1. 魔王復活
人魔大戦──歴史上、幾度も繰り返された“人間・亜人”と“魔族”の戦争。
その結末はいつも、勇者が魔王を討ち果たして幕を引く。
今回も、終わりは近い。
「……終わりだ、魔王。お前の野望も、ここで潰える」
満身創痍の勇者が、最後の力で聖剣を突き立て、魔王の心臓を穿つ。
決着はついた──はずだった。
だが魔王は、喉の奥でクックッと笑う。
「 ……これで勝ったつもりか?
我は再び戻って来る── 《輪廻転環》!」
「何──!?」
魔王は今際の際に魔法を発動した。
(俺の知らない魔法だ。
だが名前から転生の魔法と推測できる。
将来魔王が復活すれば、戦乱の世に逆戻りしてしまう……!)
「させ……るか……!」
勇者は聖剣を引き抜き、首を刎ねんとする。
だが彼もまた死に体、力尽きて地に倒れた。
残されたのは、二つの物言わぬ躯だけだった。
◆
意識が、底からゆっくり浮かび上がる。
──暗い。何も見えぬ。
それに土臭い。
四方を触れてみるとすぐに壁がある。
ちょうど一人分しかない空間に閉じ込められている。
(ぐ、ぬ……)
もがいてみるが、どうにもならない。
(魔法で吹き飛ばすしかあるまい)
「《風嵐奔流》!」
最上級風魔法を発動しようとする。
だが魔法は発動しなかった。
「《風嵐奔流》! 《風嵐奔流》!」
自身の声が反響するだけで、何も起きない。
(なぜだ!?)
「《斬嵐裂走》!」
上級魔法を発動した。
しかし何も起こらなかった。
苛立ちと焦燥が胸を灼く。
(なぜだ!!)
「《重闇圧殺》! 《炎鎖連爆》!
《瀑布落撃》! 《岩龍穿天》──」
次々と紡ぐ最上級の術式。
だが世界は一切応えない。
(な、なぜだ? 我は魔王だぞ?
数多の魔族を力で支配し、無数の魔法を操る王……だぞ?)
自身の認識は間違っていないはずだ。
最上級魔法を操った記憶も、魔王としての記憶もある。
忌々しい勇者に討たれ、《輪廻転環》を発動した記憶だってある。
(お、落ち着け。冷静になれ。
我は魔王、魔王”アトラ・ノクス”。
生年月日は──)
自身についての記憶を思い出していく。
生年月日、好きな食べ物、女のタイプから部下の名前、魔王としての振る舞いまで全て記憶にある。
人間界の6割を血の大地へと変えた、歴代屈指の実力を持つ魔王──それが自分だ。
(まさか魔力不足か?
だが肉体には確かに充分な魔力を感じる)
「《裂風穿心》……」
中級すら発動しない。
魔王になってこの方、泣いたことなど無いが、今だけは泣きたくなる。
(初級でダメならこのまま朽ち果てよう……)
最早心が折れかけていた。
「《風刃旋斬》……」
ダメ元の魔法は、確かに発動した感触があった。
次の瞬間、目の前が割れ、土の壁がほどける。
身体を起こし、眼を光りに慣らす。
周りには木々が生い茂っており、木漏れ日が差し込んでいる。
(どこだここは。
魔界、か?)
やはり土の中にいたようで、そこから這い出す。
身体の土を払おうとして、自身が裸であることに今さら気づいた。
(なぜ我は埋められていた?
《輪廻転環》は記憶を持ったまま魂を転生させる魔法のはずだ。
我はそのように作った。
本来は赤子として生まれるはずだが)
だが眼下の肉体は、どう見ても鍛え上げられた青年のそれ。
(ここに留まっていても仕方あるまい)
「《空翔跳躍》」
空を飛び、周囲を確認しようとしたが魔法は不発。
(初級魔法なら発動できると思ったが、《空翔跳躍》はダメなのか。
歩くしかない)
裸のまま、森?の中を進む。
やがて川へとたどり着く。
身についた土を落とそうと水面に身を寄せ──息が詰まる。
「──何だ……これは……」
揺れる水鏡に映っていたのは、己を殺した張本人──勇者の顔だった。




