12.理由はもちろんお分かりですね?
「帰ってください。それに私を傷物と仰るなら、既に離婚済みの貴方も傷物では?」
私の言葉に扉の向こうが束の間静かになる。
しかしすぐに笑い声がした。しかも爆笑に近い。
「あっはは、やだなぁマリアンちゃん。男の離婚と女の離婚は全然違うよぉ。本当に子供なんだね?」
「私を子供だと思うならしつこく迫るのを止めてください」
うんざりしながら告げるがラウルが扉の前から立ち去る気配は無い。
いい加減会話を打ち切って寝てしまおうか。
そう思っているとラウルがとんでもないことを言ってきた。
「ふふ、マリアンちゃんって本当に狡い子だなぁ」
「は?」
「そうやって自分は拒んだけど僕が熱烈アタックしたから結婚したって形にしたいんだよね?」
何を言っているかわからなくてシェリアを振り返る。
彼女もしっかり困惑していた。良かった、理解できないのは自分だけじゃなかった。
「兄さんと強引に結婚したのに結局僕を好きになったって世間に知られたら色々言われちゃうもんねぇ」
「貴方を好きだったこと生まれてから一度も無いですけど、好い加減帰ってください」
「でも大丈夫だよ、皆そうだったから。兄さんより僕を選ぶのは女性として当然なんだ」
「……皆?」
こんな奴と話していたら頭おかしくなると思いつつ、気になる単語が出てきたので聞き返す。
フェリクスは確か初婚だった筈だが。
「そうだよ、兄さんには過去に二人婚約者が居たけど結局二人とも僕を選んだんだ」
「二人?!」
つい驚いてしまう。
フェリクスに過去婚約者が二人いたこともだが、何よりその婚約者たちの目の腐り具合に。
「誤解しないで、別に僕は彼女たちに普通に優しくしてあげてただけだよ。兄さんは女性が苦手だからね」
「貴方の口から出る普通がこの世で一番信じられない単語なのですが」
「確かに兄さんは伯爵家当主だからしたくない結婚をしなきゃいけないけど、愛が無くても女性には優しくするべきじゃない?」
正論ぶったラウルの台詞が無性に癪に障る。吐き気さえした。
成程、この二人は女嫌いの兄と女好きの弟という訳か。足して割れば丁度良かったのに。
「お嬢様……」
シェリアが私に心配そうな顔で声をかけた。
そっとハンカチを差し出される。理由が分からず受け取らないでいると目の近くを優しく拭かれた。
「あんな者の言葉なんて信じる必要はございません」
ラウルに聞かれないようにする為か小声で囁かれる。
そこでやっと自分が泣いていることに気付いた。
別に私は悲しくは無い。なので多分泣いているのは昔のマリアンだ。
愛されたくて愛されない日々を一年以上続けていた彼女が泣いている。
でもそれはある意味自業自得だ。一方通行の思いを相手の心を確かめもせず押し付け続けたのだから。
扉の向こうのラウルと本質的には変わらないのかもしれない。
でも、それはそれとしてこの男はしばく。
私はシェリアから借りたハンカチで涙をごしごしと拭くと背筋を正す。そして声を張り上げた。
「ラウル・アンベール。貴方を訴えます」
「……ふぇ?」
扉の向こうで間抜けな声が聞こえたが無視して言葉を続けた。




