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君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか  作者: 砂礫レキ@死に戻り皇帝(旧白豚皇帝)発売中


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52.尋問コーナー開設しました

 外でする話では無さそうだということで、ジョアンヌ義姉さんに応接室に案内される。

 しかし少し身支度を整えてくると彼女は早々に退室してしまった。

 淑女が濡れ髪のまま駆けつけてくれたのだ。そうする権利はある。

 私は供された紅茶を飲みながら対面の男を見た。


 硬そうな黒髪に鋭く赤い瞳。がっしりと鍛えられた長身。

 外見は良いのよね、男らしくて頼りがいのありそうな騎士みたいで。

 実際は全くそんなことは無かったのだが。中身は寧ろ繊細な小心者だ。


「その……」


 紅茶に一切手を付けず押し黙ったままだったフェリクスが言葉を発する。

 私はティーカップをソーサーに戻し、言葉の続きを待った。


「色々と申し訳なかった」

「色々とは具体的にどういった事にですか」


 私の質問に赤い瞳が固まる。別におかしいことを言ったつもりは無いのだけれど。

 だって私とフェリクスは感覚も常識も大きく違う。

 曖昧な言葉をそのままにしたら致命的な勘違いをしかねない。


「俺が伯爵家当主の役目を全う出来なかったので君やフェーヴル公爵家に迷惑をかけてしまった」


 一応私にも迷惑をかけたという自覚はあったらしい。無かったら本当に救いようが無いが。

 私は王太子妃からの手紙を取り出し、彼に見えるように持った。

 途端にフェリクスの顔の表情が更に硬くなる。


「私を王室から招待されたお茶会に伴わなかったのも当主としての御判断ですか?」

「……そうだ」


 苦い薬を飲まされたような顔で男が答えた。

 そういう表情をするなら、そもそも聞かれたら困ることをしないで欲しい。



「理由を伺っても?」

「王太子殿下が……私たちの子供を催促するからだ」


 うわっ、気持ち悪い。

 思わず口を衝きそうになって掌で押さえる。

 王太子って確か三十歳くらいなのにセクハラおじさんみたいなこと言うのか、いや言うか。

 私はマリアンの記憶から王太子の情報を引き出して納得した。


 セクハラ中年と早婚した者にたまにいるお前も早く子供作れよと善意の押し付けをしてくる若者。

 その二つの属性を併せ持つのが恐らく当代の王太子エーリクだ。

 個人的には相手の身分が高いこともあってなるべく会話せず関わらず生きていきたい。

 だからお茶会に行けないことは問題では無いのだ。


「理由はわかりました、どうして夫婦一緒にと誘われた事実を私に隠し続けたのか答えてください」


 口にしながらも私は理由がわかっていた。フェリクスに子供を作る気が一切無いからだ。

 そもそも子供が出来るような行為を一切拒否している。

 この事実をマリアンから王太子夫妻にばらされることを怖れていたのだろう。私は呆れた。

「今回私は名指しで王太子妃から苦情を頂きました、何故誘いを全て断るのかと」


 私は便箋の文字をフェリクスに見せつけながら言う。

 ストレートにそう書いてあるわけでは無い。しかし読めば明確に意図は伝わってくる。

 王太子妃本人か、それとも王太子のどちらかは不明だが私が出席拒否してると思っているのだ。


 マリアンが言葉に出さなくても諸々の事情で王家を好いていないことに気付いていたのだろうか。

 それともマリアンに避けられる自覚があるのだろうか。本人たちがこの場に居ないので真実は不明だ。


「もしこれが伯爵家ではなく公爵家の父宛に送られていたらどうなったと思いますか?」

「それは……しかし、断ったのは俺なのだから」

「手紙の送り主は私が断らせたと思い込んでいらっしゃるようですけれど?」

「……すまない」


 項垂れるフェリクスを前に私は怒鳴るか呆れるか迷い、結局溜息を吐いた。

 私が言える立場でも無いがどうしてこう軽率なのだろう。


「そもそもどういう理由で断り続けたのですか?」

「妻は、体調が優れないようだと」

「毎回ですか? 私が別に病弱でないことは王太子殿下は御存知の筈ですが」


 自分の息子の妻にしようとしていたぐらいだから、そこら辺の調査は済んでいるだろう。

 対面でそれとなく確認されたこともあるし。


「それでは当然私が仮病を使っていると疑われるでしょう、よく今まで何も指摘されませんでしたね」


 そう抗議するとフェリクスは少し考え込んでから口を開いた。


「いや、何故か俺のせいで体調を崩していると思われていたから」

「貴方のせいで?」

「ああ、程々にしろよと王太子殿下には注意された。俺が」 


 うわ。私は口に出さず呟く。

 王太子殿下、外見は美青年なのだが発言だけ聞けば脂ぎった中年親父のようだ。

 成程だから今までは茶会への妻側の欠席を見逃して貰えたのか。心底気持ち悪い理由だった。


「程々にしろというのは、正直よく意味がわからなかったが……」

「は?」


 思わず声に出して驚いてしまう。目の前の男性を見た。

 がっしりとした体格の美丈夫だ。若者から抜けきって男盛りという感じである。

 寧ろ外見だけなら白馬の王子様系統な王太子よりも「程々にしろよ」と悪意なきセクハラ発言をしそうな体育会系的雰囲気である。


「もしかして、マリアン嬢は意味を知っているのか?」


 私はブンブンと首を振った。


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