気炎万丈【クラブセガ新宿西口】
2019年8月11日、クラブセガ新宿西口。
その日、低い天井の地下一階はあふれんばかりのビデオゲーム筐体と、全国から集まったプレイヤーでひしめき合い、異様な熱気に包まれていた。
『恋姫†演武 公式全国大会~第四回覇王決定戦~』
全国のゲームセンターでの予選を勝ち抜くことで得られる、決勝トーナメントへの出場権である、16枚の金切符。
その最後の一枚を奪い合う、当日予選が今まさに行われていた。
巨大モニターを前に、100人にのぼるであろう観衆が見守る中、私は画面から背を向け、ただひとり緊張に凍えていた。
ポケットの中で14番目の金切符を握りしめながら、ただひとり。
――はじめてアーケードコントローラーのレバーを握ってから、実に6年の歳月が流れていた。
■■■
皆さんは恋姫†演武というゲームをご存じだろうか?
ご存じない方が大半と思われるが、こと格闘ゲーマーと呼ばれる人種では話が違う。
曰く『もっとも硬派な2D格闘ゲーム』
そんな二つ名とともに、知る人ぞ知るゲームである本作は、2026年現在においてもアップデートが予告されているなど息が長い。
時は2014年2月。長らく低迷していた格闘ゲーム界は、ストリートファイター4シリーズのスマッシュヒットを受け、息を吹き返していた。各メーカーが様々な格闘ゲームを発表し、世はまさに格ゲー戦国時代の様相を呈していた。ストリーマーと呼ばれる人々が台頭しだしたのもまた、この時代だった。
そして、恋姫†演武の前身である
『真・恋姫†夢想 ~乙女対戦★三国志演義~』
の発売から、私の挑戦は始まる。
それは「戦い」と「出会い」と「喪失」の物語だった。
2014年2月28日。
私は高校来の友人であるHの家にいた。私たちは共にゲームが好きで話が合った。私はほとんどRPGを専門としており、Hはなんでもやるが特にアクションゲームが得意だった。
29歳だった。
格闘ゲームは二人でよくやった。と言っても私はへたくそで『飛び三段』すら満足にできなかった。飛び三段とは、ジャンプ攻撃をヒットさせたあと、そのまま地上技を当てて、そこから必殺技に繋ぐという、2D格ゲーの基礎の基礎だ。
これに限らず、私はコンボ全般が苦手だった。
あくまでコミュニケーションツールとして遊ぶ。そこに強さなど必要なく、膝の上のアーケードコントローラー『RAP3』もノリで買ったに過ぎなかった。
その日、私たちは刺激に飢えていた。何か新しいゲームはないか、できれば対戦できるものがいい。
私は寝転がりながらファミ通を読み、Hはパソコンで情報を集めていた。
「アルカナ(アルカナハート)が五月に出るらしい」
Hが言い
「全然先やん」
私が言った。
「待って、先週出た格ゲーあるわ」
Hの言葉に私はモニターを覗き込んだ。
『真・恋姫†夢想 ~乙女対戦★三国志演義~』
それは、美少女化した三国志の英傑たちが戦う、と言ったゲームで、原作はなんとR18のいわゆるエロゲーであった。
しかも、なんともチープなCGだった。3Dモデルをそのまま2Dの背景に立たせたような、いかにも前時代的なグラフィック。
当時、ギルティギアシリーズの最新作イグザードサインが、まるでアニメさながらの美麗なグラフィックを打ち出していたのが話題だったのもあって、私たちは失笑を禁じ得なかった。
しかし、グラフィックがどうあれ、この退屈を紛らわせてくれるゲーム性なら問題ない。
「最近なんでもでるな。どんなゲーム? 対戦してる動画とかないの?」
「いま探してる……あ、GODSが配信してる」
「マジで? 手広いな」
そうして、私たちが目撃したものを、私はいまでもはっきりと覚えている。
画面の中央で、二人の武器を持ったキャラクターが座っている。
武器の長さから察するに、双方ともに十分に攻撃の届く間合いだ。
にもかかわらず、両キャラは座したまま、動かず……動かず……動かなかった。
画面の上方では、試合時間のカウントが進んでいる。両者体力は残り少ない。だとしてもこんなに動かないことがあるだろうか。
しかし、配信は盛り上がっている。ギャラリーが声を上げ、コメント欄は滝のように流れている。
何秒過ぎたのだろうか。無限にも感じる数秒後、私はHにたずねた。
「え、これ、まじめにやってる?」
「わからん」
そして、時は来た。
画面左側のキャラクターが突如走り出したーーその刹那、その足に右側のキャラクターの持つ鎌が突き刺さり、試合は終わった。
まるで椿三十郎のラストシーンのようだった。
「え、これ、マジなん? マジで言ってるのこれ」
「わからん」
私たちはすでに『恋姫』の虜だった。
その後、配信を見続けてもさっきのようなシーンは何度か起こり、それがこのゲームにおいて特殊な状況ではないことがわかった。
私たちはさっそく行きつけのゲーム屋へ車を走らせたが、残念ながらそのソフトは置いていなかった。
とんぼ返りする羽目になったが、その熱はまだ残っており、DL版でゲームをダウンロードした。
崩撃状態という特定の技をカウンターヒットさせたときのみに起こる、特殊なやられ状態でのコンボは長かったが、それ以外のコンボは通常技>必殺技といった具合で完結し、コンボの苦手な私でも恋姫はすんなり遊べた。
そして配信で見たような膠着状態。
攻撃をガードされると、基本的にガードした側が先に動けると言う仕様上、それは私たちのあいだでも何度も起きた。
気が付くと夜が明けていた。
私は家に帰ると、さっそくゲームをPS3にダウンロードして、布団にくるまった。
崩撃を誘発させたときに鳴る『カコーン!』という、小気味の良い効果音が、いつまでも私の脳裏に響いていた。




