仲の良い同僚の女騎士を「こいつのことは男だと思っている」と言う見合い相手に「どちらがタチでどちらがネコですの?」と聞いてみた結果
前作と被るワードがありますが、鯖の種類が全然違います。話の整合性を考えていたらイケメンな鯖になりました。
「あら、ソルト様」
「奇遇ですねスフレ嬢」
「制服姿を初めて拝見しましたがよくお似合いですね。素敵ですわ」
スフレが王都で人気のカフェのオープンテラスで知人とテーブルを囲んでいると、通りに見知った顔を見つけた。
それは王都騎士のソルトだった。スフレとソルトは三月前に見合いをして、その後デートを重ねている仲である。今日のソルトは騎士服を身につけて、同僚らしい騎士と一緒だった。
「ソルト様は巡回中ですか?」
「そうだよ。お嬢さんたちはティータイム中?」
しかしスフレの問いに応じたのはソルトでなく連れの女騎士の方だった。
スフレはソルトに向けて問う。
「こちらの方は?」
「スフレ嬢には話したことがあると思うが、騎士団で同じ班のサーヴだ。サーヴ、こちらはスフレ嬢。《夢の翼》出版社にお勤めのレディだよ」
「スフレちゃんって、ソルトの見合い相手の?聞いてた以上に可愛い子だね」
「サーヴ様。コンビを組んでいる同期だとソルト様に伺っていたのですが、わたくし失礼ながら男性だと思っておりました」
「本名はサヴァランなんだけどサーヴって呼ばれてるからよく間違われるんだよ。気にしないで、スフレちゃん。とそのお友達も」
「私はセイボリー、よろしく」
「シュゼッテと呼んで下さいな」
独特な話し方の眼鏡女子と、二人よりひと回り年上に見える品のよい婦人も名乗りながら挨拶する。
「私、女騎士に初めて会った」
「私もよ。王都騎士団にはまだ十人しかいらっしゃらないんですってね」
「そうだよ、詳しいねお姉さん」
女騎士はスフレとその連れに向けて騎士の礼をとった。
「王都騎士団所属のサヴァランと申します。お嬢様方の日常を守るという栄誉ある職を拝しております。なーんてね」
きっちりとした礼を崩すとキザっぽくウィンクをしてみせるサヴァランは、きっちり着こなした騎士服姿も相まって劇団の看板俳優のような花がある。
「スフレちゃんの髪飾り、人気のあの店のもの?ワンピースもよく似合ってる。品の良さが際立ってて素敵だよ」
おまけに口も俳優なみに回るようだった。
スフレは綿菓子のようにふわふわな髪をした小柄な少女で、淡い色のワンピースがよく似合う。18歳になるのに見た目で子供扱いされるのが悩みである。
「《夢の翼》社って少女小説で有名なんだってね。それがそう?」
三人の卓に積まれた書籍をサヴァランが指差す。
「前にソルトが持ってたやつ見せてもらったけど、あたし恋愛ものは合わないみたい。冒険小説の方が好きだな」
「そうなんですか。後学の為にどのような点が合わなかったのか教えていただけますか?」
「文章が甘ったるくてむずむずするのと、主人公が恋愛脳だしヒーローに夢見すぎでスンってなっちゃった」
「まあ。サヴァラン様は男性に理想を求めないのですか?」
「あたしの兄弟は男ばっか5人もいて、そのせいか友達も男が多いんだよね。男って幾つになっても中身がお子ちゃまなんだよ。騎士団も見た目は立派だけどいいかげんな奴ばっかだし。そうだよな、ソルト」
「おいサーヴ!スフレ嬢の前でそんなこと言うなよ」
豪快に笑うサヴァランに肩をばんばん叩かれ「やめろって」と言いながら、スフレの方をちらちらと見るソルト。
「申し訳ない、スフレ嬢。こいつこそガキみたいで」
「あはは。ガキがガキって言ってるよ」
ひっついたままやりとりを続ける二人に驚いて、スフレは思ったままに疑問を口にした。
「お二人は仲がよろしいのですね。いつもそのように触れ合っているのですか?」
「そうだよー。毎日打ち合いや組み手やってるし、訓練の一環で治療しあったりもするからね」
