京都三十連戦【ネオアミューズメントスペースa-cho】
aーchoの予選に参加したとはいえ、一社の予選に参加できないことは私にとって大きなフラストレーションになっていた。
その代わりではないのだが、私にはかねてより温めていた計画があった。
2025年2月24日。
私はある男に会うために、再びaーchoを訪れた。
その男の名はGといった。昨年の世界的格闘ゲームイベント『EVO』のブレイブルーの決勝で名勝負を演じ、格ゲー界では一躍時の人となった男だ。
その男が、恋姫に熱を上げているという情報は、昨年から流れていた。
Gは各地の猛者の元へ遠征へ赴き、初心者講習会を開催し、『三すくみ理論』なるグラフを作り普及させた。
Gは京都に拠点を構えていた。そして、火曜の夜にaーchoで録画対戦会を行っていた。
私は水曜に休みを取り、火曜の仕事終わりで、新幹線に飛び乗った。
平日の夜ということもあって店内はガランとしていたが、恋姫が稼働している筐体が一台あった。私は千円札を50円玉に崩しかごに入れると、その向かいの台に座った。
対戦相手は関羽使いだった。私は対戦が始まってすぐ、相手ははじめて間もないプレイヤーだと察した。三連勝ほどしたころだろうかGが現れた。チャラついた、ゲーセンではよく見かけるタイプの男だった。
「今日岐阜から来ましたはきわと言います。よろしくお願いします」
私は二人に挨拶に行った。
「岐阜からすごいっすね」
「いやでも全然下手なんで」
「いや、やる気の全一が全一っすよ」
短い会話を済まして私たちは対戦することになった。
対戦が始まる直前、違和感に気付いた。Gは甘寧というキャラクターを選択したのだ。Gと言えば孫権、それは常識だった。
甘寧は通常技のリーチなどで劣るが、突進技や、飛び道具、中下の揺さぶりに優れた、いわゆる荒らしキャラだった。
使い手が少なく、対戦の経験が少なかったため、私は困惑しながらレバーを握った。
Gの甘寧はおかしかった。
主力である鋭い下段技の『冥誘斬A派生』や、しゃがみガード不能で追撃も可能な『冥誘斬B派生』、無敵と崩撃属性のついた『EX冥誘斬B派生』などと言った、甘寧の得意技を一切振ってこないのだ。
代わりに振られるのは、ややリーチの短い牽制の『遠B』に、攻撃判定は強いが遠Bよりさらに短い『2B』という上段技。
中下段で揺さぶるはずのキャラクターを選びながら、中段技はおろか下段技すら振ってこない。
となれば、リーチで勝る夏侯惇に分がある。
だが追い付けない。
ハチミツさんと戦う時と少し似ていた。
私が走れば、そこには技が置かれていて、私が走れば相手は少しずつ前進してくる、私が技を空振ればその硬直を刺される。
それがすべてだった。
相手はそれ以上のことをしようとはせず、最低限のコンボだけして、あとは単発でダメージを稼ぐ。その消極的な立ち回りに、タイムアップ目前の試合が何度もあった。
悔しいが、ボタンを押すのがバカらしくなるくらい、なにもできなかった。
まったくダメージを与えられていないわけではない。しかし、体力の差は縮まらず、時とともに離れていった。
結局そのまま、相手に孫権を出させることさえできずに、30連敗を喫したとき、私の心も折れた。
「ありがとうございました」
台を回り込んで挨拶に行くと、Gがアドバイスをしたくてうずうずしているのがわかった。
「はきわさん、『三すくみ』なんすよ」
彼の理論によれば、三すくみとは『置き』『差し返し』『距離調整』の三つからなるじゃんけんだった。
『置き(技)』は相手の距離両性(前進行動)に勝ち、
『差し返し』は、相手の置きに勝ち、
『距離調整』は差し返しを狙う相手に迫れるため勝つ。
これらを制すと、ラインが上がり、相手を画面端に追いやることができる。
画面端では下がることができないため、差し返しが狙えず、選択肢をひとつ失って戦うことになる。
そもそも私はこの『差し返し』という技術がまったく出来なかった。
差し返しとは、相手の技の空振りを見てからその硬直に、確定の攻撃を入れることで、スカ確(スカりに確定)とも呼ばれる。
だからGは私の接近が匂うと、迷わずに遠Bや2Bを振っていた。空振っても差し返されるリスクがないからだ。
つまり私はじゃんけんの『ぐー』と『ぱー』だけで戦っているにすぎず、Gは極論牽制のパーを出し続けるだけで私を倒すことができた。
この三すくみによる攻防をGは『浅瀬』の戦いと呼んでいた。キャラクター特有の動きを排した、基本の立ち回り、ゆえに深くない浅瀬。
「甘寧は三すくみで戦うキャラじゃないんで浅瀬が一番弱いんっすよ。でも三すくみを理解してない相手なら、三すくみで勝てちゃうんすよね。だから甘寧使ってたんすよ」
Gは勝ち誇ったように言った。実際、結果が出ているのだからしょうがないが。
『差し返し』
私は明確な課題をひとつ見つけた。それだけでひとり京都まで来た価値があるというものだ。
その晩は個室ビデオで一泊し、翌日遅く起きてのろのろと長い帰路に備えていると、ツイッターに通知があった。
トモカからだった。
『いま京都にいますけど来ます?』




