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過酷な世界で生きる  作者: バトルマスター幸恵
第二章 ブルグの町編
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第18話「交渉」

俺は宿に近づく。

一般的な宿ではあるが、所々ガタが来ているようであり、全体的に寂しい雰囲気を纏っている。


「こんにちはー...。」


俺はそんな事を言いながら扉をガチャリと開けた。

中は少し狭めだが、手入れは意外に手入れは行き届いているが、受付以外に誰も居ないせいで、やはり寂しい印象を感じる。


そして、受付には、くたびれてた男がボケっとした様子で佇んでいた。

さっきの白髪の男よりは清潔そうだが...似たり寄ったりと言ったところだろう。


「あのー...部屋まだ空いてますか...?」


「ああ......すまんね。今全部埋まっちまったよ...。」


宿の店主?はけだるげに答えた。

この宿からは物音一つ聞こえない。

まず間違いなく、あの二人組以外誰もいないだろう。

俺を宿泊させない気なのだろうか...。

俺が子供だから、冷やかしか何かだと思って居るという事か?


「別に冷やかしている訳では無いですよ。本当に宿に困ってて...。」


「そうかよ......。」


くたびれた男は俺を見定めるように見る。

気持ちの悪い視線だ。


「えっと...とりあえず三日ほどでお願いしたいんですけど...。」


俺はそう言いながら、金貨を一枚をカウンターに置いた。

相場的には三日分である。


「足りないねえな。」


受付は少しニヤリと笑って言った。

なるほど、そう言う感じね。

アランが居たからこういった詐欺まがいな事は無かったが、子供一人ならこうなるのか...。

俺の服はリーシャが「良い服着なよー。そっちの方が可愛いよー?」と買って来た、そこそこ良いものを着ている。

それも関係しているのかもな。


「詐欺する時はちゃんと人を選んだ方が良いですよ」


少し威圧的に言ってみる。

まあ...無理だろうな...。

かと言って払う訳にもいかないだろう。

詐欺をはじめからしてこようと言う奴は、どれだけ金を積んでも、もっともっとと欲を出すからだ。

いくら金があると言っても無限じゃない。


「......」


受付は少し舐めた態度で俺の事を見ている。

まあ...そうなるよな。

仕方ない。少しだけ魔法を使おうか。

もちろんこの人に当てる訳では無く、少し脅す感じで...。


手荒な真似は好きでは無いが...。

俺はあの二人から情報を得なければならない。

絶対にこの宿に泊まらなければならない訳では無いが、それが一番手っ取り早いだろう。

俺がそんな事を考えていた所だった。

受付が何かを察した様子で口を開いた。


「分かったよ...。四日分って事にしといてやる。」


「あ...ありがとうございます?」


どういう風の吹き回しだろうか...。

まあ手荒な真似をしなくて良かった。

俺はそんな事を考えながら、泊まろうと階段を登ろうとした時だった。


「ちょっとまて...。」


「まだ何か?」


「いや...別に致した事じゃない...。親はどうしたんだ?」


「死にました。」


「...そ...そうか。」


受付の男は困惑と少しの恐怖の籠った表情をしている。

少し驚かせてしまったかもしれない。


「では。」


俺は二階に上がる。

数部屋程あるようで、その内の一部屋から、判別不可能な喋り声が聞こえる。

きっとあの二人組だろう。

俺はあの二人組部屋、それと隣になるよう部屋に入った。


ちょっと気持ち悪い感じもするが...まあ、非常事態だし勘弁願おう。

部屋の内装は俺が想像していたよりもずっと綺麗だった。

ベットも清潔そうだし、どこを見ても埃一つない。

それに部屋も申し分無いくらい広いと言えるだろう。


この宿、詐欺と言う犯罪を犯している事に目をつぶればいい宿なのかもしれない。

その一点が致命的過ぎるだけで...。


俺はそんな事を考えながら、俺はベットの下に、アリアの遺灰や俺が旅に使用した道具などを入れる。

基本的に宿には鍵がついていない、盗られれば取られた奴の責任である。

まあ...鍵とか技術的に量産出来ないしな。


「はあ...。」


俺はため息を漏らす。

明確に面倒事に飛び込んでいく感覚がして、少し気分が良くない。

