第13話「うまく回り始めて来た」
さて、俺はブルグへ行くことに決めたのだが...。
どうしようか。
ブルグの町で戦争が起きるのは二年後。
向かうまでに、距離。金。魔物など。
様々な問題があるとして...。
大体一年程度かかるだろうか。
戦争を止める作戦......。
うーん...。正直何も思いつかない。
情報が無さ過ぎるのだ。
戦争が起きるのは二年後。
移動時間を省いても一年ほど猶予はある。
とりあえず作戦を立てるのはブルグに行ってからにしようか。
まあ、戦争についてはこれくらいで良いとして...。
問題は俺の体である。
俺は自分の体について確認すべく、窓を開いた。
冷気が部屋に入り込んでくる。
そとは綺麗な星空と町が見えた。
夜という事もあり少ししんみりとした雰囲気もある。
やはりここはレオスで間違いないらしい。
さて、俺が何をしようとしているかと言うと、魔法を使おうとしているのだ。
カーミラに対して使った魔法はほとんど俺の感覚による物だった。
正確に今の俺に何が出来て何が出来ないか知りたいのだ。
「水の神へケトよ穢れなき純水を生み出したまえ 第八等級、ウォータボール」
手始めに俺は詠唱し魔法を使おうとした。俺の手の中には何もない。
まあ、良い。
次だ。
「火の神アグニよ穢れなき純火を生み出したまえ、第八等級、ファイヤーボール」
俺はまた詠唱をしてみる。俺の手の中には何もない。
「はあ......」
俺の口からため息が漏れる。
まあ、そんな気はしていた。
なんとなく出来無い気がしたのだ。
固有魔法を使う時。
多少なり魔力の消費は起きる。
感覚的には力が抜けていく感覚に近い。
だがカーミラに魔法を放った時はそれが無かった。
まるで、体から魔法を使うための大事な何かが無くなってしまったみたいだ。
形容するなら体の中にある魔力を循環させるための血管のような物だろうか。
それが丸ごと全て無くなっているような感覚だ。
固有魔法は......試さなくていいか。
多分使用可能だろう。
俺は窓を閉める。
その時、ふと俺は自分の日記が目に入った。
うーん...。とりあえず分かる事だけをまとめてみようか。
・俺は火の固有魔法しか使用できない。逆に言えば全ての固有魔法を恐らく使用できる。
・俺の体は再生する。
・俺の痛覚は鈍くなっている
まず俺の体についてだが...。
宛はある。
黒の神とカーミラだ。
二人は俺が火の固有魔法を使った時、驚いてはいなかった。
知っていたのだ。黒の神は信用できないが、個人的にカーミラは信用したいと思っている。
今こうやって前を向けているのも彼女のおかげなのだし、そもそも世界大戦について知る事が出来たのも彼女のおかげだ。
そして何よりアリアを助けると言ってくれた。
あの言葉に嘘は含まれていなかったように思う。
というか、彼女の言葉には嘘は含まれていない。
つまり俺の体については砂漠の国ボルネオへ到着するまではお預けという事だ。
もし次にカーミラに会えたら、神について、俺の体について。
何より黒の神について聞こう。
考えても分からないだろうしな。
それはまあ良いとして。
問題は俺が使えるのが火の魔法と言う事だ。
火の魔法は破壊と攻撃に特化している。
俺がカーミラ相手に使った魔法でも、半径にして2メートルほどの範囲があったように見えた。
俺の体は再生する。
だが多分不死身ではない。
痛覚も鈍いだけでない訳では無いのだ。
つまり、何が言いたいかと言うと、俺の魔法は簡単には使えないという事だ。
人を巻き込まないか調べ、自分の体に配慮して使わなければならない。
使わない方針で行きたいというのが正直なところだな。
結局選択肢が増えただけで、やる事は変わらないという事だ。
問題ない。
そう思う事にしよう。
さて、あと考えるべきは黒の神だろうか。
俺はあいつに向けている感情を自分の中で整理していく。
なんだろう。
俺の中に怒りはない、と言えば嘘になるが、どす黒い憎悪を持っているかと言われればそうではない。
形容するならば使命感だろうか。
なんとなく俺は直感したのだ。
俺が平和に生きるためにはあれを殺すしかない、と。
多分俺が幸せになるか、あいつが幸せになるか、そのどちらかしかないのだろう。
何となくそう思う。
この感情を形容するならなんだろう。
俺の中にあるのは、とても冷静な冷たい、純白の殺意。
そう表現するしかないかもしれない。
自分でも不思議な感覚だ。
――――
俺はそんな事を考えながら、日記に今後の目標といつものように、今日あった出来事を記入し終えた。
とりあえず俺はドアを開けた。
どうやらここは二階のようで、一階では騒音とは言わないまでも人の声が聞こえる。
降りるか...。
俺はそうして一階に移動した。
見ると一階に人が集まり宴会のようになっている。
どうやら二階が宿で一階が酒場となっているらしい。
肉や乾燥したハーブのような物がつるされている。
見ると柄の悪そうな人達が食事を楽しんでいた。
人数としては10人程度だろうか。
甲冑を着ている人もちらほらと見える。
この人達はこの宿の客なんだろうか...。
俺がそんな事を思っていると、小気味いい音を奏でている酒場から、俺への視線を感じた。
四人だ。
一つのテーブルに座っている四人組が無言で俺の方を見ていたのだ。
「「.........」」
俺の背に汗が滲む。
四人はぎょっとした顔で俺の顔を見ている。
なんだ...?俺は何かしたのか?