「サーヴとは男の同僚って感じなんだ。腕は立つし、見た目も美青年だし、性格も男以上に男前だよな」
「ソルトより女性にモテてる自信はあるね。あたしってこんなだから、騎士団では男扱いされてて。ま、そっちの方が楽だからいいけどさ」
「俺もサーヴは男だと思って接している」
「ははは。お嬢さん達も気楽に話しかけて欲しいな」
「確かにサヴァラン様は格好いい。モテるのも分かる」
「リリー先生の作品に出てきそうよねぇ」
男装の麗人に盛り上がる二人を尻目に、スフレは黙ってサヴァランがソルトに触れる指の動きを追っていた。視線に気づいたサヴァランがにんまりと笑いながら、さらに密着度を上げてポーズを取る。
「スフレちゃんもしかして妬いちゃった?」
「おいサーヴ!」
「おお、煽る姿ですらキマってる」
「既存の作品にいない系統の悪役ね。あ、インスピレーションが降りてきたかも」
「何と!私、2年ぶりに新作が生まれる瞬間に立ち会っている?」
場違いにのんきな会話を背景に、スフレは「これは」とか「違う」と言いながら脂汗を浮かべるソルトにゆっくり向かい合う。
「嫉妬、とは違うかもしれませんがお二人の関係はものすごく気になります。ソルト様はサヴァラン様のことを男と思って接している。そういうお話でしたわね?」
「そ、その通りだ」
首をぶんぶん縦に振るソルトの答えを聞いたスフレは勢いよく立ち上がり、好奇心からきらきらと輝く瞳で叫ぶ。
「ではサヴァラン様とソルト様、どちらがタチでどちらがネコですの?」
一瞬の静寂の後。
スフレの叫びの内容が理解出来なかったソルトとサヴァランが首を同じ方向にかしげる。動きが揃うのは日々の訓練の成果だろうか。
「タチ?」
「ネコ?あたし猫より犬派なんだけど」
「スフレさん、一般人にその用語は通じないと思うわ。せめて受け攻めじゃないと」
「うん、受け攻めの確認は大事。戦争になる」
タチネコが受け攻めに変わったがやはりソルトとサヴァランには理解が及ばない。
「ソルト様は我が社のルゥ先生の作品はお読みになりまして?」
「見合いの前に母に渡された本は一通り読んだが、その名に覚えは無いな」
「まあ。今若い女性から一番人気の作家なのに?」
「シュゼッテ、一番人気は言いすぎ」
「我が社で売り上げがトップなのは事実ですよ、セイボリー様。お母様はルゥ先生の作は男性向けでないと除外したのではないかしら」
「あたしからしたら少女小説全体が男性向けじゃないと思うんだけど、そのルゥ先生とやらの作品は他と違うのかい?」
「ルゥ先生の著作は既成概念に囚われず年齢や国籍、性別も超えた自由な愛が特徴です」
「ん?性別?」
「それより私は騎士様の母君がどの本を薦めたのか知りたい」
「女学生が憧れの先輩に認められたくて努力する話と、男女の友情は成立するかという話だった」
「リリー先生の白百合学園シリーズとチックの『愛よりも青し』かしら。お母様の世代なら鉄板ね」
「チック先生の初期作は読む度に印象が変わるのがすごい」
「あの頃は戦時中で規制が激しかったから。隠喩や暗黙の了解を駆使しないと表現出来ないものが多かったのよ」
「蜂蜜入りのお茶、に秘められた意味を知った後に『愛よりも青し』を読み返した衝撃は忘れられない」
「チック先生が天才だということには同意ですが、そのお話は別の場でお願いしますわ」
修羅場っぽいのに修羅場な雰囲気にならないのはセイボリーとシュゼッテの二人が通常運転だからだろう。
生きた修羅場で憧れの台詞「この泥棒猫!」と共にコップの水をかけられる体験をしてみたいスフレにとってはありがた迷惑と言えなくもない。
もう修羅場になるかは微妙だが、スフレは方向修正を試みる。
「話を戻しますわね。お二人のどちらのペニスをどちらのアヌスに入れるんですの?」
「「は?」」
「あらあらスフレさん。女にはペニスが無いのだから、ソルト様のペニスをサヴァラン様のアナルに入れるに決まってるわ。ふふふ」
