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UN:KNOWN 5~6  作者: エイト
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No God, No Heaven.

「その通りです。それが真実です」

 それまでその人物の声はこの場にもっとも相応しいものだった。だが、今やその人物の声は望に嫌悪の感情しか抱かせなかった。気持ち悪い。(のぞみ)は唐突にそう思った。

「どうしました? 真実に辿りつけたんですよ? もう少し喜ぶかと思っていました。……今、嬉しいですか? それとも、絶望していますか?」

「………」

 望は答えない。いや、答えることができないのだ。口を開けば、罵声しか出てこない。そして、勢いにまかせて殴りかかってしまうかもしれなかったからだ。そうであってはいけない。まだ、聞きたいことがたくさんある。だから、望は必至に感情を抑えることに全神経を使っていた。

「さて、何から話しましょうか……何から聞きたいですか? 時間はたっぷりあります。できるだけ丁寧に答えましょう。わたしが知っていることは何でもお話しますよ」

 いつものようなやわらかい笑みを崩さない。そのおっとりとした声からはまったく今の状況に対する危機感は感じられない。何か秘策でもあるのだろうか、もしかして諦めているのだろうか、それとも……望が自分を殺すことはないと考えているのかは定かではないが、そのいつもと変わらないことが望の感情を荒げていたのだけは確かだった。

「答えてくれないんですね。でも、まあ、いいです。そうですね……では、もうおわかりだと思いますけど、わたしの正体から申し上げましょうか……得体のしれないものから聞いたことはそれがどれだけ確たる根拠に基づいていたとしても、非現実的に空想的に聞こえますからね。わたしは、あなたの想像通り、現在のこの世界を創った神ですよ。その表現が正しいかはわかりませんけどね」

 どんなことでも驚くことはないと思っていた。だが、やはり改めて本人の口から聞いてみると望は驚きを隠しきれなかった。表情が強張るのがわかった。おそらく、それがわかったのだろう、先ほど神と名乗った人物はくすりと笑う。そして、続ける。

「といっても、現在のわたしにはこの世界を再び改変させるほどの能力はありません。あなたと似たような存在……人間以上、神未満といいましょうか。といっても、わたしはあなたより少しカスタマイズされた存在ですけどね。もう、かれこれ、500年近く生きていますし、知識だってあなたと比べるまでもありません」

 一方的に相手の話を聞いて、適度に相槌を打っていくのは望は得意だった。よく、聞き上手と言われたものだ。だが、これほどまでに他人がペラペラと喋るのを苦痛に感じたのは望にとっては初めてだった。これならば、塾の難しい講義の方がはるかにいい。そう思った。

「望さん? 聞いていますよね。じゃあ、本題に入りましょうか。次はこの世界の仕組みに……望さん? 大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ」

 そう言っててその人物は本当に心配そうな顔をしながら望に近づく。いつもの顔。それが、望にとってはとてつもなく気持ちわるかった。

「く、来るな」

 なんとか絞りだした言葉はそれだけだった。本当はもっともっと言うべき言葉があったはず。だが、言えなかった。

 その人物は心配そうな顔をしながらも、それ以上、望に近づくことをやめた。

 ひんやりとした空気があたりを包み込む。望はあらためて今の自分の状況を確認する。学校の屋上。望は出入り口を背に、対峙する人物は望の延長線上にいる。だんだんと辺りは暗くなっていた。いや、先ほどとたいして変わっていないのかもしれない。だが、望にはどうもはっきりと思いだせなかった。さきほどは今よりも明るかったのか、それともこんな感じだったのか。そもそも、自分は何時にここに来たのだろう。そして、どのくらい時間が経ったのだろうか。だが、望にはどれもわからなかった。いや、そんなことは考える必要はない。そう自分に強く言い聞かせて、望は思考を変えた。

「続けて……この世界の仕組みについて」

 望が強気にでたことが、それが仮にから元気だったとしても安心したのかその人物はまたやわらかい表情を作り、話始める。

「この世界の仕組み……わたしがこの世界を作ったのは今から200年くらい前です。どうやって作ったかは、あなたもご存じの通りです。問題はどうやって作ったかではなく、どうして作ったか。よく覚えておいてください。重要なのは手段ではなく動機です。話がズレましたね。どうして作ったか……それは、あの世界が神の理に則っていたからです」