面倒と言った方が良いかもしれないな。

正直少しだけ疲れているのだ。


アランとの旅は楽しい物ではあったが、彼は結構何を考えているか分からなかったし、あの魔物との戦いから、明確に疲れてを引きずっている気がする。

でも...やらなくちゃな。


俺は壁に耳を付けた。

基本的に宿の壁は薄い。

そもそも、仕切りが無く、共同スペースとなっている宿もある程だ。


少し生活音は聞こえるものの、特筆するような会話はない。

まあ...そう上手くはいかないか。


思い返せば使用されていた部屋は一つだった。

会話も聞こえたしあの二人組は一つの部屋に止まっている訳で...。

年頃の15歳程度の少女などそう言ったのを嫌いそうに思うが、あの少女は貴族のようだし、護衛という奴なのかもしれない。


俺はそんな事を考えながら、耳を澄まし続ける。

するとギギギと床が軋む音が聞こえて来た。

どこかに移動している...?


「ッ...!」


その瞬間俺の肩が跳ね、背中に嫌な汗が流れる。

俺は気づいたのだ、音の向かう方向に。

【ここだ】

俺の部屋に向かっているのである。


俺は窓まで移動し、開けた。

嫌な予感がしたのである。

そして、警戒しようと扉の方に振り向く。


そこには既に居た。

あの老人だ。

何の音もなく、気配もなく、あの浮浪者のような老人は佇んでいた。

見ると扉は開いていない。


「ッ......」

俺の体が強張る。

この物事の道理から外れているような異様さ、この人間の理解出来る範疇の外にいる感覚。


瞬間俺は気づく。

俺が対峙しているのが神だという事に。

恐らく黒の神と同じく、第二等級に分類される神だ。

空気が一気に張り詰めていく。


見ると老人はフードを被っておらず、顔が見えた。

そこには黒い、捻じれたヤギのような角が二本ほど生えている。


「何者だ。貴様は。」


「...。」


俺は思わず息を呑む。

瞬間的に、時間がゆっくりになるような感覚に感じた。


最悪だ。完全な予想外である。

なんでこんなところに...。

いや、そんな事を考えている場合じゃない。

今は答えを探さなければ...。


俺が何者か。

そんなの俺が知りたい。

答えようが無いじゃないか。



「僕は貴方と違って一般的な【人間】ですよ」


俺は本当に老人が第二等級なのか、確認の意味も込めて言った。


「ッ...!」


老人は少しだけ、驚きの表情を浮かべる。

自身が神であると、そう揶揄された事への反応だろう。

つまり、イエスという事だ。


「貴様は...あの黒い神の敵か、味方か。どちらだ?」


老人は錆びついた剣、その柄を握る

貫くような殺意だ。

この質問に答えられなければ死ぬ。

俺はそう直観した。

もちろん俺の立場や目的から考えれば敵という事になるのだろう。


だが、この神があいつの味方である可能性も十分に存在するのだ。

完全な二択である。


老人からは明確に殺気を感じる。

答えに間違えれば死ぬだろう。

どうする...?

その時、俺はある事に気づいた。


この老人があの少女の護衛であるという事である。

いや、正確には護衛か分からないのだが、同じ部屋に泊っている辺り、守らなければいけない理由があるのだろう。


(もし、今ここで魔法を使えば?)


俺の中に浮かぶ。

ここで魔法を使えば、老人は守りを優先するだろう。

相手は神。守る術はある...はずだ。


もし守り切れなければ、この人も、あの少女は死ぬかもしれない。

でも...それでも、俺はアリアを生き返らせなければならないんだ。


今ここで死ぬ訳には行かない。

何を犠牲にしても。

犠牲を許容しろ、だ。


「だよね。アラン。」


俺はなんとなくそう呟いた。

俺は瞬間的に頭を守りつつ【佇む星の大火炎(エウアル)】を使用した。


「貴様っ...!」


俺の目の前が、轟音と光。

そして全てを飲み込むような熱に支配された。


「うあああああ!!」


俺体が思い切り後ろの飛ばされた。

俺の視界に飛び込んで来たのは、星空である。

俺は外に吹き飛ばされていたのだ。

見ると下半身は既に再生している。

ここだ。ここから逃げるんだ!


「あああああ!!」


俺は【耐え続ける爆炎(サレアイド)】という第四等級の魔法を足から使用した。

持続的に魔法を強力な火を放ち続ける魔法である。


「ぐうううう!!」


視界がグルグルと回る。

だが、逃げなければ!