「あらそうね。わたくしったらうっかりしていたわ」
「お二方はご存知で無かったようですが。タチとは男性が男性とセックスする際にペニスを挿入する方でネコとはアヌスに受け入れる方のことですわ」
「スフレ嬢、往来でなんて単語を!?」
「嫌ですわ、ソルト様。往来でイチャイチャしだしたのはそちらではありませんか」
「その通りね。サヴァラン様がスフレさんへ牽制を始めなければこんな話にならなかったと思うの」
「ではサヴァラン様がソルト様のペニスをアヌスで受け入れているということでよろしいでしょうか」
「「よろしくない!」」
「まあ。ソルト様はサヴァラン様を男として扱っていると仰いましたので。わたくしてっきり、セックスも男女ではなく男性と男性の流儀で行っているのだと」
「私も思った」
「うふふ。騎士はルゥ作品の定番の登場人物だから余計にねぇ」
「女性が少ない環境では衆道に走る者が増える。騎士団もその一端」
「騎士団ものは売り上げがいいんですのよ」
「サヴァラン様にはアナルセックスについて色々聞きたい。シュゼッテの紹介だと玄人が多くて参考にしづらい」
「私も騎士様に聞きたいわ。女性でヴァギナがあるのにわざわざアナルを使うきっかけは何だったのかしら。複数攻めで穴が足りなかったとか?」
「確かに二人だと登場人物が足りない。わんこ系の同期、世話焼きな先輩、立場をかさにきた上司の追加を希望。その場合サヴァラン様は当て馬なのでセックスすることは無いからお尻は守られる」
「男しか追加しないのがセイボリーさんらしいわねぇ。私だったらヒロインに執着するハイスペ男と貞操を狙う義父とそれに嫉妬して売り飛ばそうとする実母に、ヒーローを快楽堕ちさせようとする女を一人足すかしら」
「いつもながらシュゼッテ様の設定は鬼畜」
「うふふ、この程度じゃまだまだ。現実は小説以上に過激なのよ」
相変わらずの二人を無視するようにソルトが叫ぶ。
「俺は尻の穴に興味は無い!」
「ではソルト様がサヴァラン様とセックスする時はアヌスではなくヴァギナに挿入されているということでよろしいですか?」
「そうだよ!いつもヴァギナを使ってるよ!!」
ソルトがこの場を切り抜ける正解があったとしたら、それは「サーヴとセックスをした事は無い」の一言であっただろう。
サヴァランと懇ろな関係であることを自ら暴露したことに気づいていない彼に、スフレは憐れみの表情を向けた。
「実はわたくし、ソルト様に恋人がいることを知っておりました。それが同僚でよく名前のあがっていたサーヴ様だとは思いませんでしたが」
「知って……いた?」
「『断れない筋からの紹介なので見合いはするが、サヴァランと別れる気は無いので破談に持ちこむ。安心して待っていて欲しい』でしたか」
「何故そのことを!?」
「大通りの酒場で話されていたのでしょう?たまたま近くで聞いていた方がわたくしが相手だと気づいて知らせて下さったのです」
「聞かれて困る話なら個室を使わないと駄目よ」
「聞かれて困る話と理解していなかったなら迂闊すぎる」
「破談前提であったことはいいのです、わたくしも仲介人の顔を立てただけでしたので。ですが見合いから三月も経つのに一向にお断りされないので、ソルト様のお考えが気になっておりました」
「スフレは魅力的だから、会ったら惜しくなったのかしらねぇ」
「スフレの人脈が目当てと推察。叔父様に紹介しろと言われなかった?《夢の翼》ファンの母親にも逃すなと言われていたのでは」
「そうなのかい、ソルト?彼女が乗り気で断れる雰囲気じゃないっていうのは嘘だったのかな?円満に断らないと出世に響くというのも?」
「わたくしお見合いの席からずっと、ソルト様が真実の愛の為に誠意を見せてくれるのを楽しみに待っていたのですが」
「だってさ。今するかい?土下座」
サヴァランがソルトの頭をぺちぺちと叩いて悪い笑顔を浮かべる。
