# 45. 山岳地帯の夜
日が落ちて暗くなってきた。
「付近に敵対反応なし。
今日はここでテントを張ろう」
M.A.C.S.を警戒モードにしてテントを張る。
「ドクターのテントはドーム型か!」
「そうよ、中に支柱がないからぶつけたりしないのよ。
それに、この中で手術することもあるからね」
一人で寝るには大きいドーム型の、ドクターらしい使い方に皆納得した。
「では晩御飯にしよう。といってもレーションだがな…」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
とエヴィが自分のM.A.C.S.から急いで何かを取り出す。
「ヘヘッ。
アイネリンド・タワーで数日間時間あっただろ?
その間に機械の修理を色々頼まれてだな、お礼としてこれをもらったんだ!」
取り出したのは数匹のコール(鶏の亜種)だった。
「丸焼きにして皆で食べようぜ―!」
思いがけないご馳走に、皆は心躍らせた。
「キュリィもあるからな!」
もうすっかりコック気取りである。
コールを火にかけて、焼けるのを待つ間、ネイトが明日のスケジュールを話した。
「明日はここから100キロ先にある、キャンプに宿泊予定だ。
小さなキャンプらしいから、過度な期待はするなよ!」
「わかったよー!」
「その後、どこに泊まるかはまだ未定だが、更に600キロ北西に進んで、湖跡地を左手に900キロほど北進するつもりだ」
「大移動だな!」
「そうだな、この先キャンプは点々としているが、満足な補給をできるとは限らない。できるだけ戦闘を避けて、弾薬などを保存しておきたい」
「賛成だよ」
自分の出番は少ないほうが良いとドクターは考えている。
だが、不測の事態についてはいつも考えを巡らせていた。
「全体の指揮はネイトに任せるけど、医療が必要な場合は、あたしに権限が欲しいわ。
その時はあたしの指示に従って行動してもらいたいのよ。
今は探索者ではないのでそんなに強くは言えないけど、リーダーに次ぐ権限を持っているのがドクターなのよ。
考えたくはないけど、もしネイトが負傷して指揮を取れなくなった場合も私が変わりに指揮を取るわ」
「わかった。いいだろう」
そう、医療行為を行うドクターは、時にはリーダーが肉体的・精神的に負傷し、指揮不能と判断した際にその指揮権を一時的に剥奪、または執務停止を要求することができる。
また、リーダーが明らかに誤った判断を下しメンバーへ危険を晒すような状況に陥った場合でも指揮権の剥奪を行使することができる。
ただし、この場合はドクター単独ではなく、副リーダーやメンバーの合意が必要になる。
それだけ「命」を預かるというのは重く尊いのだ。
ネイトも、パーソナルハンドヘルドコンピューターにあった資料を読んで、そういう事があるというのは知っていた。が、そういう事態が起こるかもしれないという状況が発生するということは避けなくてはならないとも考えている。
「少し重かったかな?」
「いや、そういう事態に陥るアシストグループが少なからずあるというのは知っていた。
ドクターがいないせいで、壊滅的な状況になったというのも、パーソナルハンドヘルドコンピューターの資料で読んだことがある」
「それなら話が早いわね。
あたしが昔参加していたアシストグループも、あたしに権限を委ねるときが何度かあったわよ。
無茶なクエストを受けたり、禄に治療もせず自惚れてダンジョンの奥へ進んだりしたときにね」
ドクターというクラスには、生命の危機を感知する能力が備わっているとも言われている。
ライセンス取得時やランクアップ時にどのような試験が行われるのかわからないが、医療に関する知識や危険察知能力のテストなどが行われるのだろう。医療上の判断における閾値についてはわからないが、状況が不味くなった、もしくは不味くなりそうなときに危険回避を任せられるのがドクターなのだ。
逆に、モグリのドクターを迎え入れてしまったときは悲惨なこととなる。
治療も疎かで危険察知能力もなく、ただいたずらにリーダーの権限剥奪行為を繰り返すという話だ。
そのようなドクターは、アシストメンバーを危険に追いやる。
金目の物だけを奪って戦前から逃走することも珍しくないらしい。
改めて、正規のドクターを仲間に入れられたことに感謝した。
「メカニックもピンキリだがな!」
とエヴィ。
「改造目的の探索者に法外なお金を要求したり、修理するたびに金を取ったりするメカニックもいるらしいぜ!」
と、コールの丸焼きをガツガツと食べながら言った。
気がつけば、半分以上をエヴィが食べている。
リンカーンのときもそうだったが、彼の胃袋はどうなっているのだろうか。
そして夜は更けて、次第に静まり返っていった。
皆それぞれのテントに入り、睡眠を取った。
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