24.鍵はどこにいった?
「ロビン様、その件についてはフェリクス様以外からの謝罪は不要です。夫婦間のことですので」
これは本心からの言葉だ。
フェリクスから謝罪されても何を今更としか思わない可能性が高いが、その母親から謝られても単純に気まずいだけだった。
それに彼女が長男の事だけ扱き下ろして次男について一切言及しないのが気になる。
どう考えても兄の妻に対し変則的な言動ではあるが言い寄っているラウルの方が問題児だろう。
しかも私の部屋を勝手に施錠したのも彼らしいし。
「でも、私は母親として……」
「それでしたら、ラウル様が施錠した私の部屋の鍵を開けて頂けますでしょうか?」
私は自室の扉を指さして言う。
だが前伯爵夫人は困った顔をして私を見つめるだけだった。
「あの……?」
「ごめんなさい、鍵は、無いの………」
「は!?」
予想外の事を言われつい大声を出す、前伯爵夫人がビクリと肩を震わせた。
その態度を見て何となくラウルに似てるなと思った。いや親子なのだから似ていて当たり前だが。
彼女を庇うように執事のアーノルドが前に出てくる。
そして私を睨みつけるようにしながら言った。
「奥様を一方的に責めるのはお止め下さい、彼女に非はありません!」
「別に責めたわけじゃ……」
「今非難するように大声を出して、怯えさせたではありませんか!」
「いや、寧ろ大声を出しているのはそっち……」
釈然としない気持ちで言い返す私の肩が後ろから掴まれる。
「アルマ姉さん……」
「交代よ」
長姉が向こうに対抗するように私の前に出る。
上品に微笑みながら瞳は一切笑っていない。静かに怒っているのだ。
「下らない言い合いをするつもりは無いの。何故妹の部屋の鍵が無いのかしら? 泥棒にでも盗まれたの?」
だとしたら今すぐ警察を呼ばないと。
アルマ姉さんの言葉に執事のアーノルドが僅かに青褪めた。
警察が来て捜査されるのは嫌だというのを隠していない。もうこの時点で色々察してしまう。
「いや、盗まれた訳では……」
「じゃあどうして私の妹は先程からずっと自分の部屋に入ることが出来ないの?」
「それは、そのですね……」
「確かにこんな家で自室に施錠もせず外出したマリアンは迂闊だわ、でも一応現当主の妻なのよ?」
「それは……存じ上げております」
「ならどうしてさっきからずっと自室から締め出されたままなのかしら、おかしいでしょう」
アルマ姉さんは決して声を荒げない。しかし言葉の一つ一つに確かな重みがあった。
執事は勢いで言い負かすタイプのようだが、彼女は静かな正論で威圧することに慣れている。
「で、ですが……無いものは、無いので……」
まともな返答が来ないことに対しアルマ姉さんは溜息を吐いた。
「ならば、やはり扉を壊します。良いですね、アンベール前伯爵夫人?」
しかし彼女からの返答は無かった。




