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君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか  作者: 砂礫レキ@死に戻り皇帝(旧白豚皇帝)発売中


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51.もう誰も庇えません

 正直私は彼が執事への断罪を躊躇うと思っていた。

 彼の代わりにひたすら頭を下げ謝罪する行動さえ予想していた。


「アーノルド、お前を解雇する」


 一度だけ目を閉じた後フェリクスはそう宣言する。

 少しだけ驚いたが当然のことだ。

 公爵家の玄関で仕えている伯爵家の当主と言い争う執事など前代未聞だ。

 解雇だけで済んだなら寧ろ温情である。


 しかしアーノルドは全くそう思っていないようだった。ある意味納得だ。

 それぐらい常識知らずで無ければまずこんなことにはなっていない。


「なっ、何の権利があってそんなことを仰るのです!奥様に叱られたいのですか?!」

「……は?」


 伯爵家執事の発言に使用人たちの何人かが私を見る。反射的に首を横に振った。

 彼の言う奥様は私ではない。


「……公爵家に迷惑をかけたお前を、母だって流石に庇いはしないだろう」

「そこは貴方が上手くとりなせばいいだけでしょう、そんなことも出来ないのなら……!」

「黙りなさい」


 流石に聞いていられなくて私は男たちの言い争いに口を挟んだ。

 このまま放置しておくとアーノルドからどんな暴言が出て来るかわからない。

 この執事が私は前伯爵夫人と恋人ですぞとか大勢の前で叫んだなら私まで巻き込まれてしまう。

 恋人関係云々は今の所邪推でしか無いけれど。


「皆は持ち場に戻って、あ、そうね、貴方と貴方は残って」


 とりあえず野次馬を減らす為に使用人たちに解散を命じる。いざという時の為に男手は数人残しておいた。

 人が少なくなった玄関前で私は伯爵家の面々と改めて対峙した。


「アンベール伯爵の仰る通り、誰も貴方を庇えないわ。公爵家の敷地内で騒ぎを起こしたのだから」

「公爵家と言っても、旦那様の妻の実家では無いですか!」

「……すまない、今すぐ連れて帰る。彼は貴族に関して余り詳しくないんだ」

「その件も含めて話をしたいわ。彼がどうしてこんな有り得ない真似をしたのかも」

「それは……」


 アーノルドと共に伯爵家に帰るというフェリクスの発言を私は拒否した。

 彼は来てしまったし、私も対面を選んだ。ついでだから直接話を聞いてしまいたい。

 それですぐ回答出来ないなら待たせればいいのだ。主導権は迷惑をかけられたこちらにある。


「それは王家からの茶会の誘いが来たからです!今度こそ妻を連れてこないと許さないと、だから私は……」

「黙れっ!!」


 今まで聞いたことのないような大声でフェリクスがアーノルドを制止する。

 彼の変貌に目を見開きながら、私は伯爵家執事の告げた内容にも驚いていた。

 王家からの茶会の誘いがフェリクスに届いて、恐らく彼は今まで何度かあったそれを私に伝えたことが無かった。


 これは、真相を聞かなければいけない。私は手の中の扇子をパシリと鳴らす。


「とりあえずあの男は猿轡して室内に運んで頂戴」

「はっ」

「暴れるなら縛っても構わないわ」


 男性の使用人たちにアーノルドを指して指示した。


「なっ、私を誰だと思って……もがっ」

「誰って、自分を執事だと思いこんでる異常者でしょ」


 もう貴方、執事は解雇されたのだから。

 口に詰め物をされ屈強な男性使用人に担がれていく元伯爵家執事に私は呆れながら告げた。

 このまま海にでも捨てるのが一番かもしれない。いや水質汚染になるから駄目か。

「お嬢様、この者はどちらにお運びしましょうか?」


 屈強な使用人にそう問われる。

 彼に担がれたアーノルドは呻きつつジタバタしていたが拘束が解ける様子は無かった。


「そうね……」


 暴れて調度品などが壊れては困る。だから応接室などは無しだ。

 私の部屋も当然無し。


「私は物置部屋が良いと思うわ」


 悩んでいるとそう涼やかな声で提案される。

 そちらを振り向くと黒髪の貴婦人が立っていた。 


「ジョアンヌ義姉さん……」


 彼女は私に向かい上品な微笑みを浮かべる。

 リンツ兄さんは外出していても、妻である彼女は家にいたのか。


 だとしたら今この公爵家で一番の権力者はジョアンヌ義姉さんである。

 彼女はまだ公爵夫人にこそなっていないが、私の気持ち的には間違いなくそうだ。


「ごめんなさいね、髪を染めていたら遅くなってしまって」


 ジョアンヌ義姉さんに謝罪され、私は目を丸くする。

 確かに彼女の結い上げられた黒髪はよく見るとしっとりと濡れているように見えた。 

 だからすぐ騒ぎに対処できなかったということか。


「大丈夫よ、私こそ迷惑をかけてごめんなさい」

「あら、マリアンさんが謝ることは何一つ無いわ」


 そう優し気な口調で気遣いの言葉をくれたジョアンヌ義姉さんは、フェリクスの方に向き直る。


「アンベール伯爵様、濡れ髪での御挨拶申し訳ございません。何分急なお越しで御座いましたから」

「あ……いやこちらこそ大変申し訳ない。我が家の使用人と並んで多大な迷惑をかけてしまいました」

「元、使用人」


 私が訂正するとフェリクスは少ししてから元使用人と言い直した。

 それに反応したのかアーノルドがくぐもった奇声を発する。全く反省も後悔もしていないようである意味感心する。

 元庭師とか平民とか関係なく本人の資質だろうこれは。


「あらあら、騒がしい事。それをさっさと物置小屋に運んで頂戴。室内の物は別室に移してからね」

「はい、奥様」


 男性使用人たちははきはきと返事をするとアーノルドを連れて屋敷の中に消えた。

 途端に静寂が場を支配する。


「さて、アンベール伯爵様。改めて御用件をお願い致します」


 上品な笑みを顔に張り付けたジョアンヌ義姉さんはフェリクスに向き直った。

 そんな彼女に対しフェリクスは先程私に告げたのと同じ内容を緊張しながら話す。


 私はそれを聞きながら元伯爵家執事から回収した封筒を開いて便箋を取り出した。

 男性使用人にアーノルドが凶器を持っていないか確認させた時に発見したものだ。

 乱暴に扱ったのか封筒がところどころ折れている。王家からの手紙をここまで粗雑に扱えるのは命が惜しくないとしか思えない。

 執事職には執着しているようだが、欲望に勤務態度が合致して無いにも程がある。


 そんなことを思いながら私は美しい文字の羅列を見つめた。

 送り主は王太子妃であて先はアンベール伯爵夫人、つまり私だ。


 その時点で気分がうっすら悪くなる。だって開封済みなのだ。そしてアーノルドが既読なのも判明している。

 内容を読んだら更に気が滅入った。簡単に言えば文句を言われている。


 要は何故王家が直々にお茶会に誘ってるのにずっと欠席し続けているんだという抗議の手紙だった。

 それを上品に、私を心配していますという建前で書いてきている。


「そもそもお茶会に誘われていたこと自体知らないんですけど?」


 思わず不満が声に出てジョアンヌ義姉さんと話していたフェリクスが盛大に咳き込んだ。

 成程、こいつが犯人か。



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