エピローグ 数年後、産科の朝
五年後。ベル・サンテ第一号院、産科病棟の朝。
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セレスティーヌ・ド・モンテーニュ、二十二歳、産科医長。ボブヘアは相変わらず肩の高さで揃っている。白い医師のエプロンドレスの首から、聴診器を提げていた。
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「先生、先ほどのお産、無事にお済みになりました」
若い看護師が報告した。第三期生の卒業生だった。
「母子ともに、お元気でいらっしゃいます」
「ありがとう、ジャンヌ。よく対応なさいましたわ」
「先生、いつもご指導、感謝申し上げます」
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セレスティーヌは廊下を歩いた。
ベル・サンテは、いまや王国全土に十二院。看護師は、累計八百名を送り出した。新生児死亡率は、四割、下がっている。
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執務室では、ラファエル・ド・サン・ジュスト公爵——先年、父から爵位を継いだ——が、書類を整えていた。
「セレスティーヌ嬢、第十三号院、北の領地の建設地が確定いたしました」
「ありがとう、ラファエル様」
「来月には開院いたします」
「頼もしいこと」
二人は、頷き合った。王弟オーギュスト殿下は、あれから幾つもの縁談を退け、独身のまま国政に専念していらっしゃるという。もっぱらの噂では、ベル・サンテへのご後援を、誰より楽しんでいらっしゃるらしい。
ベル・エトワールは、いまや二十店舗。本部はロザリーが店長を務め、マチルダがデザイン主任を任されている。二人合わせて、千名以上の女性を雇っている。筆頭出資者のヴェリエール子爵令嬢マルゴは、相変わらず店の隅で口を挟んでは、ロザリーに叱られている。ヴェリエール子爵家の資産は、いまやベル・エトワール抜きに語れない。
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「ティナさーん!」
廊下の奥から、リリアが走ってきた。十六歳、モンペリエ伯爵令嬢という顔をしながら、いまや五百名の女性タレントを率いる女社長でもある。
「リリア、ご機嫌よう」
「ティナさん、お祝い、お聞きしました!」
「ふふ、リリア、話が早いのね」
私、二人目を、授かった。セレスティーヌは、自分のまだ平らなお腹に、そっと両手を当てた。五歳になった長男の、弟か妹だ。
「リリア、ありがとう」
「ティナさん、おめでとうございます」
「ふふっ」
二人は、笑い合った。
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夕方、ヴィクトールが馬車でベル・サンテまで迎えに来た。
「セレスティーヌ、お疲れですか」
「ヴィクトール様、ええ、少々」
「帰りましょう。アンリが、母上をお待ちです」
馬車の中で、ヴィクトールがセレスティーヌの肩に肩を寄せた。セレスティーヌの頬が、かっと赤く染まった。脈拍、頻脈。四十歳の医師の見立ては、正確だった。
「セレスティーヌ、五年経っても、変わりませんね」
「ヴィクトール様、これはもう、私の体質ですから」
「ふっ」
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馬車が、モンテーニュ侯爵邸の門を潜った。玄関では、五歳になった長男アンリが走ってきた。
「ママ! ママ、おかえり!」
セレスティーヌはしゃがみ込み、アンリを抱きしめた。
緒方真理子、見ていて。いま、五歳の息子を抱きしめている。前世の末っ子と、同じ年になった、この子を。
「アンリ、ママ、いま帰ったわよ」
「ママ、今度の誕生日、来てくれる?」
セレスティーヌは、目もとを緩めた。
「ええ、もちろん。今度は、ちゃんと行くからね」
「やった!」
ごめんね、真理子の末っ子。あの日の誕生日、行けなかった。今度は、ちゃんと行くから。
セレスティーヌはアンリを抱きしめたまま、ヴィクトールを見上げた。ヴィクトールが目を細め、二人を抱きしめた。
夕陽が、モンテーニュ侯爵邸の玄関に差し込んでいた。
おかえりなさい、緒方真理子。
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【完】
『婚約解消されたオバカ令嬢、前世を思い出す』
——推し活令嬢の異世界革命 外伝——
緒方真理子、四十歳、産婦人科医。
セレスティーヌ・ド・シャティヨン、のちのド・モンテーニュ、十七歳から二十二歳。
二度目の人生、ここに幕を下ろす。
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この温かさが、もう二度目の人生の、何よりの答えだった。




