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11. 勇者の過去

 それから毎日、アトラは王城の書庫に入り浸った。

 目的はただ一つ──魔法の再習得である。


 初級から上級までは、指をなぞるように飲み込めた。

 驚いたのは、かつて“最上級”だった魔法の多くが、いまや上級へと格下げされていることだ。

 500年も経っているのだから、当然と言えば当然だ。

 

 代わりに最上級には、複数の魔法を一つの魔法に集約したものが多く並んでいた。

 集約する利点は、複数の魔法を一つずつ使うより魔力消費を抑えられることと、一つずつより発動速度を速められることだ。

 欠点は複雑な術式になるため、意図した魔法にするには研究に時間がかかることと、習得難度が上がることか。

 もっとも、その欠点はエルフにとって“欠点に値しない”。

 彼らは気の遠くなる最適化を厭わない。


 現代魔法は攻撃よりも防御や弱化、制約を課すといった方向へと発展している。

 女王の思想が、体系を押し出しているわけだ。


 ◆


 最上級の棚で、一枚の綴りが目に留まる──《無暴誓約》。

 女王が言っていた「暴力を振るえない場所」とは、この魔法によって実現しているらしい。


 要点は三つ。

 

 ① 建物・区画・都市など“土地”を対象に魔法を展開する。

 ② 範囲内の住人から、魔力を“維持料”として徴収する。

 ③ 範囲内で加害意思を示した側へは自動で弱化(物理には筋力低下、魔法には魔力吸収)、被害側へは自動防御を重ね掛け。

 

 一応の形にはなっているが、課題は多い。

 まず住人の魔力が乏しいと、魔法が維持できない。

 現在、“無暴誓約”が安定稼働しているのは魔法学園と、その周環都市のみ。

 魔力の多い者が集まっているから維持できているわけだ。

 

 これを世界に広げるにはどれだけの魔力が必要か、想像もつかない。

 魔力量を底上げする方法はいくつか知っているが……魔族以外でも再現可能かは未知数だ。


 抜け道も鼻を出す。

 毒や火は“間接的暴力”としてどこまで検知できるのか。

 地震や暴風雨を起こせる術者にはどう対処する。


 それ以外にも、例えば集団で一人を囲めばどうなる?

 ”囲む”という行為は暴力になるのか?


 ならなければ、囲まれた者は抵抗できず不利な契約を結ばされる、なんてことになるやもしれん。

 なんせ、振り払うことは直接的な暴力になり得るからな。

 徒党を組んだ者が勝つ時代になるのではないか?


 軽く考えただけでも気になる点は多いが、これからの発展に期待しよう。


 ◆


 その日の勉学を閉じ、家路に就く。

 曲がり角でクレスとネクアに出会った。


「お、今帰りか?」


 三人で並んで歩く。

 取り留めない世間話が足取りを柔らげた。


 ここに住み始めてしばらく経つが、二人は“我(もとい勇者)”を家族のように扱う。


 家族の温かさというものは、魔王のころには味わうことが無かった。

 親兄弟でも生きるために殺し合う、そうして強い者だけが生き残るのが魔界だ。


 だが、今生においては価値観を変えても良いのかもしれん。

 暴力で上を目指すことを放棄したように、家族というものを受け入れても──。

 

『母さん』

 

 一瞬、耳の奥で声が鳴った。

 勇者の声だ。

 

「それで──」「大げさだな──」


 二人には聞こえていないらしく、世間話が続いている。

 

『母さん』──最近、同じ幻聴が増えている。

 いずれは消える勇者の魂が、母を想ってのことだろうか。


 ◆


 謁見後、クレスに色々と聞き、アルケイドが勇者になるまでの人生を教えてもらっていた。

 

 まず勇者とクレスの母メルアは、クレスが20後半に里を出て世界を旅し、40半ばの時に勇者を連れて戻ってきた。

 

 メルアはもともと閉鎖的な里に息苦しさを覚え、クレスの独り立ちを機に外界へ旅立ったという。

 

 その途上に出会ったのがアレスタリア教の枢機卿の息子──アルケイドの父だ。


 今はそうでもないらしいが、昔のアレスタリア教は人間至上主義で亜人は堕落した人間の末路という教義だった。

 そんな宗教の偉いやつの息子だが、意外にも亜人差別反対派で、良く親と揉めていたらしい。

 

 こちらも家出して旅をしていたらしく、メルアと偶然出会い恋に落ちた。

 それから暫くは幸せに過ごしたが、アルケイドの父は不治の病を患い、アルケイドが8歳のときに亡くなった。

 

 幼い息子のことを考え、メルアは止む無くエルフの里に帰ってきた。

 クレスやネクアは賛成していたが、他のエルフは一度出て行ったメルアが、もう一度里に住むことを拒んだ。

 混血児の存在も拒否の理由となった。


 結果、メルアは里から離れた場所に家を建て、アルケイドと二人で暮らした。

 ちょうど勇者が埋葬されていた地点だ。

 

 時々、クレスやネクアが訪れて勇者たちと過ごすことがあった。

 クレスにとって弟ができたことは、単純に嬉しかったらしい。

 良く釣りへ行ったり、おもちゃを作って一緒に遊んだそうだ。


 ネクアはというと、勇者に剣術を教えていた。

 クレスも強制参加させられ、勇者共々、倒れるまで訓練させられたとか。

 ちなみに、剣術でネクアの右に出る者はエルフ内にはおらず、”剣鬼”と呼ばれている。

 

 だがそんな生活も、アルケイドが14歳のときに終わりを告げる。

 家が人間に襲撃されたのだ。

 理由は定かではないが、明確にメルアを殺す目的があったのは確かだった。


 女一人で旅ができる腕はあった。

 だが訓練された襲撃者を相手に、子を庇いながらでは分が悪い。

 たまたま訪ねてきたネクアとクレスが襲撃者を討ったものの、メルアは還らぬ人となった。


 その後のアルケイドは、人間への憎悪だけを燃料に力を求めた。

 だが15歳で勇者として覚醒してからは、今までのことが嘘のように人間を助ける側に回った。

 

「急に人が変わったみたいでさ。

 ……でも、ずっと誰かを恨み続ける生き方なんてして欲しくなかったから、正直ほっとしたんだ」


 その後は我も知っている通りだ。

 我らの侵攻を阻み、我を討ち、門を機能停止させ、最後の勇者となった。


 話を聞いて一つだけ引っかかる。

 勇者として覚醒してから、人間を助けるようになったことだ。

 

 我は一度、勇者の記憶を見た。

 あの絶望と怒りは、並大抵のことが無ければ消えないだろう。

 勇者になる──確かに大事ではあるが、果たして恨み憎しみを掻き消すに足るだろうか。


 我の知らないことがまだある。

 女王の助言と、何か関係があるのだろうか。


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