# 42. ドクター
バーに入ってから30分が経過しようとしていた。
エヴィはコールの丸焼きを食べ終えて、キュリィの食感を楽しんでいた。
「やっぱ食後にはキュリィだな!」
などと話していると、
カランと音がしてドアが開いた。
と、ピンク色の髪の…ドクターが入ってきた。
こっちこっちと合図を送り、ドクターも席に座った。
「ちょっと治療に時間がかかってしまった。
それで、あたしに何の用だい?急患かい?」
「いや、急患ではないのだが…」
ネイトは、ビッグフットからアイネリンド・タワーまで旅してきたことを伝えた。
そして、本題に入った。
「…という訳なんだ。
戦闘中に負った怪我を治療してほしい。ドクター、あなたが必要なんだ」
「あたしに、探索者に戻れと?」
「そういうことになるな」
ドクターは少し曇った表情をしながら話し始めた。
「うーん、ちょっと昔話になるんだけど…。
あたしは探索者時代、傷つく仲間を見捨てられなくなって、メディカルライセンスを取得してドクターとなったの。
だけど、治しても治しても、怪我人は減らない。治療する人の数より命を落としてしまう人のほうが多かったの。
あたしはそんな状態が嫌で探索者を辞めたんだよね」
彼女は更に続ける。
「どこかに自念の責があったのかもしれない。引退はしても何もしないわけには行かなかった。じっとしていられなかったんだよ。
やがてあたしは、行く先々の人々を治療する流れのドクターになったのさ」
「そうだったのか…」
「もうあたしはあんな場所に戻りたくない。あのときのように、私は命を救いたかった。でも結局、あたしが治療した数よりも多くの命が奪われた。もう、戦場なんて怖すぎて耐えられない」
過去の探索者はよっぽど冷遇されていたのだろうか。
実年齢がビッグフットの執刀医と同じくらいの年齢だと予想すると、彼女が活躍していた時代はHoME黎明期あたりだろう。今のようにM.A.C.S.が充実していたわけでもないし、クエストも無茶なものばかりだったのかもしれない。
医療設備も禄に揃っておらず、劣悪な環境下で治療をしていたのだろう。救えなかった人たちはドクターのせいではない。
キャシーが口を開ける。
「私ね、ハイレベルネームドモンスターとの戦いで負傷しちゃって、命を落としそうになったの。
ネイトとエヴィが応急手当をしてくれて、ビッグフットのHoMEにエマージェンシーコールを送って、なんとか一命を取り留めたの。
あとで聞いた話なんだけど、もう30分遅れていたら手遅れだったかもしれないって。
でもね、私達はまだ駆け出しの探索者だけど、世界中の色んな所へ行って、色んなものを見て、ランクを上げて強いモンスターを駆逐したい。でも、ちょっぴり怪我しちゃうかもだから、ドクターが居てもらえるとすごく心強いんだー」
ドクターが言う、
「でも…、また誰かを救えなかったら?」
ネイトが、
「救えなかった命を数えるのは、あなたがどれだけ本気で人を救おうとしてきたかの証だ。
でも、それ以上に救えた命もあるはずだろ?あなたがいなかったら、助かるはずの命すら消えていたかもしれない。
戦場には、誰かを守るために戦う者もいる。でも、あなたはその命をつなぐ人なんだ。あなたの手を待っている人が、まだいる。それでも、『また誰かを救えなかったら?』って怖がるのか?」
ドクターが、ふぅとため息を付く。
「まさか、あんたらのような『子ども』に言い負かされるとね…。
よし、良いだろう。仲間になろう。でも決して無茶するんじゃないよ?」
「ああ、もちろんだ!」
「やったー!」
「ネイト、よかったなー!」
皆喜んでいた。
「紹介が遅れたね。あたしはドクター、ドクターマッセイだ。元探索者で、現役時代はシルバーランクだった。戦闘はできないが、治療は任せてほしい」
「俺はネイサン・バーグウェルだ。ネイトでいい。アシストグループ『スパークルスプリングス』のリーダーをやっている。今後とも宜しく頼む」
「私はキャスリン・ウェスレイ。キャシーでいいよー!」
「俺はエヴェン・ダリスってんだ。エヴィって呼んでくれ―!」
自己紹介が終わった後、ネイトが。
「これは切り札に使おうと思っていたんだが」
と、ビッグフットのHoME管轄下の病院で執刀医に渡された紹介プレートを見せた。
ドクターはそのプレートを読み、少し涙ぐんだようだ。
「そうか、あいつが…」
「何かあったのか?」
「いや、なんでもないよ。大丈夫だ。
それより、アシストグループに入るのなら、再度探索者登録をする必要があるわね。
こっから一番近いHoME拠点はダーファス・コロニーだが、そこまで行くかい?」
「あそこのコロニーには、あんまりいい思い出がなくてね。いくつかのキャンプを経由して、カラブールというコロニーへ行きたい。そこにHoMEがあることは確認している」
「カラブールか。ここから1500キロ以上あるよ。あたしのバギーで飛ばしても10日以上はかかる。何しに行くんだい?」
「船に乗りたくてね。ただそれだけさ」
「そうか。
申し訳ないが、出発は3日後にしてほしい。ここには治療を必要とする人がまだいるからね」
「わかった。
みんな、しばらく休息だ。自由に過ごそう!」
「ようし、食いまくるぜー!」
「私は何しようかなー」
時は過ぎ、やがて夜になり、皆宿泊施設に泊まるのであった。
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