作者: 井上達也

 僕は、なぜだか黒いスーツを着た2人組の男に追われていた。本当に、心当たりがない。僕は、善良な一般市民だし、警察にお世話になるような犯罪をするような人間ではないのだ。ただ、黒いスーツの男たちが警察なわけではないだろう。なぜならば、サイレンサー付きのピストルで僕を向けて発砲してきたからである。幸い、僕は地面にしゃがむことによって、間一髪でその発砲を回避することができた。

 僕は、原宿の人通りが少ない場所で奴らから発砲を受けた。僕は、ただ新しい服を買いにきただけだ。タンガリーなシャツが買いたかっただけなのに、なぜだか黒いスーツの2人組の銃撃を受けるはめになった。

 とにかく、人通りの多い通りに出ることを優先することにした。しかし、僕は何を焦ったか新宿方面に走ってしまい、より人通りの少ないルートを通るはめになった。学生時代は、陸上部に所属していたとはいえ、最近走っていない会社員太りをした僕の体は悲鳴をあげていた。

 新宿方面とはいえ車通りにいけば安心だろうと踏んでいた僕は、大通りを目指した。しかし、これがどうやら誤算だった。大通りに出た瞬間、やつらは車で待ち構えていたらしく、僕の後を追っかけてきた。

 黒塗りのワンボックスカーで、中が見えないようにブラインドシートを窓に貼付けていた。なんだか、先日見たアダルトビデオでこんな車が出てきたようなきがしたが、今は中に可愛らしい女優さんではなく、黒いスーツのいかついお兄さんが乗っている。

 僕の後方にいたはずのワンボックスカーは、すでに前方にいた。そして、ワンボックスカーの窓が開き、中から、ピストルを持った腕が現れ、その銃口が僕に向けられていた。

「やばい、やばい、やばい」

 僕は、とっさに走っていた路地の右側に入った。彼らは、車だ。これで時間が稼げると僕は思った。そして、隠れるならチャンスではないかと思った。隠れる場所はないかと僕は、その路地を進んでみた。

 すると、将棋会館が僕の目の前に現れた。しかし、将棋会館という場所がどういう場所なのか僕にはわからなかったため入るのを一瞬ためらった。しかし、自分の命が危険にさらされている今、そんな悠長なことは言ってられなかった。しかし僕は、意を決して将棋会館に入ることを諦めた。

 将棋会館で、隠れたとしても会館内の人たちの命の危険性が高まってはいけないからだ。それはそれで、駄目だと僕は思った。たしかに、自分の命のほうが大事だが、なんの罪のない人が人質になったり、殺されてしまうところを僕は見たくなかったのだ。

 そして、僕はあることに気がついた。そうだ。交番にいって警察官の人に匿まってもらえば良いんじゃないかということを。どうして、この簡単なことを逃げている間に気がつかなかったのかということに僕は焦った。必死になると、日常的に考えていることは意外と忘れてしまうものだなと関心してしまった。

 いやいや、関心などしている場合ではない。僕は、自分が命を狙われていることを忘れそうになっていた。そうだ、僕は命を狙われているのだ。しかも、理由などまったくわからない。なんとなくで命が狙われているとも言える。なんだろう、あの黒いスーツの2人組は愉快犯かなにかか。休日の暇つぶしかなにかですか。実際のところ、避けたつもりの銃弾も実は空砲で、銃弾なんてありませんでしたなんてオチだったりしないのだろうか。そうであってほしいのも事実である。



 僕は、次の目的地として交番を探すことにした。交番に行けば、なんとかなる。事情を説明すれば匿まってくれたりはするだろう。まぁ、少々頭がいかれているか、自意識過剰な変人程度には思われるかもしれないが、それもかまわない。とにかく、僕は安全安心な場所で匿まってもらい、このアドレナリン全開の体を休めたい。

 僕は、持っていたスマートフォンで将棋会館から一番近い交番の場所をチェックした。

「駅前のが一番近いか……」

 僕は、千駄ヶ谷の駅前の交番にいくことを決め、歩き出した。しかし、歩いている途中で黒いスーツの2人組が目の前を歩いているのを発見してしまった。僕に気がついた様子はなかったのだが、やはり奴らも僕が千駄ヶ谷の交番を目指していることを十分理解しているらしかった。

 そして、僕はまたしても重大な事実を忘れていた。交番云々ではなくて、直接電話すれば良いということをまたしても忘れていたのである。とんだどジッ子ちゃんである。

「はやく、気がつけよな俺」

 そうつぶやくきながら、スマートフォンを手に取り、待機モードを解除して、電話をかけようとした瞬間だった。

「あ」

 思わず、あっと声が出てしまった。そう、スマートフォンの電池が切れてしまったのである。行きの電車の中で、はまっていたRPGゲームをやりまっくていた影響で電池が消耗しまくっていたらしい。たしかに、こんな緊急事態になるとは思わなかったから仕方がないといえばそうだ。

 ならば、電話を借りれば良い。コンビニあたりで貸してくれると僕は思った。

「コンビニでは、そういうサービスは行っておりませんので……」

「いや、ちょっと警察に……」

「ですから……」

 どう見ても僕は不審者だった。最近のコンビニは電話もかけさせてくれないのかと内心怒っていたが、相手からしてみたら自分の携帯電話でかけろよとか思っているはずだ。

 仕方がない。僕は公衆電話を探すことにした。歩きに歩いたが公衆電話は一向に見つからなかった。最近は、携帯電話の普及とともに公衆電話の需要が減って、公衆電話自体の設置を減少させているとは聞いていたが、まさかこれほどまではと僕は思った。

