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蜜月【ゲームハウスアリババ】

 毎週金曜日は穂積レジャーランドに集まるのが習慣化していた。

 メンバーはシド。シドと付き合いの長い、私のひとつ年下のハチミツさん。そして毎週お隣の滋賀県からやってくる、一つ年上の鍵さん。そして私を加えた四人だった。

 三人とも長年の格ゲーマーで、恐ろしく強いことは共通していたが、それぞれタイプが違った。


 シドは趙雲という、長いリーチを持ちながら接近戦もこなせる、立ち回りの強いキャラクターを使用していた。が、その動きは破壊的の一言。隙あれば高火力コンボである崩撃コンを狙ってくる。

 特に投げ抜けの攻防。

 このゲームには他のゲームにもよくあるように『投げ』というガード不能の攻撃がある。しかし、投げは掴まれてから投げボタンを押し返せば『投げ抜け』という回避行動をとることができる。

 それを逆手にとってシドはよく『6B』という技を狙ってきた。趙雲の6Bは崩撃属性を持った中段技だが、空中に浮いているという特性がある。そのため私が「投げが来る」と思って投げ抜けをしようとすると、空中にいる趙雲の目の前で暴発した投げを空振ることになり、崩撃を貰ってしまうのだ。

 これはあくまで一例だが、シドはありとあらゆる手段で崩撃を狙い、かと思えば立ち回りは堅実で、自分だけ荒らして、相手には荒らさせない。

 シドとの戦いは、相手の乱暴な行動に、正面から正解を選び、対処すると言う私の防御力が問われるものだった。


 ハチミツさんはシドとは対極に、徹底したデジタルなプレイヤーだった。その冷たいまでのリスク・リターンの管理は、いくらこちらが調子よく攻撃を当てているつもりでも、気付いたら体力差で負けている。

 その真価は守りに発揮され、私はハチミツさんが固まって攻めてこなくなったときが一番怖かった。なにをどうしても、自分が不利になるイメージしかわかない。かといってなにもしなければ制限時間のタイマーが進んでいく。

 加えてハチミツさんは使用キャラクターをよく変えた。その時々で一番強いキャラクターを分析し、すぐに自分のものにしてしまう。

 ただでさえ手も足も出ないのに、キャラクターまで変わったら対策が追い付かない。

 だが、どんなキャラクターを使ってもハチミツさんはハチミツらしさを失わず、ハチミツさんのままだった。

 私は守りの堅い相手と戦うとき、いつも頭の片隅で、アリババでハチミツさんを攻めあぐねていたことを思い出している。


 鍵さんは職人だった。関羽という近接に特化したキャラクターを使い、重戦車のような圧力で前に、前に、出てくる。

 格ゲー界隈ではよく『圧がある』という表現が使われるが、それを身をもって知ったのが鍵さんとの戦いだった。なにをしても押しつぶされそうだった。

 人はその圧に屈すると、ジャンプをして形勢逆転を図ろうとする。そこで鍵さんの腕が光る。彼は対空の名手だった。いつでも、どんなときでも、相手が飛んだ瞬間にコマンドを入力し対空技を出す。私は今現在をもってしても彼以上の対空精度を持つプレイヤーを知らない。

 鍵さんとの戦いは、逃げ場のない一本道で、いかに屈せず自分の我を通せるか、そんな精神の戦いだった。


 三人の実力はほぼ拮抗していて、私だけがお荷物だった。

 彼らは私と対戦していて面白いのだろうか。消化試合ではないだろうか。そんなことばかり考えていた。

 しかし彼らは、暖かく私を迎えた。

 よく食事をしたし、飲みにも行った。鍵さんに至ってはそこに奥さんと子どもまで連れてきていた。

 ゲーセンが閉店すると、外が明るくなるまで語り合った。ゲームのことも、そうでないことも。

 いつだったか、数年後の飲み会で、ベロベロのシドが私に言った。

「いや、はきわ君は偉い! 本当にすごい! よくあの環境で辞めなかった。それはマジで偉い!」

 シドはこう続けた。

「俺らマジで意味わからなかったもん。コマンドすら出ねえし、ずっと読みあいにもなってなかった。処理! 一生処理!」

 実際、私たちが穂積に集まっていると、何人か新規のプレイヤーが現れた。しかしみなひと月もしないうちに来なくなった。

 私は辞めなかった。違いがあるとしたら彼らとの交流が楽しかった、それだけだ。


 穂積レジャーランドには、ビデオゲームコーナーを担当するケンちゃんという店員がいた。

 シドと旧知の彼は私たちに何かと良くしてくれた。

 中でも、筐体にハードディスクを仕込ませてくれたのには、感謝している。対戦前筐体を開いて中にハードディスクを設置し、帰るときにまた出してもらう。そこで録画した対戦の映像を、ハチミツさんがみんなに送ってくれる。

 それを見て、その日なにが良くてなにが悪かったのか分析した。良いところなんてほとんどないのだが、自分の負けるパターン、押してはいけないところでボタンを押している場面を、俯瞰で見ることができた。

 ところがほどなくしてケンちゃんは穂積をやめることになった。ハードディスクの設置を頼める相手もいなくなり、私たちは『ゲームハウスアリババ』というゲームセンターに移った。私の家からは遠くなったが、他の三人からは近くなるからだ。

 知る人ぞ知るそのゲーセンは、店主がよく話しかけてくるアットホームな雰囲気で居心地が良かった。

 また近くにおいしい食事処が多く、休憩にみなで車に乗り合わせて夕食を取るのが楽しみだった。

 相変わらず、勝てなかったが、充実した日々だった。

 この年になって、新たに友人と呼べるものができるということの貴重さをかみしめていた。

 しかし、やはりネックになるのは、これだけ世話になっているのに、彼らに満足のいくプレイをさせていないということだった。

 私は強くなっているのだろうか。

 その答えは、どうしたら得られるだろうか。

 それは唐突にツイッターから飛んできた。

 岐阜のゲームセンター『ks美濃加茂』での恋姫†演武の大会の告知だった。

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