そんな事を思った瞬間だった。
「お...お前...起きたのか!」
ひときわ体のでかい茶髪の男が喋る。
概算だが、二メートル以上はあるように見える。
確実にカーミラよりでかいだろう。
そして顔に大きな傷があった。
少し老けているのも相まって、かなり怖い顔だ...。
すると彼の周囲にいた人達が口々に喋る。
「ホントだよ...あのまま死んじまうかと思ったぜ...」
「.........。」
「なんにも無かったもんね...。」
口ぶりから考えると村はやはり壊滅しているらしい。
父さんと母さんも死んでいるか...。
正直割り切れてはいないが、今は前を向く事が出来ている。
涙はでない。
もう大丈夫だ。
この人達が行って、戻ってこれたという事は悪夢の方もどうにかなったようだ。
この町に来なかった事をひとまず喜ぶことにしよう。
「おい!あんた達!固まっちゃってるじゃないか!何か喋りかけたらどうだい!」
この宿の店主のような、エプロンをした中年女性が拳で思い切り体のでかい男を殴った。
少し考えていただけで、固まっている訳では無いんだが...。
ちょっとあの男に申し訳ない。
「痛てえな!何で俺なんだよ!」
「いいから!ちゃんと話しておやり!」
「ッ...!わかったよ...おい!ちょっと来い!」
そう言いながら手招きする。
「グ...!」
デカい男が顔をしかめた。
あの店主のような人に足を踏まれているようだ。
可哀想に...。
俺はこの男のところへ移動する。
「どうしましたか...?」
俺はそう言いながらでかい男の対面の椅子に座る。
こう見ると本当にでかい。
俺が小さいのもあるんだろうが...。
男は言いにくそうに口を開く
「ああ...なんつうか...お前の居た村は今、無くなったと言うかだな......」
そう言うと男は黙り込んだ。この部屋の騒音と対照的に、四人は静まり返って行く。
まあ......そうだろうな。
分かっていたさ。
だが、対面で言われるとやはり辛い物がある...。
まあ、とは言えだ。
今の俺には希望を持てているし、前を向けている。
「まあ気にしていないと言うと、嘘になりますが...。もう大丈夫です。それより助けいただいて、ありがとうございます。」
俺はそう言うとペコリと頭を下げた。
7歳っぽくはないだろう。
だが、俺は演じるのは辞めたのだ。
聞かれれば俺は前世を話すつもりである。
まあ話がややこしくなるので、自分からは言わないがな。
「お...おう...そうか、すげぇなお前...。いや...そうだよな」
デカい男は少しだけ俯き、顔を上げた。
その顔には決心や覚悟のような物が乗っていた。
その緊張した顔に、当てられたのか、俺の体も少し強張っていくのを感じる。
「俺達はおめえに、言わなくちゃいけない事がある」
デカい男が息と姿勢を整えた。
その瞬間である。
男は頭を下げた。
「......すまんかった!本当に申し訳ない!」
「えっと...。どう...しましたか...?」
「俺達はあの村で悪夢の討伐依頼を受けていたんだ。俺達がもっと早く行ってればあの村は...あの村を守れたんだ!本当に申し訳ねえ!」
デカい男は半ば叫ぶように言う。
今にも若干泣き出しそうだ。
この人もかなり思いつめていたのかもしれない。
俺はこの人に助けられてわけだし、この人達は村の現状を知らなかった。
責めることは出来ない。
それに...なんだろう。
今の俺よりこの人の方が精神的に来ている気がする。
ふと彼の飲んでいたものを見ると、それは酒では無かった。
ただの水である。
どうやらこの宴会は自分たちの気を紛らわせるための物だったらしい。
柄が悪い人達だと思っていたが、律儀だな...。
極論を言ってしまえば、この人達には他人ごとだろうに。
俺は彼の肩に触れた。
「まあ......とりあえず、顔を上げてください。」
「ああ...。」
「あの...余り常識を知らないので、これを聞くのは失礼に当たるかもしれませんが...。皆さんの等級を教えていただけませんか?」
悪夢は第五等級だ。
つまり強いということである。
なぜか俺の村には、アリアに父さん、母さん、そして神なんてのも居たせいで感覚がマヒしているが、第五等級と言うのは一万人に一人程度の逸材。
悪魔とは倒そうと思って倒せる魔物ではないのだ
「俺達か...俺含め第六等級が2人と七等級が2人だ、でも俺達なら悪夢なら狩れたんだ。まさか一体で村を壊滅させるなんて...。」
