第14話「アランという哲学好き」
翌日
コンコンとドアを叩く音が聞こえ、俺は目を覚ました。
ふと外を見ると日は完全に登っている。
どうやら朝寝坊をしてしまったらしい。
意外だ、結構寝起きには自信があったんだが...。
「どうぞー!」
身なりを出来るだけ整えつつ、俺は言った。
「おう!ガキー!迎えに来たぜ」
そこには顔の厳ついデカい男がいた。
アランである。
「どうしたんですか...?」
「外界探索所だ。お前を探索者として登録しにい行こうと思ってな。」
外界探索所...言い方からするにこの人達が依頼を受ける場所...で良いんだろうか。
「今から行けるか?」
「ええ。大丈夫ですけど...その登録と言うのをすれば良い事があるんですか?」
「そうだなー。最大の利点は通行税がガッツリ免除されることだな。依頼で領地を跨いで動く時には、これがでけえのさ。」
通行税は基本的に他の領地に入ると時に発生する税だ。
これは都市に入る時だけでなく、移動のため他の領地を通る時も発生する訳で、他の領地を何度も通ると何度も支払う事になる。
それを免除されるのは相当凄いんじゃないだろうか。
「それは凄いですね。何か対価のような物は必要では無いんですか?」
探索者は命を掛けいるとは言え、極論を言ってしまえば自分達が達成可能な依頼だけを受ければ良い訳である。
それなのに、仕事を貰え、あまつさえ税の免除とは...。
余りに好待遇過ぎないだろうか。
俺がそんな事を思って居るとアランはバツの悪そうな顔をする。
「あー......そうだなあ...対価ねえ...。」
アランは俺の部屋にあった椅子に座った。
椅子がアランの重さでギギギと軋む。
どうやら大事な話らしい。
「外界ってのはよ。簡単に言うなら人間の活動できる範囲を広げる団体な訳だ。実際今でも山脈だの深い森はまだ人間が住めねえ。だったら思わねえか?人間が住める場所と住めねえ場所。その境目は魔物によって押し返されたりする可能性はねえのかってよ。」
「あ......」
そうか。
今まで考えた事も無かった。
魔物は魔力が溜まっている場所から生まれる。
そして人間の活動していない場所は魔力が溜まりやすい。
その境目が魔物によって侵略される可能性。
確かに低いが何かの拍子に強力な魔物が同時に発生すれば有り得るのかもしれない。
「それで...その時僕達はどうするんですか...?」
「ああ...そりゃあもちろん戦うのよ。それが対価って事になるか?」
「な...なるほど...ちなみに拒否権とかは...」
「無えな。まあ...とは言ってもよ、等級的に無茶な事は外探側も要求しねえ。いい稼ぎ時さ。それにそこまで頻繁でもねえ。一年に一回くらいか?」
「それは...死んだりしないんですか?」
「......?そりゃあ死ぬだろ。運が悪けりゃ。さっさと行こうぜ。」
アランはとても軽く言った。
親指で外を指さしている。
「.........」
俺は思わず黙り込んだ。
死生観の違いなのだろうか。
アランがとても気味悪く感じてしまうのは。
でも...考えて見れば当たり前か。
俺の前世よりずっとここは死に近いせいか、この人たちが文字通り命がけで仕事をする集団のせいなのか...。
それは分からないが死生観が俺と同じな訳ないよな。
田舎に居たせいで実感が無かった。
「どしたよ。おい?」
俺の様子を伺うようにアランが言った。
まあ、俺はアリアを生き返らせるという目的に立ち止まっては居られないよな。
「なんでもないです。行きましょうか」
そうして俺はアランは外界探索所に向かった。
―――――
俺は今、アランと大通りを歩いている。
町からは気分の活気のある喧噪が聞こえてくる。
どこかで市でもやっているのかもしれない。
平和で、力ず良い賑わいだ。
活気があるのは素晴らしいと思う。
人とも良くすれ違うしな。
問題と言えば道行く人が俺達を物凄い顔で見る事くらいだろうか。
傷だらけの二メートル近い大男と、髪の長い中性的な七歳の子供。
まあ...よく考えれば事件性を感じさせる組み合わせかもしれない。
俺は事件性を感じさせないよう。
誰かが話しかけようとする前に俺が手を振ったり、挨拶をしたりしている
アランは気づいてすらいないようで、元気だなお前と言われた。
このやろー...。
そんな事を考えているとアランは立ち止まり言った。
「ついたぜ。」
「ここが...」
そこには宿の何倍もデカい、『外探』とこの世界で文字で書かれた施設があった。
四階建てぐらいだろうか。
木製の一般的な家とは違い、石造りだ。
見方を変えれば小さな古城のように見えるかもしれない。
「大きいですね......。」
「ああ。昔外界と人間が住める境界を広げるための拠点だったんだ。それを再利用しているからな。堅牢なんだろ。」
「なるほど...。」
結構アランはそう言う歴史とかに興味があるんだろか。
それとも常識なのか...?