「それにしても意外だったわねぇ。サヴァラン様は全て知っていて愛人から離婚後の後妻を狙っていると思ったのに」
「それって典型的なざまぁされる悪役」
「愛人も悪役も断る。あたしは浮気しない真っ当な彼氏と祝福された結婚をしたい。ということで別れようソルト」
「はい!?」
「同意の返事をありがとう」
「同意してないんだけど!」
「はいと返事した時点で騎士様の負け。法廷で証言してもいい」
「うふふ。証人には事欠きそうに無いわね」
サヴァランが優雅に手を振りながら周囲を見渡す。
そこでやっとソルトはここが王都のど真ん中で、いつの間にか大勢の野次馬に囲まれているという事に気づいて顔を青くする。
「ところでサヴァラン様の最初の質問への答えですが。わたくしたち、こちらで仕事の打ち合わせをしておりましたの。セイボリー様とシュゼッテ様の予定がなかなか合わず、やっと捻出した時間でしたのよ」
「ごめんなさいね。孫が生まれてから予定が立てづらくて」
「打ち合わせは進まなかったが、面白いものを見られて有意義なひとときだった。本業の繁忙期が終わったから時間は新たに作れる、問題ない」
「そうだったんだ。三人の貴重な時間を割かせてしまって悪かったよ」
サヴァランが三人に向けて頭を下げる。
「ソルトの見合い相手と知って、煽るような真似をしてしまった。スフレちゃんを怒らせてソルトにあいそをつかして欲しかったんだ。申し訳ない、騎士としても女としても未熟だった」
「いえ、サヴァラン様も被害者だと分かりましたし。破談に出来るのに引き延ばしていたという点でわたくしにも非がございますので、これで手打ちといたしましょう」
スフレが差し出した手をサヴァランがそっと握る。剣ダコだらけの手は彼女が騎士になりたくて研鑽してきた時間を物語っているようだった。
「ス、スフレ嬢は俺を好いているのではなかったのか?」
「騎士という職に敬意を払っておりますが、恋愛的な好意はありませんね」
「あんなに積極的だったのに?」
「積極的?わたくしが?」
「俺のことを知りたがるし鍛錬の様子を見に来たり色々差し入れてくれたり。それに俺と一緒だと楽しそうに笑ってるから」
「今担当している作品が騎士と村娘の恋物語なので参考になるかと思いまして。取材に協力して下さるお礼に差し入れもいたしましたし笑顔は人間関係を円滑にする為に誰にでも向けております」
「スフレは聞き上手だから話がはずんじゃうのよね」
「あとはシュゼッテ様に教えていただいた『さしすせそ』の効果でしょうか」
「役に立っているようで嬉しいわ。殿方をいい気分にさせる基本だからお店の女の子にも最初に教えるのよ」
「流石です、しゅきしゅき大好き、すんごおぉいっ♡、セックスが上手なんですって?、そうなんですね、だった?」
「惜しいわね。しゅんごおぉいっ♡と好き好き大好き、よセイボリーさん」
「冗談だったのに。ちゃんと覚えてるし職場の上司に使ってる」
「みんなすごいね。あたしはそういう台詞鳥肌立っちゃって無理だよ」
「相手は小さい子どもで、褒めて伸ばしてあげるんだと思い込むのがコツよ」
「サヴァラン様は『さしすせそ』より正直で誠実なところを前面に出す方がよろしいかと。そういった面を評価して下さる方は必ずおります」
「そうか、うん。ありがとう」
「正直、誠実で『し』と『せ』。ならサヴァラン様に似合う『さすそ』は何か」
「さ……咲き誇る花のようなその笑みに」
「す……水晶のように輝く瞳と」
「そ……象牙色の滑らかな肌」
「お二人とも。ここは外見ではなく内面を称える場面ですわよ」
「うっかりうっかり」
「でもサヴァラン様が美しいのは事実よ」
「サヴァラン様は心が健康で美しいから外見にも美しさが滲み出ている」
「そんな褒められ方されると何だかこそばゆいな」
「流石セイボリー様。言葉選びのセンスが抜群で素晴らしいですわ」
