# 2. 探索者登録
メタルセルの大きさはまちまちではあるが、構造はだいたい似通っている。
まずは中心にある球体部、ここは管理部となっており、メタルセル内のあらゆる事柄についての管理を行う。
体内時間がずれないようにするために太陽光ライトの調整を行うのもこの管理部だ。
また、エネルギーゴア(ジェネレーター)があるのも球体部で、トリリウム反応を利用してエネルギーを生み出している。
そして球体部を水平に囲むようにトーラス部がある。トーラス部の上半分は居住区となっていいて、多くの人々がそこに住んでいる。大きなメタルセルだと、トーラス部が複数あることもある。
トーラス部の下半分は産業区と工業区になっていて、ネイトは工業区で日雇いの修理工をやっていた。
更に、球体部とトーラス部をつなぐための連絡通路がいくつかある。地上へ出るためには球体部を経由する必要があるため、また、トーラス部にエネルギーを送るため、巨大な通路となっている。
いずれも、地下環境における超高圧・超高熱に耐えうるように外部にはグラドニウムを使った装甲が施されている。
ほぼ100%の完全自給自足をなし得たメタルセルは、人類最後の希望となっている。
ネイトとキャシーは、そんなメタルセルで生まれそして育ってきた。
彼らはこれからHoMEに赴いて探索者登録を行いに行く。
「「外」かー!楽しみね!」
とキャシー。
「お気楽なもんだ。どんな世界かも知らないくせに」
とネイト。
「あら、ネイトも資料見ただけで、実際には見たこと無いでしょ?」
と切り返すキャシー。
そんな他愛もない会話をしながら、カポカー停留所までやってきた。
メタルセル内の移動は、昔に比べ便利になっており、カポカーと呼ばれる無人タクシーのような乗り物に乗って、行き先を伝えるだけで到着する乗り物が移動の主流である。
彼らも、いつの間にか決まっていたいつもの集合場所「きらめき泉の水遊び場」からカポカーに乗ってHoMEへやってきた。
入口を向かいに、
「緊張するねー!」
「だな・・・」
街中のようなネオンで飾っているわけでもなく、看板もなく何屋かわからないでもない、
無難でこれ以上無いくらいの佇まいをしている。
出入り口には多くの人が行き来しており、見るからにメタルセルの住民ではないことがわかる。
それが二人の緊張感を更に上げていた。
「はいろうっかっ!」
「そうだな!」
二人は意を決してHoMEへ入っていった。
中は広く、おおよそ200名くらいがいるであろうくらいの空間だった。
そこらじゅうで様々な会話が行われていて結構騒がしい。
それに街中では味わえない異様な雰囲気もあってか、緊張感は半端なかった。
それ以上に忙しなく動く、丸い物体・・・、ロボットのようなものが二人の目の前で停止してこう語りかけた。
「イラッシャイマセ オフタリハ ミトウロクシャ デスネ。キョウハ トウロクデスカ?」
「わー、エチャリーね!初めて見た!」
「と、登録で頼む」
エチャリーとは、HoMEが所有する様々な仕事をサポートするお世話ロボットの総称である。
形状は様々で、今回見たのは直径40cmくらいで球体に近いフォルムをしていて、どういう原理かわからないが床から50cmほど浮いている。
更に、探索者かどうかも判断しているようだ。顔や声からデータベースを参照しているのだろうか。
「フフ… キニナリマスカ」
「いや、別に・・・」
物珍しい目で見ていたのであろう、エチャリーはそれを察知して軽く冗談を言ったのであった。
「ウケツケハ アチラデス」
丸いボディーから、羽のようなものがぴょこっと出て、受付への位置を指し示した。
「ホンジツハ トウロクシャガ スクナイノデ スグニ トウロク デキマスヨ」
「わかった、ありがとう」
「エチャリー!ありがとね!」
二人は受付へ向かって歩いていった。
エチャリーの言う通り、探索者登録受付は人が並んでおらず空いていた。
登録もエチャリーかと思ったが、そこには受付と思われる女性が座っていた。
「いらっしゃいませ。ご登録ですか?」
「あぁ、そうだ。俺と、こっちとのふたり分を頼む」
「わかりました。それではこのタブレットに、名前、年齢、性別、居住区画名、DNAコードをお願いします」
最後のDNAコードってなんだ・・・?
