にゅーっと
「何でもそうやがな。使ったもんはみなちゃあんと、元の場所に戻しとかないかん」
「うん」
「でないとな。物にはそれぞれ神さんが宿っとるで、だらしない事をしとるとバチがあたるんや」
「うん」
「特に井戸神様はようわかる。井戸の中や周りを汚したり散らかしたり、井戸の中に桶を入れっ放しにしとくとな。夜遅くになると、井戸の中からにゅーっと。白い手が出て来て、井戸の周りをペタペタ触らっしゃるんだわ」
「……見た事あるの?」
「ある。井戸神様が出て来なさった時はな、一声かけてちゃあんと謝ってから井戸の周りを片付けなあかん。そのまま放っておくと、病人がでるんや」
「病人?」
「そうや。散らかした本人や家の主がな。えらい熱が出たり、震えがきたり、大怪我したりする。目や耳が駄目になったもんもおる。
三郎助のばあちゃんは井戸神様を見て腰を抜かしてしもうて、何も出来んでおったら熱出してしばらく寝込んでしもうた。嘉ェ門の隠居のとこは井戸端を修繕しかけで放っておいたら、屋根の修繕をしてた二番目の息子が屋根から落ちて寝たきりになってしもうたし。
篭谷の孫嫁さんがいつも井戸端を片付けんで、ありゃ良くないで、と言うとったら最初の子を流産してしもうたし。
他にも色々あるんやで。
井戸神様の障りは医者に行っても治らん。そうなったらまじない師さんとこへ行って、まじない師さんが作らはった厄除けの薬と御札をもろうてな。まじない師さんの厄除け薬を服んだ後、御札も小さくたたんで丸めたのを呑み込むんや。ドクダミを煎じたのもたんと飲んでな。
それから井戸神様によーぉ謝ったらたいがい治る。治らんかったもんもおるが」
「ふーん…」
「だからな。ものはちゃあんと片付けなあかん。特に井戸の周りはな。川の洗い場もや。山に入った時は山にゴミを捨てたりしたらあかん。山神様が怒りなさるで」
「山神様?」
「そや。山神様はな…」
幼い頃、よく母方の祖母に聞かされた話である。