「おお、スフレに『さしすせそ』された。確かにこれはいい気分になる」
「そういえばソルト様とサヴァラン様は見回りの途中でしたか。ずいぶんお時間を取らせてしまいましたわ」
「王都民との交流も業務のひとつだから。往来でするには不適切な内容だった点は怒られるかもしれないけど」
「そういえばソルト様、大声でサヴァラン様との関係を叫んでいましたわね。……大丈夫ですの?」
「過ぎた事は気にしない性分なんだ。それにあたしとソルトが付き合ってるのは有名だったし、周りも体の関係があると思ってただろうさ」
「女騎士として注目されているサヴァラン様との仲をスフレさんに隠し通せると思っていたなんて、見通しが甘いわねぇ」
「スフレちゃんに惚れられてるからバレても押し通せると思ったんだろうさ。根拠のない自信がガキっぽくて笑えるね。別れて正解だったよ」
「サヴァラン様がお望みなら、お詫びとして新たな縁を紹介させていただきたいのですが」
「せっかくだしお願いしようかな」
「騎士様にも新しい恋人としてタチ、ネコどちらも紹介できる」
「そこは女の子紹介してくれよ!」
「ガチムチタイプ、優男タイプ、腹黒タイプ、どれが好み?正統派ヒーローに溺愛される展開は間に合ってるので却下」
「間に合ってるって何!?」
「あたしは騎士を続けさせてくれるのと兄弟たちより強いのが条件で。見た目は清潔感があればそれでいいかな」
「ご兄弟から大切にされていらっしゃるのですね、素晴らしいです」
「うちの息子の友人に腕は確かな子がいるわ。性格も実直で家族思いなんだけど、顔に傷痕があるのと口下手なので女の子となかなかご縁ができなくて」
「傷痕は見慣れてるし、女だからって気を遣った会話もいらないよ」
「まずはその方も含めて複数人で食事に行くのはいかがでしょう。出来たらわたくしも同席したいですわ」
「寡黙で実直で傷のある青年。受けにおすすめ」
「聞いてるうちに興味が出てきたんだけど。ねえ、ルゥ先生の本であたしでも読めそうなのってあるかな?」
「短編なら装飾も少ないし展開が早くていいんじゃないかしら」
「プラトニックがお好みか濡れ場が欲しいかも重要ですわ」
「大丈夫。気にいる作品が無かったらその青年を主人公に新しい話を考える」
「モデルにするならサヴァラン様の許可を得なくては駄目よ、セイボリーさん」
「本人の許可を取れよ!」
「そうだソルト。元カノと四六時中一緒というのも気まずいだろう?帰着したらコンビの変更希望を出しておくよ」
「俺は別れるなんて一言も」
「しつこい男は嫌われますわよ、騎士様」
「うん。諦めて新しい彼氏を探した方がいい」
「打ち合わせにはなりませんでしたが、新しい友人が出来ましたしチック先生とルゥ先生の創作意欲が高まって万々歳ですわ」
騎士団の地道な努力もあって、王都は今日も平和である。
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おまけ
入れどころが無くて削った会話
「騎士になったのも、男の子たちと棒を振り回して遊んでたのがきっかけなんだよね」
「男の子って棒が好きよねぇ。誰の棒が長いとか、強いとか」
「サヴァラン様はどんな棒がお好きですか?」
「うーん。握りやすい太さで先が少しだけ反ってるやつがいいかな」
「やはり太さが大事なのでしょうか」
「長さも太さもバランスだね。慣れるとぴったりくる棒ってのは見ただけで分かるようになるんだ」
「なるほど。場数も大事、と」
「棒なんて握ったことの無いお嬢さん方には分からないだろうけど、体力じゃなくてテクニックで勝負するんだよ」
「一対一じゃなくて複数を相手取ることもあるのかしら」
「三人程度は余裕だね」
「兄弟がいるという話だった。襲われたら守ってくれた?」
「二番目の兄さんは守ってくれたけど、上の兄さんはこっちが助けに入る方だったし弟は一緒に襲ってきたかな。返り討ちにしたけど」