俺はそう思い必死に体を制御しながら宿から距離を取った。

見ると宿には傷一つない。

どうやら老人には魔法から身を守る何かしらの術があるようだ。


もし、次近づかれたら死ぬ。

そう俺の頭によぎる。

とどめを刺さなければならない。


「恨んで......良いですよ。」


俺は気づけば口から漏れていた。

きっとこれは俺の芯の部分から出た言葉なのだろう。

責任も、恨まれる理由も俺にある。


その全てを受け入れて、それでも前に進もうとそう思ったのだ。

きっとこの町もただでは済まない。

沢山の人が死ぬ。

それでも俺は目的を果たさなければならないのだ。


正当化はしない。

これは悪である。

だからって止まれないんだ。


「ごめんなさい」


俺はゆっくりと目を閉じる。

そうして俺は第二等級の魔法【万物を拭い去る眼瞼(ライガ=レイゴ)】を使用しようした。

その瞬間だった。

俺の体に感じた事の無いような、重力を感じた。


「ッ...!」


俺の視界の中に、肩で息をしている老人と、その横に足を組み頬杖をつき、座っている15歳程度の少女が飛び込んできた。

その姿は何処か高貴さを醸し出しており、目に一ミリの動揺も無い。


俺は周囲を見回す。

そこは木製の部屋であった。


「は...?」


俺の口から零れ落ち、背に汗が滲む。

もし...だ。あの老人がやって瞬間移動、あれが自分以外にも使用可能なら...。


「不敬ですね。」


少女が威圧的に言った。


「ッ...!」


その言葉と同時に俺の目線が下がった。

ふと俺の体を見ると、そこに、俺の両手も両足も無くなっていたのだ。

視界を上げると老人の剣に血がついている。


「は...はッ...!」


俺の動悸が早くなっているのを感じる。

パニックになるな。

今だけはダメなんだ。

俺は自分に言い聞かせた。


やるしかない。

ここからは逃げられないのだ。

その時、俺は人生で初めて賭けにでた。


「俺はやんなくちゃあ!!いけないんだよぉ!!!」


俺は全力で声を張り上げた。

ビビらないように、自身に言い聞かせるように、そう叫んだのだ。


俺が大きく口を開けた。

その中にゆっくりと太陽が形成されていく。


もし、この老人が持つ、魔法から身を守る術。

それが俺の魔法より大幅に弱い場合、少なくともこの町は壊滅するだろう。

もちろん俺ごとだ。

だったらなんだよ。

俺が太陽を放とうとした、その瞬間だった。


「降参だ。」


そう言いながら老人は両手を上に上げた。


「.........は?」


咄嗟に漏れる。

太陽はゆっくりと縮小し、気づけば完全に消え失せていた。

気づくと俺の体は再生している。

俺は瞬間的に、身を後ろに引き、次殺気を感じたらまた逃げられるように窓まで移動する。


老人は、剣を降ろしていた。

殺意のような物は感じない。


少女の方は冷徹で、威圧的であったが、今は笑みを浮かべている。

穢れを知らないような少女といった雰囲気を纏っている。


あれは...嘘だ。

俺の様に嘘をつくタイプが使用する、最も相手に良い印象を与えるための、最もよい効率の笑み。

それが、あれだ。

知っているさ。

俺も両親相手に使っていたからな。


「悪かった。少し落ち着け。」


その言葉に体の芯から冷たくなり、自分の頭が回り始めたのを感じた。

空気は今までの殺気と熱気に充ちた物から、冷静な物に変わっている。


「信用できませんね。」


「そうか。」


老人がそう告げた瞬間、爆発的なまでの殺意を感じた。

反射的に俺は構え、魔法をしようとする。

それとほぼ同時、少女が手を叩いた。


「ッ...!」


老人は俺の目の前で止まった。

俺の額に汗が浮かぶ。

刃先が俺の首元に当たり、血を滴らせていたのだ。


早い...まるで見えなかった。

瞬間移動だけでなく、単純なスピードも一級品か...。

すると、老人は少女を守るように、顔を立てるように少女の横まで移動した。


「内の者が失礼を致しましたね。」


そう言いながら少女は、笑みを浮かべつつ俺に近寄る。


「近づかないで下さい、何かの拍子に魔法を使ってしまうかもしれませんよ?」


俺は威圧も込めて少女に言った。

もちろん本気ではない。

だが、攻撃されたなら、反撃をするつもりだ。

しかし少女は変わらずこちらに近寄ってくる。


「そんな事は貴方はしませんよ。」


「なぜ...そう言い切れるんですか...?」


「私は貴方を信用していますからね」


そう言いながら、少女はついに俺の目の前まで到達した。

全身が強張る。

なんなんだこの少女は...。

恐怖心が無いのか?

