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8.私の拳はお喋りなんです

「はぁ、わかりました。やっぱり貴方は半強制的に私と結婚させられたということですね」


 フェリクスの話を聞いて私は溜息を吐いた。

 前世で社会人経験があるからわかる。

 命令形式じゃない命令なんて幾らでもあるということに。

 父は彼に結婚しろと直接命じていない。でも結婚するべきだという圧はかけたということだろう。


「私が貴方の立場と気持ちも考えず結婚したいと父に頼んだことについてはお詫びします」


 そう言って頭を下げる。前世の癖でうっかりお辞儀をしてしまったが謝意は伝わったらしい。

 フェリクスは目に見えておろおろしだした。


「いや、謝罪することはない、マリアン嬢が悪いわけでは無くて……」

「いえ、私が悪いのです」

「いや、君は悪くない」

「いえ、私が」

「いや、悪いのは君ではなく」

「成程、じゃあ誰が悪いと思います?」


 やり取りに飽きた私が言うとフェリクスは一瞬言葉に詰まった。

 しかしすぐ「俺だ」と非を認める。

 予想外に潔い。

 嫌々結婚させられたんだと開き直るかと思ったのに。

 マーベラを即首にしたことと言い判断力はあるのかもしれない。

 だったら何故私と結婚したんだと振出しに戻るが。


「じゃあフェリクス様の悪かった所ってどこだと思います?」


 私の問いかけに彼は答える。


「君と軽率に結婚してしまったことだ」

「つまりフェリクス様は私と結婚したことをずっと後悔していたと」

「いや……それは」

「急に歯切れが悪くなりますね。初日から私を愛していないと言い続けた癖に」

「まあ最低」


 私の言葉にシェリアが言う。

 伯爵であるフェリクスに対して無礼な発言だが彼はそれを咎めず小さくなっていた。


「私から離婚を切り出して欲しくて、私を精神的に追い詰め続けたんですよね。合っています?」

「違う、そんなつもりは」

「つもりが無くても私は追い詰められました。死にたいとさえ考えたことがあります」


 私の言葉にフェリクスとシェリアが青褪める。

 シェリアは兎も角フェリクスにそんな悲壮な顔をする権利は無いと思う。


「貴方への愛情が一切無くなった今なら思います、さっさと離婚すれば良かったのにと」


 でもそれは私が前世の記憶を取り戻して人格がそちらに引きずられたからだ。

 箱入りお嬢様のマリアンにそんな選択肢は考えられなかった。

 何より彼女は目の前の男に一目惚れをして父に強引に頼んで結婚したのだ。


 相手が自分を愛していなくても妻として傍に居たかったのだろう。

 私が元カレの浮気を一度は許して同棲を続けた時のように。


「次のお相手には絶対こんな真似しないでくださいね、下手すれば首を吊りますから」


 私がそう言うとフェリクスは苦し気な顔で首を振る。


「いや俺はもう結婚はしない、結婚する資格なんて無いことがよく分かった」


 彼の意思を否定する気も無いし慰める気も無い。

 でも伯爵家当主が今後独身を貫いて大丈夫なのかとは思った。


「離婚には応じる。だがマリアン嬢、最後に一つだけ聞かせて欲しい」

「……何でしょうか?」 

「君が俺を愛さなくなったのは、弟のラウルを愛してしまったからだろうか」


 言葉が出るより前に私の拳が雄弁に答えた。


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