「困った」


 僕は、困った。逃げ場がない。たぶん、黒いスーツの2人組には仲間がいて、元からこの千駄ヶ谷という袋小路に僕を追いつめる作戦だったように思えてきた。だとするならば、僕の完敗ということになる。

 ああ、僕はもうすぐ殺されるのか。たぶん、ピストルで両足を打たれ、気を失った所を連れて行かれて、房総半島あたりで僕の両足に重しをつけて海に沈めるに違いない。言われようもない理由で命を奪われるのか。僕は、少々悔しくなった。

 僕は、歩いていると小さな電気屋さんを見つけた。一軒家の一角にほそぼそとある電気屋だった。そこには、小さな電気屋さんには不釣り合いな大きな液晶テレビが一台だけ置いてあった。

 大阪の人気アナウンサーがやっているニュース番組がやっていた。僕は、そのテレビをしばらく見ていたのだが、あるニュースが伝えられたとき、僕は唖然とした。

「これって、まさか……」



「動くな」

 僕は、うっすら暗くなってきた公園のベンチで座っていると、いきなり後ろから頭にピストルを突きつけられた。

「両手をあげろ」

 僕は、素直に指示にしたがった。

「とうとう、捕まえたぞ。よくも俺たちの仲間を殺してくれたな。殺されたとはいえ、殺すような人物の目星は大方ついているんだ」

 そういうと、男は僕の頭にピストルをグリグリと円を書くように押し付けた。そして、僕は口を開いてしゃべりだした。

「それ、たぶん人違いです」

「はぁ?この場に及んで命乞いか。そんな冗談俺には通じないぞ」

 男は、僕に対して怒鳴ってきた。

「いいえ、命乞いなんかじゃありません。そして、そもそも僕は暗殺犯でもないですから」

「じゃあ、証拠でもあんのかよ」

「ありますよ。僕も、さっきニュースで見たばっかりだったんですけど、どうやらあなたの仲間が殺されたらしいじゃないですか。繁華街の路地裏でナイフのようなもので刺されて。そして犯人の目撃情報の報道では、僕の背丈にそっくりな情報が伝えられていました。しかし、僕のような背丈の人間は日本にはごまんといるでしょう。そんなんで、見つけるのは至難の業です。しかし、あなた方は知っていた。殺した犯人の最も特徴的な部分を」

 僕は、そういってベンチから立ち上がり、相手のほうを見た。やはり、そこには黒いスーツの2人組が立っていた。

「僕は、ニュースを見て唖然としましたよ。だって、僕の名前が出ているんですから。僕の名前って、特徴的ですからね。名字は平凡なんですけど、名前が特徴的だから結構目立つんですよね。珈琲なんて名前の人間、僕は見たことないですから」


 そう、僕はニュース番組を見ていて驚いた。被害者が残したダイイングメッセージが伝えられていたのだが「こーひー」と書かれていたらしかったのだ。司会者とかは「謎ですね〜」とか言って笑っていたが、僕にはわかっていた。

「そうだ。あのダイイングメッセージで俺らの組織を狙っているヤツに一人心当たりがあってな。それが、田中珈琲という男だ」

 男はそういった。つまり、僕は田中珈琲という男だが、男が追っていた男も田中珈琲という男であった。しかし、一方は善良な一般市民であり、もう一方は暗殺屋だった。

「そういえば、どこで僕の名前を知ったんですか? 」

 当然に気になることだった。

「これは、偶然だ。たまたま原宿の洋服屋で働いている仲間が居て、そいつがポイントカードの名前を見て発見した」

 なんと。最近のマフィアは洋服屋で店員をしているのか。これは、大変驚いた。時代なのかもしれない。

「なるほどね……」

「とにかく、すまなかった。俺たちは、なんの無益な人を殺すことはしない。そういう風にリーダーからも言われている。今後こんなことはしないようにする。警察には言わないでくれ。言った場合には君を殺さなければならない」

 そういうと、男は目の前で財布から一万円を取り出して、僕には渡してきた。どうやら口止め料のつもりらしい。

「わかりました。言いませんから、このピストルを僕に向けるのは辞めてください」

 すまないといって、彼らは銃口をさげた。そして、彼らは公園の出口へと向かって歩いていった。もう、既に当たりは真っ暗になっていた。

 スパン、スパン、と乾いた静かな銃声が公園内に響いた。銃声には聞こえなかった。大方、ブランコが揺れた音程度にしか聞こえていなかった。そして、黒いスーツの2人組の男はベンチから数メートルのところ倒れていた。

「もしもし、ボスですか。ああ、言われた通り2人組は消しておきました。ええ、やっぱり感づかれていたようです。いやぁ、僕も途中からは必死でしたよ。いつ、殺されるのかヒヤヒヤしてましたもん。途中、携帯の電池が切れたときなんて死んだと思いましたもん。なんとか、交渉の場みたいのにはつけて、そこからは大逆転に次ぐ大逆転劇。まんまと、僕の嘘に彼らはハマっていました。ああ、そうそうやつらは公園の茂みに一応隠してあるので今日中に処理しておいてください。寝てはいますけど、そんなに長くは眠ってはいないので、とっと房総半島あたりから沈めちゃってください。はい、はい、ええ、はい、じゃあよろしくお願いしまーす」

 公園の入り口付近の公衆電話から僕は早々に立ち去ったのであった。







 


 

 

 登場人物等ははフィクションです。実在の地名は出てはいますが、その場所に公園があるかどうかまではしりません。

 同姓同名の人物にあってみたいものです(この小説では結局同姓同名ではなかったというオチではありますが)

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