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ある張飛使いの狂気【ネオアミューズメントスペースa-cho】

 私が地方でくすぶっているあいだも世間は動いている。

 恋姫界隈は初の公式全国大会『覇王決定戦』の予選大会で湧いていた。

 全国のゲームセンター16箇所で行われる、壮絶な椅子取りゲーム。

 予選は一社でも行われる予定だったが、私はどうしても仕事で都合が合わず、不参加が決定していた。

 その代わり、鍵さんの誘いもあって私は京都の『aーcho』というゲームセンターの予選に参加することにした。

 2015年1月31日。

 気軽に行ける隣県とは違う、新幹線を使った初の本格的な遠征。そして全国大会。

 はなから勝てるとなど思ってはいない。ただそのレベルを目に焼き付け、現状を打破するための課題をひとつでも持ち帰れれば御の字だった。

 現地で鍵さんと合流した私は、早速昼食に誘われた。

 大会前の昼食会には鍵さんの顔なじみが4名いて、私はそこに同席する形になった。

 お好み焼きを焼く鉄板を囲み、私は向かいに座った赤影さんのというプレイヤーとたわいないソーシャルゲームなどの話で盛り上がっていた。

 赤影さんは『張飛』というキャラクターの使い手で有名だった。

 張飛はいわゆる投げキャラで、コマンド入力の必要な特殊な投げを持っていた。ゲージを一本使用してそのコマンド投げをすれば、発生まで無敵の付与されたガード不能の攻撃となり。その荒らし性能は随一。頭の固いタイプのプレイヤーに嫌われるタイプのキャラクターだった。

 しかし、その使い手である赤影さんはとても温和で、初対面の私とも穏やかに会話をしてくれた。

 いざ大会が始まり、私は一回戦をシードで抜けると、続く二回戦、四国の強豪呂布使いとぶつかり、あえなく撃沈した。呂布と相性が悪いのもあるが、純粋に相手が強かった。

 そして、決勝。

 組み合わせは赤影張飛と、先ほどとは別の呂布使い。

 張飛は、私の使用する夏侯惇よりリーチが短い。対するは長射程の呂布。この差をどうするか。勉強させてもらうつもりで、私はその試合を見守った。

 壮絶の一言だった。

 赤影さんは呂布を相手取り、荒らしに荒らした。

 強キャラの呂布を相手に、言っちゃ悪いが弱キャラの張飛でだ。

 最終ラウンドのそれは鬼気迫るものだった。私の記憶が定かなら、赤影さんは時に硬く身を守り、時にジャンプを合わせ、その1ラウンドでなんと四回もコマンド投げを決めた。

 めちゃくちゃなプレイをしているようで、細い綱の上を渡るようなその狂気は、呂布の首筋に深くめり込んだ。

 私は余韻に浸って、喫煙所でタバコを吸っていた。

 私は呂布と戦うときに、なかば諦めムードを漂わせていた自分を恥じた。そして、最後の最後まで自分の読みを信じた赤影さんに敬意を表さずにいられなかった。

 すると、ちょうど私の目の前を、赤影さんが通った。

 私は慌ててタバコをもみ消し、すぐに階段を降りていく彼の背中を追いかけた。

「すごかったっすね! おめでとうございます!」

 赤影さんに追い付いた私は、彼に心からの賛辞を贈った。

 赤影さんは照れながら小さく頭を下げた。

「いや、まじですごかったっすよ。こんなこというのもあれですけど、よく張飛であそこまでやれましたね」

 すると赤影さんは恥ずかしそうに、しかしはっきりとした口調で言った。

「2年間、恋姫だけやってきましたから」

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