# 174. 本土へ至る海峡トンネル
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少しずつ面白くなっていく…と思います!(精進します)
レイダー襲撃から小一時間後、ネイト達は海峡トンネルを通る列車の駅に着いた。
このトンネルは旧現代文明時代に作られたもので、若干狭い。
キャラバン隊のビークルは積むことができないので船も出ているが、エヴィが嫌がるだろうということで海峡トンネルを使うことにしたのだ。
トンネルの長さは約50キロで、その内約38キロは海底トンネル部分となる。トンネル自体は1時間もあれば抜けるだろうが、次の駅までを考えると更に1時間、合計2時間ほどかかる見込みだ。
時刻は夕方を少し回ったところ、空が若干暗くなり始めている。
「今日はトンネルを抜けた先の駅にあるキャンプに宿泊予定だ。ヘカテリオン・リージョン本土初の宿泊になるぞ!」
「なんだか楽しそう!」
ビークルを列車に乗せ、客室へと移動する。
やはりというか、旧文明のトンネルは、近年できた北の海峡トンネルより細くなり客室も必然的に狭くなる。
エヴィは食堂車両へ行き、短時間ではあるが食事を楽しもうとしているようだ。踊り疲れてお腹が空いていたのか、アマリアも食堂車両へ行ったようだ。
キャシーとベルダとリコはほとんどの時間がトンネルの中なのに、展望デッキへと行っている。
ドクターはヘカテリオン・リージョン本土の情報をパーソナルハンドヘルドコンピューターで得ているようだった。
ネイトは客室車両で片手に顎を乗せて外の景色を眺めていた。今はまだ外が見れるが、数十分後にはトンネルに入る。そしたら真っ暗になる。
ビッグフットのあるサハル・リージョンから始まり、イースタン・リージョン、ゲヘナ・リージョンときて、現在4箇所目のヘカテリオン・リージョンに来ている。探索者になる前は、ビッグフットが世界の全てだった。それが突然地上を開放され、更にはコロニーやキャンプと言った人間が住む土地が多数存在し、リージョンという大きな区切りがあり、そこに他のメタルセルが存在する、ここ数ヶ月間で自分の考えの整理が追いつかなくなりそうなくらい環境が激変した。これからも、まだまだ様々なことがネイト達を包み込むだろう。何が起きても覚悟はしておこうとネイトは思った。
やがて列車はトンネルの中に入り、いよいよ海の下を渡る事となった。
社内がライトで照らされる、そしてその直後に視界が真っ暗になる。トンネルに入った証拠だ。
外は真っ暗で静寂に包まれて、ガタンゴトンとレールの上を走る列車の音だけが聞こえる。
ネイトはいつの間にか寝ていた。ドクターも探し疲れて寝たようだ。他の5人は…まだ起きているらしい。
エヴィとアマリアは食堂車両に来ていた。
空腹を満たすためである。
「…でよ、ネイトの回復を待つ間、キャシーと6時間交代で警備に回ったんだぜ。
しかも48時間連続だ。流石にオレも疲れたぜ。でもネイトが助かってくれてよ、守りきれてよかったと今でも思っているぜ!」
エヴィはキュリィを片手に肉料理を食べながら、そんな事を話していた。
「そんなことがあったんだね!わたしはね、仇を探し始めてもう2年になるの。毎晩毎晩ステージに上って踊りながら仇が来ていないか見ていたわ。でも全然見つからなくて…。でもきっと見つけて見せる!」
「その意気だぜ!オレはもちろんだが、ネイト達も手伝ってくれるさ!」
「うん!」
アマリアも負けじと肉料理を食べる。
キュリィは肉の消化分解を助ける働きがあり、体型のことを考えずに好きなだけ食べられる。肉料理との相性がとても良いのだ。
「それにしてもアマリアも良く食うな!」
「踊り子はね、あれでも結構な体力を消費するのよ!食べれるときに食べておかないと、いざというときに踊れないの!」
「そうなのか!意外とといっちゃあ悪いが、体力仕事なんだな!」
「そういうことね!」
ところは変わってこちらは展望デッキ。
トンネル内なので外は真っ暗で何も見えない。
「…それでね、誰もいないはずなのに、ヒタ…ヒタ…って歩く音がするの」
「ひーぃ、やめてくれい…」
「まだ話は始まったばかりだよ!」
どうやら怪談話になっていたようだ。最近この3人は中が良く、一緒になって行動することが多い。
孤独を好むベルダが、このグループに属しているのは意外だったが、結局のところは外交的にそういう態度を取っていただけで、実のところは寂しかったのだろう。
ベルダはドミニオン・シンジケート生まれで、親の顔を知らない。
小さい頃から閉鎖環境で育ってきたこともあり、同い年くらいの人間はそんなにいなかった。
10歳を過ぎたあたりから、工作員としての訓練が始まり、人の騙し方や体人間格闘戦などのカリキュラムを半ば強引にやらされていた。技術力は向上したが、心は冷えはじめてやがて閉ざすようになった。
冷酷で残忍な工作員として活動するようになったが、ベルダにとってはそれが苦痛でしか無く、このまま死んでやろうかと何度も思ったらしい。
