プロローグ
この作品は、2019-2025年の地下アイドル文化を記録した現代民俗学的青春小説です。コロナ禍を挟んだ6年間で、「推す」という行為はどう変質したのか。SNS、バズ至上主義、承認欲求の商品化。一人の女性ファンの視点から、時代の断絶を描きました。この作品は、失われた「応援の形」への鎮魂歌であり、同時に、現代を生きる若者への問いかけです。
ライターの火がチェキの端をあぶる。白鳥澄華が燃やしているのは、かつての推しが、『今日も来てくれてありがとう』と書き記した笑顔のツーショット。飴細工が溶けていくようだ。もう誰の目にも留まらない存在だと澄華は悟る。江藤真梨の顔がぐにゃりとゆがむ。笑顔は嘘だったのか。指がきれいに合わさらず、ピーナッツの形に間延びしたハートが溶けていく。澄華の黒目は前ではなく、床に向けられている。映える写真が撮れないのは最初から分かっていたと言いたげな虚ろな顔だ。それも徐々に溶けていく。澄華はSNSのアカウントを抹消した。
「さよなら、承認欲求にまみれた世界」
みずみずしい果物の皮から汁を出すように、声なき声を絞り出した。