ああ...なるほど。
この人達まで悪夢の群れについての情報が、まだ降りていないのか...。
まあ基本群れないし当たり前かもしれない。
もし村にこの人達が居ても状況は変わらなかったし、死んでいた可能性もある。
来なくて良かったのかもしれない。
もちろんこの人達が弱いと言う訳では無い。
この少人数で悪夢を狩れる事は凄いことだ。
基本的にもう少し人数が居る。
この人数で悪夢と戦うなら卓越した連携が必要だろう。
しかしあの状況では相手が悪すぎる。
無理だ。
「そうですか...まあ正直なところ気にしていないと言えば嘘になりますが...まあ起こってしまった事は仕方ありませんよ」
「そうか...」
しんみりとした空気に成って行くのを感じる。
仕方がない。
俺も散々誰かに助けられたんだ。
今回は俺が人肌脱ごうじゃないか。
「そうですね。僕は今お腹が減りました。そしてお金を持っていません。なので今回の食事代を出してください。それでチャラって事で良いですよ。」
「お前......。」
デカい男が若干引いている。
そんな事で良いのか...?
と言いたげだ。
「でも......それでチャラにするしかないでしょう?」
そうなのだ。
どうせ、どうやってもチャラになどならないのだ。
俺もこの人も今回の一件はどうやっても忘れられないし、割り切ることなど出来ないだろう。
だが、それでも前に進むしかない。
だったら前を向いていた方が良いに決まっている。
そもそも、どれだけ謝られても誰も生き返らないし、きっと誰も喜ばないしな。
だったら俺の腹でも満たす方が幾分かましだ。
実際腹減っているしな。
アリアも天国で笑っているさ。
まあ、直ぐに生き返らせるんだが。
そんな事を考えていると目の前の男が口を開いた。
「.........良いのか?」
「まあ、仕方ないですよ。一度失敗しただけじゃないですか。そう思いましょうよ。思いつめても何も変わらないんですから」
ふとカーミラが言っていた言葉を思い出す。
そうだな。
彼女の言葉には相当な憤りを感じたが、今思えば一理あるのかもしれない。
「分かった......。」
男はゆっくりと顔を上げる。
その顔からはさっきまで若干やつれた顔ではない。
感心や安堵に近いだろうか。
すると彼は大きく、長く息を吐き出した。
それは彼の悩みその物を吐き出したような深いため息だった。
「はは......。お前はすげえよ。ホントにな」
そして彼はそう呟くと自分の頬をパチンと両手で叩いた。
湿っぽいのはこれで終わり。
そう感じさせる豪快な音だった。
「おっしゃあ!今日は飲むぞ!酒を樽ごと持って来い!」
「はいはい...」
店主がぼやきながら裏に移動する。
それを皮切りに若干テーブルの空気が柔らかくなっていくのを俺は感じた。
「おめーいい奴っすね!」
四人の内一人が俺に肩を組んできた。
ふと俺はその顔を見る。
特筆すべきは特にない短髪の男だ。
強いて言うならそばかすがあるくらいだろうか。
「そうです。僕は良い奴なんです。」
適当に返事をしておく。
そばかす男は笑っていた。
ちなみに俺の一人称が僕に成っているが、特に意味はない。
もちろん演じている訳でも無い。
ただの癖だ。
アリアの前だけ一人称が変わるのはどう言う事なんだろう。
何も意識してないんだけどな。
「ねえ。辞めなよ。おっさんに絡まれて困ってるでしょ?!」
「まだおっさんじゃねっすよ!」
そばかすの男と若干老け気味の女性が話している。
そばかすの男は20代前半。
女性のほうは20代後半と言ったところだろうか。
ふと見るとデカい男が笑っていた。
うん。
正直俺はこのくらい明るい方が俺は好きだ。
もう俺は散々嘆いたし、後悔をした。もう良いだろう。
すると思い出したかのようにデカい男が口を開いた。
「おお!そう言えばお前、名前なんてんだ?」
「僕はクルト・モウアと申します」
「そうか!俺の名前はアラン、アラン・アリスターだ、よろしくな!」
そう言いながらデカい男こと、アランは手を出してくる。
握手か...いいね。
俺は手を伸ばした。
そうして宴会が始まったのだ。
――――
情報が欲しかったので色々とこの人達の話を聞いていると、どうやらこの人達は【外界探索団】という団体の人間で探索者と呼ばれる人達らしい。
外界探索団とは、依頼を受け、それをこなす人達の事だそうだ。
それは大抵が魔物の討伐や護衛。
