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44.お花畑のヒロイン

 軽く眠るつもりだったけれどちゃんと布団はかけて寝た。

 けれど次目覚めた時、喉も目も乾いて頭がガンガンと痛んだ。

 何とかベルでシェリアを呼んで後はずっとベッドの上の住人。


 熱にうなされながら寝て、意識が戻ったら水分補給をしてミルク粥や果物、そして薬を飲まされる。

 今から行動という時に何でこんなことになるのか。

 というか治るのかな、この世界の医療水準は若干不安がある。


 そんなことを考えつつ出来る事と言えば安静にして体を休めることしかない。

 貴族で良かったと初めて思った。

 薬は貰えるし着替えと食事の準備は完全に人任せで良い。


「お嬢様、御可哀想に……私が代わりに病気になれば良かったのに」

「駄目よ、そんなの……」


 貴族だろうが病気の苦しみを誰かに肩代わりして貰うことは出来ない。して欲しくも無いが。

 いやラウルにならいいや、でも方法がわからないから無理だ。


 というかこんな時にまであのニヤケ面の事を考えたくない。 

 シェリアがつきっきりで看病してくれるのを申し訳無く思いながら私は又意識を飛ばした。


 気が付くと私は花畑に立っていた。自室のベッドで意識を失ったのにこれは有り得ない。

 しかも少し先には川みたいなものがある。三途の川だと直感で思った。


「は?死んだ?」

「まだ死んでいないわ」


 呆然と呟いた声に返事が来る。よく似た声だった。

 聞こえた方を振り向くと物凄い美少女が居た。


 ピンクブロンドの髪に水色の瞳。頭には紅色の花飾りをつけてドレスも同色。

 女児が連想するお姫様をそのままお出ししたような令嬢だ。

 

 彼女はにこりと微笑むと優雅にカーテシーをした。私はその顔に見覚えがある。


「あ、貴方は……」

「初めまして、と言った方が良いかしら。わたくしはマリアン・アンベール。貴方もそうだけれど」


 やっぱりそうだ。その顔は私が最近毎日鏡の前で見る物と同じだもの。

 すぐに気づかなかったのは表情と、そしてオーラが違っていたから。


 何と言えばいいか、凄い下品な言い方をするなら産まれた時から勝ち組ですっていう感じだ。

 愛されオーラというものを感じる。一度もブスって言われたことの無さそうな挫折を知らない顔だ。

 どちらかというと美人とか可愛いって誉め言葉を一万回以上言われたような顔をしている。


 そのせいか何となくラウルに似てるなと思ってしまった。物凄い侮辱かもしれないが。


「……今、わたくしをラウル様と似ていると思ったわね?」


 言葉に出していないのに何故か即指摘された。怖い。

 激怒されるかと思ったが彼女は小さく溜息を一回吐くだけだった。


「やっぱり、貴方から見ても私とあの方は似ているのね……」

「えっ、あっ、ごめんなさい、今は全然似て無いと思います!」


 罪悪感に押し潰されそうになりながら必死に謝る。

 彼女は小さく首を振った。か弱げな様子に今度は前伯爵夫人を思い出す。

 しまったと思ったが、彼女は悲し気な目をした。


「いや、あの二人も外見は良い方なので、本当にごめんなさい!!」

「気になさらないで。でもやっぱりわかってしまったわ……わたくしはずっとフェリクス様を苦しめていたのね」


 だって彼はその二人に長年苦しめられていたのでしょうから。

 彼女は懺悔するように自らの両手を胸の前で組んだ。


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