「サヴァラン様はお強いのですね」
「自慢じゃないけど地元じゃ負けなしだったよ」
《夢の翼》関連の裏設定がノリに乗って大変なことに(^_^;)
《夢の翼》社
正統派少女小説の《夢のつばさ》、女性向け官能小説の《愛のつばさ》、BでLな小説の《自由のつばさ》を三本柱とする出版社。
元は大手出版社の税金対策な赤字部門で趣味に走った作を細々と出していたが、いつの間にかコアなファンがついていてそれが文壇の大物だったり重鎮の息女だったりやんごとないお方だったりして色々あって独立した。
リリー
財閥の創始者を母方の祖父に持つお嬢様。
お気に入りの小説の作者が亡くなったことを悲しみ続きを妄想してノートに書き溜めていたら、それを読んだ兄が気に入ってどんな伝手を使ったのか作者の遺族に許可を取り出版の運びとなった。
その後オリジナルの小説を書き始め、美しく時に残酷な世界観で多くのファンを獲得。伝説の少女小説家と呼ばれるまでになった。
後に《夢の翼》担当編集と結婚、一男一女をもうける。最近、娘から友人だというハンサムな騎士を紹介されてテンションと共に創作意欲が上がった。
キー・チック
デビュー作は無難なボーイミーツガールものだったが、リリーに「もっと心のままに書きなさい」とアドバイスされてそれまで少女小説でタブーだった性表現に切り込む。
過激な性描写と人の心の闇を覗くような作風が女性だけでなく男性にも人気。ヒロインが強くたくましいので悲壮感が少ないが、展開も鬼畜なら出てくるキャラも鬼畜なことが多い。
近年は私生活が多忙で執筆ペースが落ちていたが久々に新作が刊行され、敵役の男装の麗人が鬼畜なのに鬼格好いいと主役を食う人気になっている。
「チックの二度読み」
規制が激しかった時代に出版された初期作は《夢の翼》読者にだけ通じる隠語や表現をちりばめて、深読みすると登場人物が体の関係を持っていることや人間関係がこじれていることが分かるようになっていた。
読むたびに新しい発見があると趣味人に好まれている。
『愛よりも青し』
チックの初期代表作。
ソルトが母に「この本、裏を読むって聞いたんだけど」とこぼしたら、三時間にわたって語られる羽目になった。
表
祖父に憧れて職人になったヒロインは、男社会で侮られないようにと髪を切り男装して修行に励んでいた。
伸び悩んでいたところに学生時代からの友人から告白される。工房の先輩に相談する中で自分の中の「女」を思い知らされたヒロインは、気持ちの整理をつける為に新天地へと旅立ちそして……。
裏
学生時代からの友人に告白されて悩むヒロインは、相談した工房の先輩に乱暴されて自分が「女」であることを思い知らされる。関係を強要されるうちに妊娠したヒロインは、出産の為に新天地へと旅立ちそして……。
ビィエ・ルゥ
少女は思った。ヒロインに振り回されてばかりのヒーローは親友と冒険の旅に出た方が良いのではと。
少女は思った。このヒーローと当て馬の絡みをもっと見たいと。
少女は思った。性別が同じなど、愛の前では些細なことだろうと。
少女は思った。無いのなら、自分で書くしかないと。
シュゼッテ
裏社会の顔役を父に持ち、劣悪な環境でたくましく生きる人々を見て育った。
飲食店を手広く経営する家に嫁ぎ、子育ての中で触れた物語に惹かれて執筆を始める。
最近、娘に初孫が産まれた。
好物はアニスのキャンディ。
セイボリー
王宮の財務局に事務官として勤めている。作家としての稼ぎの方が多いが本業はあくまで事務官。頑張って入った憧れの職場なので辞めるつもりは無い。
ある日、いきなり閑職に回されそうになったが上司と同僚たちが全力で守ってくれて職場がより好きになった。
その時の上司(性別:女。『さしすせそ』している上司とは別人)があまりにも格好よかったので男性化して次作品の主人公にして相手役は上司の夫をそのまんま当てた。
