28.そんな話はしていませんが
「どうしたマリアン嬢、顔色が優れないようだが……」
自分とラウルの共通点を発見して落ち込んでいる私にフェリクスが声をかけてくる。
顔に出る程ショックだったのか。私は口を開いた。
「私も兄や姉に頼る機会が多いので、ラウル様のことは言えないなと思っただけです」
「ああ……」
納得したように返されて自業自得だが更にショックを受ける。
そんなこと無いよという慰めを求めていた訳では無いが、ここまであっさり首肯されるとは。
私の反応に気付いたのかフェリクスは若干慌てたように言い添えた。
「今のは君もラウルと同じで末の子だと思い出したからで……決して似ていると思った訳では無いんだ」
「大丈夫です、自分が甘えた性格なのは自覚しているので」
「いや、今までそのことを忘れていたぐらいマリアン嬢は自立していると思う」
「いいえ、それは無いです。今も姉についてきて貰っていますし」
私がそう告げるとフェリクスの表情が強張った。
嫁の家族が乗り込んできてるのだから、緊張もするだろう。
付き添いがアルマ姉さんなことを考えるとそれだけが理由とも思えないが。
「でも本当に一緒に来て貰って助かりました。私一人だけなら執事に言い負かされていたと思うので」
「……アーノルドまで君に何かしたのか?」
「何かしたというか、何もして頂けませんでした。彼はラウル様のことばかりで」
「それは……アーノルドがすまない」
もう聞き飽きた感のある謝罪をフェリクスが口にする。
彼に謝られてもと思うが、あの執事の雇い主は伯爵である彼だ。
私は疑問を口に出した。
「あの執事は私の部屋に勝手に鍵をかけたのは伯爵だと嘘を吐きました、信用出来ない人物なのでは?」
「アーノルドがそんなことを?」
「ええ、しかも鍵をかけたことについて公爵家が伯爵家に抗議をする段階でです」
簡単に言えば罰を受ける相手をラウルからフェリクスにすり替えようとしたということだ。
流石にフェリクスも執事に対して怒りを感じるだろう。私は彼の表情を観察する。
しかし彼の精悍な顔にはそういったアグレッシブな感情は浮かんでいなかった。
「それは……俺は長男で跡継ぎだから仕方ないな」
「何言ってるんですか?」
全く想定してないことを言われて思わず突っ込みを入れる。
でも仕方ないと思う。長男とか跡継ぎとかそういう話は全然していない。だってそういう問題では無いのだ。
「貴方、ラウル様の身代わりにされたんですよ?」
「でも兄とはその為にいるのだろう?」
当たり前に返されて鳥肌が立った。