俺はもう一度外探を見る。
今は平和になり、その存在意義を失っているが、昔はここが境界の最前線だったのだろうと感じさせるような、ある種の圧力を感じる。
「行こうぜ」
アランはそう言うと扉を開け、中に入った。
俺も続けて中に入る。
周囲を見回すとアランが普通だと感じるくらい柄の悪そうな連中が数人のグループで固まっていた。
受付らしき所には老けているが、どことなく貫録を感じさせる老人が座っている。
「「......」」
外探のなかには沈黙が広がっている。
ここ居るほぼ全員がこっちを見ているが誰も喋りかけて来ない。
ふと俺の前に立つアランが、一瞬、猛獣のような目で周囲を睨みつけた。
その体躯と相まって、圧倒的な威圧感を醸しだしている。
俺に危害が無いように守ってくれているのだろう。
薄々気づいていたが、アランは良い奴だ。
他人の俺の事で悩んでくれていたし、付いて来て良かった。
するとアランは受付まで移動すると堂々と口を開けた。
「おう。久しぶり」
アランは老人に手を挙げて挨拶をする。
どうやら顔見知りのようらしい。
「.........」
老人は何も喋らない。
不愛想に感じるが、見たところアランを含め荒い奴が多いようだし、それぐらいじゃないとダメなのかもな。
「一人登録したいんだがよ。今良いか?」
「.........」
店主は何も喋らずカウンターから体を覗き込み俺を見た。
「こ...こんにちは...」
俺は少しどもりながら返事をする。
すると老人はアランの方に向き直り、言った。
「こいつ。死ぬぞ」
「死なねえ。こいつはすげえガキなのさ。」
「......」
受付の老人は黙り込む。
そりゃあそうだ。
どう見たってこの場所は7歳の子供が来るところではないだろう。
と言うかアランは俺を買い被り過ぎでは無いだろうか。
そんな事を思って居た時だ。老人は言った。
「お前より強いか?」
「ああ。お前よりつええ。」
「.........」
老人はまたカウンターから身を乗り出し俺の顔を見た。
俺と目が合う。
懐疑的な目だ。
俺の内心や能力を探っているのが分かる。
さて、どうしようか...。
俺はこの人に認めてもらわなければ、登録が出来無い訳で、移動に通行税がかかってしまう。
そうなれば金が足りなくなり、当然それを稼ぐために時間を使用する。
もしブルグの戦争に間に合わなくなるかもしれない。
そうなればアリアも...。
「はあ......。」
思わず俺の口からため息が漏れる。
仕方ないか。
俺はこの人に認めさせないといけない。荒っぽい手段は嫌いなんだが...。
最悪...何をしてでも...。
俺がそうして作戦を練ろうとした瞬間だった。
老人が身を戻しアランへ向き直り言った。
「.........来い」
そう言うと老人は別室へ移動した。
俺は思わず胸をなでおろす。
どうやらお眼鏡にはかなったらしい。
良かった。
―――――
俺はアランと一緒に外探から出る。
登録を終えたのだ。
一体何をするのかと身構えていたのだが...。
俺がやったのは学力試験である。
どうやらアランは俺を経理担当として雇う方針だったらしく、そのための試験だったようだ。
ちなみに満点である。
難易度的には就活の問題が近かっただろうか。
この世界は教会が義務教育代わりをしているが識字率はそう高くない。
それを考えればこのテストはとてつもないぐらい高難易度なんじゃないだろうか。
俺はなんとなく戦ったりする物だと思って居たのだが、老人からは「その必要はない。頭が良さはそれだけで価値がある」と言われた。
あの時、俺のどこを見て判断したのか聞いてみたところ。
「怖かった。」とそう一言だけ言われた。
正直意味が分からない。
7歳児の何が怖いんだ...?
ちなみに登録の証としてプレートに名前を掘ってもらった。
このプレートの素材。
これを取り扱う許可を外探しか国から得ていない為、身分が分かるというシステムらしい。
国との直接取引...俺が思って居る以上に外探は巨大な組織なのかもしれない。
そんな事を考えながら俺は生きと同じく道行く人に変な顔をされながら歩いていた。
「アランさん。今更なんですが...僕は強くないですよ」
なんとなく言ってみる。
アランが言った言葉が俺の喉に引っ掛かっているのだ。
買い被り過ぎというのもあるが、俺の一体どこを見てそう思ったのか知りたくなったのだ。
「いや、強いさ」
アランはこっちを見ずに言った。
もしかすると俺の知性を強さとして捉えているのか...?
