退屈する男【PORT24一社店】
トモカはいつも退屈していた。
名古屋では敵なしの実力を持った彼は、対戦会には顔を出すが、積極的には対戦に参加せず、いつも喫煙所で参加証をぶら下げたまま赤いケースの外国のタバコを吸っていた。
仕事の関係で全国大会予選や、遠方への遠征もほとんどせず、いつも一社で若いプレイヤーが育つのを待っていた。
トモカは医者だった。参加証と一緒に、呼び出し用のPHSを首からぶら下げている姿をよく見た。
私はトモカによく質問をした。彼はなんでも答えてくれた。
例えば反応が早く差し返しのうまいプレイヤーに勝てないと相談したとき、彼はまるで悪だくみでもするかのような笑みで私に教えてくれた。
「相手は遠Bと2Bの届かない距離で待ってて、はきわさんがなんかちょっとでも動いたらボタン押してるだけなんすよ。だからBを押さずにCを押してやればいいんですよ。遠Cなら相手に届くんで勝手に反応してカウンターで食らってくれますよ」
遠Cとは威力とリーチに優れた技だが、ガードされると確定反撃を受けてしまうので通常立ち回りであまり打つことのない技だった。私にはその場面でリスクを負ってまで、その技を使うという発想がなかった。
だが半信半疑で試してみるとその作戦は面白いほど決まった。
「決まりましたわ」
私が報告するとトモカは子供のような笑顔で
「でしょー」
と言った。
私はよくトモカと話した。一社勢とまともにゲームの会話ができることが目標であったこともあるが、彼は実に楽しそうにゲームの攻略を語るからだ。
トモカは理論派だったが、その方向性はシドと似ていた。
大きなダメージを奪うために、どれだけの伏線を引かなければならないのか。相手を自分の行動を見せることによってコントロールし、欲しい行動を引き出す。人読みの理論。その考え方。無傷で勝つのではなく、結果体力で勝る。
私より強い奴らはいくらでもいるが、私にはこのトモカの理論が一番肌に合った。
対戦会が終わると、トモカはよく私と対戦してくれた。
この時間こそ、私の本番だった。
トモカは私に合わせて同じキャラクターの夏侯惇をよく使った。
私は同キャラ戦で技を盗んだ。
トモカは夏侯惇をあまり得意としていなかったが、それでも私の夏侯惇とは雲泥の差があった。
そして、たまに私が勝つと「仕方ねーなー」とメインキャラクターの曹操を出してくる。
「曹操で夏侯惇とあんまりやりたくないんですよね」
とトモカは言うが、私は彼の曹操にまともに勝った記憶がほとんどない。
私は本人に直接言ったことはないが、彼のことを師だと思っていた。
事実それほど多くのことを私はトモカから学んだ。
ただアリババの三人への勝ち方だけは相談しなかった。トモカのデータファイルの中には彼ら三人の弱点・攻略法が記されているはずだが、それだけは自分の力で成し遂げたかった。
だがトモカと話すようになって私のプレイは飛躍的にまとまりを見せ、アリババでも勝ちを拾える回数が増えていった。
アリババの三人を満足させる。それが私の第一目標だったが、そこにトモカの退屈を解消させるという新たな目標が追加されていた。