と思って聞こうと悩んでいたその刹那、キャシーが、
「DNAコードってなんですか?」
と受付に聞いた。
キャシーは、こういうところがたまにある。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥というが、彼女は無垢に聞ける性格を持っている。
「DNAコードは、登録後に発行する登録カードの防犯などに使用されます。
コードがない場合は、タブレットに付属の装置より採血してください。ちょっとチクっとするだけですよ!」
「わかった、ありがとう」
と、入力を始めた。この時代のタブレットは音声入力に対応しているので、手での入力が必要ない。
「ネイサン・バーグウェル、22歳、男、ビッグフット・ローマル区」
「キャスリン・ウェスレイ、21歳、女、ビッグフット・キロカブ区」
二人は記入を終え、DNAコードも登録し終えた。
区画というのは、メタルセルのトーラス部が火災などが発生した際、被害が拡大しないように、
いくつかの遮蔽板に区切られていて、それぞれの区のことを指す。
昔は数字で管理していたそうだが、現在では区画の特徴などを表した名前で伝えるのが通例となっている。
「はい、ありがとうございます。確認しますね。・・・えーと・・・、登録内容に問題ございません。
お二人は初めての登録ですので、ランクは一番下のアイアンランク-(マイナス)からの開始となります。」
ランクとは、討伐やクエストを達成すると、パーソナルハンドヘルドコンピューターに登録され、
成果に応じてランクアップしていくものである。アイアンから始まり、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナとランクがあり、ランクに対応したクエストが用意されていて、同じランクかそれ以下のものしか受注することができない。
つまり、二人は一番下のアイアンランクなので、アイアンランク相当のクエストしか受注できないことになる。
また、アイアンランクには、月に1回の活動報告(討伐かクエスト)の義務があり、それを怠るとライセンス剥奪となる。
などと、いろいろと思いふけっていると、
「おまたせしました。これがお二人のライセンスカードと、パーソナルハンドヘルドコンピューターになります。
パーソナルハンドヘルドコンピューターは、任務中は必ず手首に装着してください。
シュートダウントラッキングシステから得られたレートに応じた報酬は、これとライセンスカードがあって初めて支払われます」
シュートダウントラッキングシステムとは、倒した敵を自動認識し、その種の種類、個体数などを記録して、HoMEで相応の報酬と引き換えるためのシステムである。
敵を倒してもお金を得ることは稀であり、多くの探索者はこのシュートダウントラッキングシステムを利用している。
あとから、どの種を何体倒したといった履歴も見れるらしい。
「これで登録は以上になります。パーソナルハンドヘルドコンピューターに規約などがありますので、読んでおいてください。他になにかわからないことはありますか?」
拍子抜けするほどあっさりと登録が終わり、ふたりとも呆気にとられていた。
「あの、M.A.C.S.に乗りたいんだが・・・」
「私は人間装備とバギーが欲しい!」
ようやく声を出した二人に、受付嬢は、もっともな質問だと思いつつ丁寧に説明した。
「現在、お二人のライセンスカードにはフロンティアライセンスしかありません。
これはHoMEの思想に則って調査・開拓することができるライセンスになります。
M.A.C.S.に乗るためには、ドライビングライセンス、M.A.C.S.の修理・改造にはメカニックライセンス、人間装備はファイティングライセンスが必要です。
ライセンスの取得は適正があるかどうかが問われます。
それぞれにシミュレーターがございますので、それを使って適性を判断します。
本日取得されますか?」
「ネイト、どうするー?」
「今日はちょっと疲れた。規約とか読まないとならないし、他のライセンスの取得は明日にしたい。
万全の体調で挑みたいしな」
「うん、わかったよー!じゃあ、明日、いつものところで!」
「というわけで、ライセンス取得は明日にする。ここに来れば良いんだな?」
「はいそうです。それでは、また明日お会いしましょう。
エクスプローラーズ・オブリュージュ!」
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拙い文章ですが、一生懸命考えて書いたつもりです。
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