「まあ...賢さには自信がありますが...。」
「そうか。」
少しの沈黙が広がる。
そもそも俺とアランはそう仲良く話す中でもない。
それ故、別に気まずくはない。
だが、なんとなく空気がしんみりとしている気がする。
どこか寂しさを感じさせる。
日が落ちて来たからだろうか。
するとアランは何かを考えているのか、顎に手を当て口を開いた。
「なあ...クルトよ。俺は別に賢い側の人間じゃねえ。誰かを支配するような、上に立つ人間でもねえ。でもお前は違う。お前の賢さは人を支配して、誘導出来る類のもんだ。洗脳って言うのか...?まあ、なんにしろお前はつえぇよ。少なくとも俺は敵に回したくねえな。」
「.........」
俺は思わず黙り込んだ。
確かに俺は自分の事を賢い人間だとは思っているが、上に立つ人間かと言われれば疑問が残る。
それに人を誘導...。
やった事などないし、やり方も分からん。
出来る気がしないんだが...。
「僕は...支配とか、上に立つとか、そう言うのは興味ないですね。」
「だったら気ぃつけといて方が良いだろうな。お前は多分周囲を知らず知らずの内に誘導してるような気がするぜ。」
「......」
そんな事をしたつもりも、するつもりも無いんだが...。
まあ、この人が言うなら気をつけて置こう。
俺はアランを信用に足る人物だと判断したのだ。
信じよう。
俺がそんな事を思って居るとアランが何か思いついたような顔をする。
「ところでクルトよ。少し...哲学的な話をしていいか?」
アランは唐突に言った。
体がデカいせいか傷だらけなせいか、そんなイメージは無かったがそう言う話が好きなのかもしれない。
初めて会った時も酷く落ち込んでいたような気がするし、思ったよりも繊細な男なのかもな。
「まあ......別にかまいませんよ。」
俺がそう言うとアランはゆっくりと語りだした。
「俺は...一人一人に生まれて来た意味があると思ってるんだ」
まあ...よく言われる奴だな。個人的にはそうは思わない。
人間が生まれるのは、卵子のなかに精子が入り込んだ結果だ。
冷たいが、意味など無いと思う。
「だったらよ。人間全体に存在する意味があるんじゃねえか?」
「......」
まあ、前提が正しければそうなるのか?
うーん...話が見えない。
哲学ってのは大抵終着点がある物だと思うんだが...。
「さっきから何の話をしているんですか?」
「俺が旅を続けてる理由だよ。なんとなく。話といた方が良いと思ってな」
たしかにアランが旅を続けている理由について俺は知らない。
探索者として生計を立てるなら、一つの町にとどまった方が旅費もかからないし良いはずだ。
誰かを助けて回っているようだが、それが主目的とは思えないな。
「何て言えば良いんだろうな。圧迫感ってのか?ずっと世界に締め付けられてる気がするのさ。」
まあ...分からなくも無い。
俺の前世はそんな感じだった。
母さんにずっと締め付けられているとそう思って居たが、母さんが死んでからも謎の圧迫感は消えなかったように思う。
今思えばあれは何だったのか、見当もつかない。
「だから旅をするんですか...?」
「少し違うな。俺は気になるのさ。俺が目を閉じてる間、世界は本当にそこに存在しているのか。俺の真後ろの世界は一体どうなってるのか。世界の端っこは一体どうなってるのかな。」
「まあ...分からなくもないですが...。」
「それがよ。俺の感じる圧迫感と関係がある気がしてならねえ。だから確かめるのさ。そこに何が居るのか。その何かが人間が存在する意味なんじゃねえかって俺は感じたのさ」
「な...なるほど...?」
正直俺は余り理解できていない。
というか、言っているアランにすら理解できていないし、させる気も無いのだろう。
本当にアランは感じた通りに喋っているようだ。
「だがよ。もしかするとその何かは、そう悪い物じゃねえのかもしれねえ。なんとなくそう思うんだ」
アラはそれだけ言って立ち止まった。
見ると日は落ち。
辺りは少し暗くなっている。
夜中と昼間の境目。
俺はそれを感じ思わず身震いをする。
自分が不変で変わる事が無いと思って居た物が容易く変わってしまったような、そんな恐怖だ。
「なあ。クルト。俺達の敵は...一体誰なんだろうな。」
「敵...ですか...?」
俺はその言葉を聞いた瞬間、心臓が跳ねた気がした。
ある事に気づいたのだ。
俺の頭の中にはあの黒の神が浮かんでいる。
あの神の目的は友人を生き返らせる事だと言っていた。
友人...。それが一体誰の事を指しているのか、別の目的があるのか、それは今の俺では分からない。
だが、もし本当ならあの神はそう外道でも無いのかもしれない、と。
俺がそんな事を思って居るとアランが少し寂しそうに俺に問うた。
「お前はどう思う...?」
「僕は...正義の味方ではありません。僕は僕の味方なので、やりたい事をやりますよ。相手が敵でも味方でも、まして悪人でも善人でも。」
あの神が善だろうが悪だろうが関係ないのだ。
俺は平和に生きたい。
だからあいつを殺す。
それだけだ。
あの神だって本質は俺と同じはずだ。
友人を生き返らせたい。だから俺を殺す。
それだけだろう。
まあ...あの神の言葉が真実かどうかなんて確証は何処にもないんだけどな。
「そうか。すまんな、こんな話突然してよ。」
別に良いが少なくとも7歳の子供に言う話では無いだろう。
父さんと良い母さんと良い、子供をなんだと思っているんだ?
だが、まあ改めて自分のスタンスを確かめる良い機会だった気もする。
やはりこの人について来て良かった。
なんとなく俺はそう思う。
「別にかまいませんよ。.行きましょうか。」
そうして俺達はまた歩き出す。
ブルグの町へ向かったのだ。
もし良ければ☆☆☆☆☆から評価。
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