任務でヘマをやらかして、追われる立場になった。鳳凰衆が一時的に力を貸してくれて難を逃れたが、そこでも一悶着となり、孤独の探索者となった。
そこでネイト達を見つけ、何か頼れそうなところがあったのだろう、仲間にして欲しいとネイトたちに言ってきたのだった。
スパークルスプリングスのメンバーはとても暖かく迎え入れてくれて、そしてドミニオン・シンジケートの工作員であった過去のことを詮索してこない。本来の自分を出せる環境にあったのだ。しかし、心を閉ざしていた手前、どのように接して良いのかわからず、おどおどしていたところに、なにかがあるたびにキャシーから声がかかり、次第に一緒に行動するようになっていったのである。
「キュリィ割りを飲みすぎて、ふらふらしていたエヴィだったのよー!」
「なんだ、そういうことか!」
キャシーとリコは話に膨らんでいた。
ベルダははっとして、我に返り、怪談話がただのエヴィの恥ずかしい一面の話だったことに安堵した。彼女は人一倍怖がりで、怪異やそいういう類の話はとても苦手としている。新世紀歴時代の今でもオカルト系は一定の需要があり、毎月その手のデジタルブックが発売されるほどだ。娯楽の少ないメタルセルの住人にとってはそれが楽しみでならず、また多少の湾曲解が含まれているが地上のことを知れる貴重な資料でもあったのだ。
ドクターは軽い眠りから覚め、やりかけだったヘカテリオン・リージョンの情報集めに勤しんでいた。
ドクターにとってもこのリージョンは初めてで、「狭い領域にたくさんの生存圏が密集している」程度の認識でしか無かった。かつては世界の中心だったこのリージョンは、現在ではどのような形になっているのか興味をそそられていた。
世界で初めてのメタルセルである「ユグドラシル」。実験的な意味合いもあってか収容人数は少ないものの、他の様々なメタルセル建造の礎となったものだ。それがヘカテリオン・リージョンにあるのだ。
ドクターは他にもコロニーやキャンプの情報など、調べられるものは徹底的に調べ上げた。ここでひとつの組織らしい集団が目立つようになる。それは「貴族」だ。西暦1,700~1,800年代の中世期に最も栄えたそれは、広大な土地を所有し、その土地の民から税金を徴収して、そのかわりに生活の安全を約束していた。土地に入るのは簡単だが出るのは難しいとされ、一度生まれた土地から出ることは稀である。土地をう奪い合う戦争が度々勃発して、民が犠牲になることもしばしばあった。その貴族が現代でも存在しているというのだ。
今は形を変えて、コロニーをひとつの貴族が所有するという感じになっているらしい。これが「狭い領域にたくさんの~」となった原因らしいことはわかった。中でも、「ヘッセ家」「ヴァルモント家」「アルブレヒト家」は3大貴族と呼ばれていて今でも非常に力が強いらしい。所有コロニーもその力を誇示するかのように大きく、拡張を続け収容人数が日増しに増えていっているという話だ。民側からすれば貴族かどうかは関係なく、「安全圏で暮らせる」程度の認識しかないのだが、土地囲いならぬ人囲いが今でも横行しているらしい。
ちょっと前に滞在していた「オルオンカルラ・コロニー」も実は貴族のコロニーだった。しかし貴族の重圧に耐えかねて民は謀反を起こし主導権を握ることに成功したのだ。その貴族は「ストーンヘルム家」と名乗っていたが、今では散り散りになりどこかのキャンプでひっそりと暮らしているというところまで調べがついた。
そんな貴族が支配しているコロニーが大小合わせて30近く存在している。ドクターは、通りそうなコロニーをいくつかピックアップして規模や事情などを調べ始めた。
ネイトは腕のしびれを感じて、うたた寝から目覚めた。
手に顎をついたまま眠ってしまったので、頬に指の跡がくっきりとついてしまった。
「ちょっと寝すぎてしまったな…」
と独り言をこぼして外を見た。
既にトンネルは抜けており、時刻は夕方あたりを指していた。
「そろそろ到着か」
パーソナルハンドヘルドコンピューターのトランシーバー機能を使って皆に呼びかける。
「そろそろ着くらしいぞ。客室最後部に集合だ」
しばらくの後、汽笛が鳴り減速を肌で感じた。駅が近い証拠だ。
そして完全に停車して、ドアが開く。駅に着いたのだ。
「長いようで短い列車の旅だったねー!」
「あっという間だったな!」
皆それぞれビークルを降ろして駐車スペースまで移動させた。
「さっきも言ったが、今日はここのキャンプに泊まる。特に何もすることが無いので自由行動だが、明日の朝9時にはエントランスまで集合してくれ。キャシー、エヴィ、飲みすぎるなよ!」
皆はそれぞれ頷き、それぞれの夜を楽しんだのであった。
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拙い文章ですが、一生懸命考えて書いたつもりです。
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