職場に副業のことはバレていない。はず。
「受け攻めの確認は大事。戦争になる」
この国の女王と隣国の皇女の間に古典文学の二次創作でカップリングのリバが発生。マジで戦争一歩手前だった。
慌てた関係者がルゥ先生にそれぞれのカップリング、理想のシチュエーションでの執筆を依頼。神作に満足した二人は和解して二国の平和は守られた。ありがとうルゥ先生。献上された作品は同好の士と認められた淑女にのみ閲覧を許されている。
女王
大好きなルゥ先生による理想のシチュ小説にテンション爆上がりしたが、一周まわって冷静になり「推しに迷惑かけるとはファン失格では?」と反省。皇女とは和解しておすすめ本を紹介し合う仲になった。たまに口論になるけどもう公私は混同しない。多分。
後日、ルゥ先生のファンの集いをお忍びで覗いてほくほくしていたら、次の日王宮内を事務官姿のルゥ先生が歩いていてびっくりした。「ファッ!?」って声も出て周囲の人をギョッとさせた。
先生の執筆時間が増えるように閑職に回そうとしたが速攻バレてみんなに怒られる。しかも先生の次作が悪徳女王がぎゃふんと言わされる内容で、モデルにされた喜びと嫌われたかもしれない悲しみでしばらく感情が大変なことになった。
蜂蜜入りのお茶
《夢の翼》のとある作家のヒロインがヒーローと結ばれるとお茶に蜂蜜を入れて飲むシーンが入る、というお約束から「蜂蜜入りのお茶を飲む」イコール「事後である」という暗黙の了解が生まれた。
上級者になるとお茶と蜂蜜の種類や一緒に供される皿の内容からどちらからどう誘ったか、同意はあったか、満足できたかなどあらゆる情報が読み取れるという。
昨今は《夢の翼》のお約束を知らなくて作品の裏を読み取れない若者が増えており、旧作の良さを広めたいファンに捕まると三時間は離してもらえない。
スフレ
偉大な母と厳しくも優しい父、腹黒な弟の家庭で愛情たっぷりに育った。
父母の仕事の関係で幼い頃から文学者や芸術家に可愛がられていたせいか常識が多少ズレている。
今回は仕事で騎士の生態を調べていたら、騎士に憧れがあると勘違いした世話焼きおばさんがソルトとの見合いをセッティングした。
合法ロリ。
サヴァラン
小さい頃から男の子に混じって棒を振り回すのが好きだった。成長すると兄と一緒に剣術道場に通うようになり、才能が開花して地元で一番の剣士になった。
学問は上の下くらい。女の子からの嫉妬をかわす術としてキザっぽく振る舞ってたら人気が出ちゃった。女の子が笑顔になってくれると嬉しいのでノリノリで演じているうちに、本来の性格と融合。
ソルトとは会話の勢いで何となく付き合い始めた。実は男性にも人気があり、団の女性騎士の中では三番目にモテる。
シュゼッテに紹介された青年とお付き合いの末結婚。式では引き出物にリリー・チック・ルゥによる書き下ろし小品集が配られた。
女王「何とか読む用・保存用・同志の閲覧用の三部手に入れられぬものか」
筆頭補佐官(《夢の翼》社からサイン入りで献上された事はしばらく黙っておこう)
ソルト
世話焼きおばさんの遠縁でスフレのお見合い相手に抜擢された。
最初は本当に顔合わせだけのつもりだった。だがスフレが幼く見える為にいきなりお断りすると泣き出しそうに思え、何度かデートしたら破談にするのが惜しくなった。
「騎士と結婚したがっている」という誤った前情報、何とあの大財閥と親戚で、《夢の翼》信者の母にも全力で応援され、スフレにもめっちゃ好かれているという勘違い。でもサヴァランも手放したくない。という事でずるずると二股を続ける。きちんとした見通しはなく自転車操業だった。
サヴァランの事は入団時から狙っていた。友人として距離を詰め、場の勢いで押して付き合うことを了承させた。
男女問わず人気のサヴァランを振り回した挙句捨てられたことで、職場の評価は下がるし肩身も狭くなった。