いや、そんな訳はない。


アランに感じたあの化け物と対峙しているかのような、恐怖感は感じないのだ。

アランに感じたのは一般的な人間とのズレである。


一般的な感性を持ちながら、どこかしら致命的な部分がズレていた。

それをこの少女からは感じない。

狂った行動の奥に、俺を威圧しようという確かな目的を感じるのだ。

演じているだけである。


「演技が上手いですね。狂人の」


「......。」


少女の動きが止まった。

俺の予想はどうやら正しいようだ。


「交渉を...しませんか?」


少女が若干の焦りを浮かべながら言った。

ここだ。付け入るならここだ。

俺は反射的にそう思った。


「構いませんよ」


少女が本当に少しだけ恐怖しているのを感じる。

交渉...。

アランが良く言ったいた。

交渉こコツはイカレているか示す事だと。


「ただ...最初に聞いておきたいんですが...お二人は黒の神の敵ですか?味方ですか?」


「.........」


少女は黙り込み、額にしわを寄せる。

俺の質問の意図に気づいたようだ。

二択。間違えれば死ぬ。

俺が受けた生存率50%の完全な二択である。


まあ...俺はあの神の味方だからと言って速殺害はしないが...。

威圧感を与えられればそれ良いのだ。

俺がそんな事を考えていた時だった。

少女は少しだけニヤリと笑い、口を開いた。


「敵ですよ...貴方と同じく。」


やられた。

俺はそう直観する。


多分俺の行動。

そのどこかしらで、俺の立場を読まれたのだ。

どこだ...?何が原因だ?クソ...。

俺には黒の神に対する情報が無さ過ぎる。

すると、少女はあの効率的な笑みを浮かべながら口を開く。


「交渉の内容はこうです。訳あって私たちはこの町で起きる戦争を未然に止めなければなりません。その協力を依頼したいのです」


「もし......断わると言ったらどうしますか?」


「殺害いたします」


少女は冷徹に言った。

だよな。俺としては断る理由はない。

だが、信じ切れないというのが正直なところである。


「冗談です。協力させていただきますとも。ですが、こちらからも条件があります」


「聞きましょう」


「黒の神、そこにいる老人。その他所有している神について全ての情報。その共有をお願いします」


「もし...断れば...。」


「殺害しますよ。町ごとね」


この町を戦火から守る。

理由の推測は情報が無くて不可能だが、それでも何かしら守る理由があるのだろう。

俺はそう踏んだのだ。


俺の心臓が大きく波打っていくのが分かる。

ここらで交渉成立と行きたい。

そうじゃ無ければ、この二人と戦わなければならないのだ。

そうすれば町が犠牲になるだろう。


覚悟はあの日済ませてきた。

だがそれでも、やりたくはないのだ。


「「.........」」


俺と少女は黙り込み、沈黙が場を支配していく。

すると、少女が諦めたような表情で口を開いた。


「冗談ですよ。交渉成立としましょうか」


少女が言った。

どうやら何とかなったようだ。

ふと少女が手を出しかけて辞める

余り信用されていないようだ。

そりゃあそうか。俺もこの人を信用していない。


「では...明日、ここに来てもいいですか?」


「もちろんです。ここへお越しください。その時に詳しく情報を交換しましょう」


少女は言った。

そうして俺の交渉は終わったのだ。



―――――


クルトが去ったあと、少女はへたり込む。

額には脂汗が滲み、呼吸が荒くなっていた。


「大丈夫か...?」


老人が言った。

少女に向かって手を伸ばしている、


「はい......。」


そうため息に居た呟きを口から漏らしながら、少女は老人の手を掴むと、椅子に座り直した。


「どうだった?」


老人は問う。

その声は父親のような優しさに充ちている。


「あれは...怪物です。紛れも無く」


「そうか。確かにあれは強力な魔法を...」


老人の言葉を遮るように少女は口を開く。


「そう言う事ではありませんよ。あれは精神が人間とズレています」


「......?」


老人は余り理解できていない様子である。


「簡単に言うとですね。彼は【狂人】です。」





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