「………」

「ここで言う神とはわたしと同等だった存在のことですよ。万物の創造主、全知全能の神とは異なります。おそらく、それまで存在していた世界も何者かが作ったのですからね。すでに、オリジナルたる神が創った世界は、すくなくともわたしが生まれた時には存在していなかった。聞いた話では、わたしが世界を作りかえる以前に、すでに7回も世界は作りかえられていたのですから。オリジナルがどんな世界だったのか、想像もつきませんね。輪廻転生という言葉はご存じですね。それまでの世界はまさに輪廻転生の世界でした。生は一時、死も一時。という感じですかね。人は動物になり、動物は人になる。前世で悪いことをしたものには、来世で辛い生きざまを。前世で善い行いをしたものには、来世で幸福な生きざまを。魂にやすらぎがない世界。それがそれまでの世界でした。といっても、誰も世界の仕組みになど気づいていません。わたしがそれを知ったのは、聞いたからです。全くのウソという可能性もありますね……いえ、その可能性の方が高いかもしれませんね。わたしたちは彼らにいいように踊らされているのだと。ですが、そんなことで嘘をつく理由も彼らにはありません。だから、わたしは信じました。そして、魂がすり減るだけの世界というのを、とても嫌い、それを改変したのです。そう言えば、あなたには今、わたしが言っていることの意味は伝わりますかね……なんせ、わたしは古いタイプの人間ですからね。そんなこと、あなたは信じないかもしれませんが、今のわたしの価値観にはまだ輪廻転生ということに対しての恐ろしさがあります。理解できないのであれば、する必要はありません。それは、求めていませんから。そもそも、人間というものが互いに理解するということは……ああ、またズレてしまいましたね。申し訳ない。まあ、当時を生きていたわたしにとっては、それはとても恐ろしいこと。それだけです」

「価値観とは時代によって変わりますからね。それが、真実をより見えにくくしているのかもしれませんね」

 とその人物はとってつけたように言い足した。

 望にはその人物の言っていることがほとんどわからなかった。だが、その人物が言った‘価値観の違い’。それが、望が理解しようという意欲をうまい具合に削いでいた。

「そんなことはどうでもいい。早く、世界の仕組みについて、話しなさい」

「ああ、ごめんなさい。ところで、あなたはもうその能力の中にいる存在と邂逅を果たしたのかしら」

「? 何を……」

「どうやら、まだ会っていないようね。まだ眠っているのかしら、それともあなたの自我が強すぎるのかしら。まあ、どうでもいいことね。その中にいる存在はね、わたしなんかよりもずっと前からいて全てを知っているのよ。わたしが言っていることがどうしても信じられなければ聞いてみるといいわ。この世界が7回、改変されたことは言ったわね。この世界の仕組みはね実にシンプルよ。選ばれた者、そして生き残った者が全てを手にする。それがこの世界の仕組み」

 とその人物はそこで一旦くぎりちらりと空に視線を移した。望もつられて、だが、油断を見せることなくその人物の行動に集中しながら空を見上げた。だが、空には雲以外何もなかった。

「どうしてそういう仕組みなのかはわたしも詳しくしらない。ただ、全ての始まりはわたしたち人類からだった。わたしたち人類が、その中にいる存在をこの地球上から滅ぼしたのよ。どういう考えからかは知らないけど……弱肉強食のようなそんな単純な理由かもしれないわね。わたしたちに滅ぼされたその存在がわたしたち人類に嫌悪と憎悪を抱くのは必然、彼らは人類を滅ぼそうとしたのよ。そのために、わたしたちにこんな能力を与えたの。互いに殺し合わせるためにね。実に論理的ね」

「それが世界の仕組み……。その存在はどこに?」

「どこ? 言ったでしょう。あなたの中にもいるのよ」

「あなたがその話を聞いた存在のことを言ってるの」

「さあ、どこかしらね。わたしはもう能力者じゃないからわからないわ。さて、話を進めましょう。わたしがあなたとここでこうして話をしているのには理由があるの。世界を改変してから200年、わたしは再びこの世界に絶望したのよ。そして、この世界を再び改変しようと思い立った。だから、あなたに接触したの。世界を改変するにはわたしが知っているだけで2つの方法がある。一つは、あなたに先ほど話した通り、能力者同士の戦いに生き残ること。そして、もう一つは……」

 その人物は足元においてあったボストンバックのチャックを開けて、それをなんでもないような動作で取り出した。サッカーボールほどの大きさのそれを、サッカーボールをもつようにぞんざいに扱う。サッカーボールとは違って持ちにくいのだろうか、それともそんなことをしていてもやはりそれを軽々しくもつのは気味が悪いのだろうか。いずれにしろ、望の中では今までにないほどの憎悪が膨れ上がっていた。

 その人物はそれから生えている黒いものをつかんで、望に見えるようにした。

「あなたの創の能力を使うことよ」

 それはとても綺麗な顔をしていた。まるで、今にもいつものような調子で望を安心させる人懐っこい笑顔とともにジョークを言いそうだった。

 それは、見間違うこともない、望の親友。(あおい)の頭部だった。


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