# 6. 初めての探索、初めての戦闘
二人はあたりを見回した。
想像していたような過酷な環境とは違ったが、見渡す限り荒涼とした感じで、そこらじゅうで何かの煙が立ち上っていた。
焦げ臭かった匂いの正体はこれで、おそらく、探索者と敵との戦闘が行われたのだろう。
メタルセルに居たときには感じなかった感情、「死と隣り合わせ」が彼らを襲う。
砂の舞うこの大地に、何台かのM.A.C.S.が走っているのが見えた。
「すごいねー!これが『外』なのね!」
「ここが俺達の活躍の舞台ってわけだ・・・」
凄まじい緊迫感が彼らを包み込む。
フットペダルを踏み込もうにも、その一歩が踏み出せないでいた。
状況が理解できないまま、数分が経過したが、先に動き出したのはキャシーの方だった。
「じっとしてても始まらないから行こうよ!」
「そ、そうだな・・・」
またしても、キャシーの性格に助けられた。
一気に冷静になり、フットペダルを踏み込んだ。
ネイトのドラゴンフライが、キャシーのバイクが、前進し始めた。
「どこいくー?」
とキャシー。
そうだ、俺達はまだクエストを受けていない。とにかく「外」に出たかったので、すっかり忘れていたのだ。
このまま戻ってもレンタル料金を無駄に取られるだけだ。
何かしらの行動を起こさなくては。
「まずは、戦闘を行いたい。クエストは受けていないが、討伐でも報酬はもらえるはずだ」
「うん、わかったー!」
これまで何千何万と行き来して踏み固められたであろう道を進み始めた。
十数分ほど進んだだろうか。レーダーが動態反応を捉えた。アラーム音が鳴る。
「近くに何かいる!」
「ドウタイハンノウ カクニン。テキデス」
「ついに現れたわね!」
レーダーは、2時の方向を向いている。
その方向に進むと、動物とも昆虫とも言えない奇妙な生物が近づいてくるのがわかった。
「よし、攻撃だ。俺は遠隔から副砲で攻撃する。キャシーはその後とどめを刺してくれ!」
「了解だよ!」
ネイトはトリガーに指をかける。攻撃するタイミングを見計らっているのだ。
エイムで既に捉えており、トリガーを引けば自動的に攻撃する仕組みだ。
「よし・・・」
と、生まれて初めてのM.A.C.S.戦闘が始まった。
ダダダダ・・・と副砲が火を吹く。
敵はピーピーと悲鳴のような音を発しつつ、こちらに向かってきた。
「キャシー、頼む!」
キャシーは、バイクから降り、ジェットハンマーを手に構えていた。
「いっくよー!」
シュンという音とともに、ジェットハンマーの推進スイッチを押す。
軽快な音がして、攻撃軌道が加速する。
ドカッと音がして、敵は動かなくなった。
同時に、パーソナルハンドヘルドコンピューターが反応する。
「ピピッ・・・ベルノイド 1タイ トウバツ シマシタ」
「やったー!」
「倒せたな・・・」
これが二人にとっての初の戦闘となった。
戦闘がうまくいったことに気を良くした彼らは、
「もう何体か討伐してビッグフットに戻ろう」
「うん、そうしよう!」
と、あらたな敵を探索し始めた。
ベルノイドというのは、WW3(World War 3。第三次世界大戦)以降に出現が確認された生物で、様々な種類が確認され、その数は200種を超えているとも言われている。この出現については、ゲノムボムの使用が直接の原因ではないかと言われているが、確認はされていない。
これまで地球圏に存在していなかった種はすべてベルノイドと言っても過言ではない。
そして、2時間ほどが経過した。
「思ったより収穫があったな」
「そうだね!ベルノイドが3体に、ゾ・ミ進化種が2体。結構倒せたね!」
「よし、今日はこのあたりでいいだろう。ビッグフットに戻るぞ」
ちょうど、日が傾きかけてきた頃だ。
手練れの探索者なら暗くなっても活動できるのだろうが、彼らはまだ駆け出しだ。
無理した結果、命を落とすことになるというのだけは避けたい。
「外」の空気にも慣れてきた頃だったが、二人は帰路についた。
進んだ道を引き返し、ビッグフットへのエレベーターゲートが見えてきた。
ちょうど上で停止しているらしく、すぐに乗ることができた。
ビッグフット内部までエレベーターで30分、彼らは今日の成果について話し合っていた。
だが、不安な点も出てきた。
討伐で報酬が出るのは良いが、それでは日雇い労働と変わらないのではないか?
決まった稼ぎがある訳では無いし、不安定なのではないか?
一般的な探索者のルーティーンとして、
・クエストを受ける。
・現地に赴く。
・クエストの達成。
・HoMEに戻って報告、報酬を得る。
というのが定石だが、彼らはそれを無視して、討伐だけをやってきたのだ。
不安定どころの騒ぎではない。
「クエスト受けないとねー!」
「そうだな。次はクエストを受けてから出発しよう」
と、エレベーターが停止し、鈍い音とともにゲートが開いた。
「この匂い、なんだか懐かしいねー」
わずか数時間とはいえ、生まれて初めてメタルセルから離れた二人は、しばらく出ていた「外」の匂いに慣れていたので、メタルセル内の空気の美味しさを改めて感動したのだった。
M.A.C.S.はレンタル用ハンガーに移され、バイクは共用スペースに駐輪した。
二人はその足でHoMEへと向かった。
戦果はパーソナルハンドヘルドコンピューターに内蔵されている、シュートダウントラッキングシステムに記録しており、それの対価として報酬を受け取るためである。
また、明日に備えてのクエストを受注するためでもあった。
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