末端は掃除なんかもあるらしい。
NGは戦争への参加だそうだ。
まあ人がやりたくない事をやっている人、危険な事も取り扱うなんでも屋という印象だな。
そしてこの特徴的な名前だが、どうやら太古の昔。
人間が住めない地域を外界と呼称し、そこを探索する団体...外界探索団というものが存在したのだと。
そしてその名称が今も伝統として残っているのだとか。
一応今の人間が住めない領域。
海や山奥、深い森などを探索し拠点を設置している探索者も居るらしいが、ほとんどの探索者達はこの人達のように依頼をこなし、金を得ているのだと言う。
依頼は基本ハイリスクハイリターンなのだ。
なんだろう。
こう言ったこの世界特有の文化から生成された、固有名詞を見るたび、俺とは根底の常識が違う事を痛感させられるな。
ちなみにだが、探索者には部隊としての名称もあるようでこの人達は【アイルライド】と言うそうだ。
アランに意味を聞いたが、どや顔で「特にねえ!!」と言われた。
咄嗟に思いついた言葉を繋げただけらしい。
それでいいんだろうか...。
そしてこのアイルライドに関してだが、彼らは一つの町に滞在して依頼を受ける形ではなく、旅をしながら、割のいい仕事があれば受けると言う。
大分行き当たりばったりなチームだったようだ。
本人たち曰く好きなところに行って、好きに過ごすのだと。
もし旅がけで他に好きな事が出来たら、このチームから脱退する、という形式らしい。
とんでもないチームである。
正直安定とは程遠く心配ではあるが、とても楽しそうだ。
そしてこのチームの現在のメンバーは、アラン、ガルド、リーシャ、ロイス、の四人らしい。
あのテーブルのに居た人だな。
ガルドとは俺に肩を組んでいたキュートなそばかすを携えた男だ。
アランからは「元犯罪者だがいい奴さ」と紹介された。
それは良い奴なのだろうか。
まあ...一応罪を償ったという事らしいので、俺から言う事は特にない。
個人的にだが、しっかりと罪を償った人間は許されるべきだと思っているからな。
そしてリーシャというのは、あの少し歳の言った女性らしい。
アランからは「生き遅れてるがいい奴さ」と紹介された。
俺の前世で言う婚活中らしい。
ちなみに何も後ろ盾のない結婚はかなり難しい。
農民などなら自由恋愛的だが、それでも最終的には家長や村長が決めるし、都市部なら大概は家同士が合意して行われる。
恐らく彼女は家など後ろ盾がない。
彼女が結婚出来る出来る日は来るんだろうか...。
あれ、待てよ...俺も同じような状態だよな...。
そしてロイスは無言で佇んでいた男だ。
こういう言い方をしては悪いが、影が薄い。
アランからは「何にも喋らねえがいい奴さ」と紹介された。
無口な性格らしい。
よく見ると相当筋肉質に見える。
母さんやアリアのしなやかなで柔軟性のある、アスリート的な筋肉ではない。
ボディビルダー的な強烈な筋肉が服の上からでも見える。
正直こういう筋肉に格好よさを感じるのは、俺が男の子だからだろうか。
そしてこの人達はブルグの南側の町。
城塞都市ライケスという場所が目的地らしく、そこに行くまでにブルグを通るそうだ。
もしかしたらついて行けるかと思い、僕の目的地はブルグなんですよねー。
という話をしたところ、だったら付いてくるかと打診された。
正直嬉しかったが、もし罪悪感から来る言葉なら申し訳ない。
そんな事を思っていたのだが、このチーム自体、来るもの拒まず的なチームらしい。
誰でもついてきて良いし、いつでも抜けて良い。
そんな感じなんだと。
そのため俺が同行するのも問題ないらしい。
最高で10人程度のチームになった事すらもあるそうだ。
他の三人もアランがそう言うなら、別にいいんじゃね。
程度のリアクションだった。
俺はまだ7歳で、保護者が必要だし、外での生き方を知らない。
俺は快く彼らの申し出を受け入れる事にした。
こう言っては悪いがアランは余り聡明そうには見えなかった。
一応、頭を使う分野なら役に立てると思う。
ちなみに俺の分の旅費は悪夢討伐の報酬金(アリアが討伐していたため受け取れた)からだすそうそうなので心配いらないそうだ。
そうして俺は自分の個室に戻って来た訳だが...。
なんだろう。
少しだけ上手く回り始めた気がする。
もし良ければ☆☆☆☆☆から評価。
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