11.聖水をください、出来たらロケットランチャーもください
ニヤケ面が見えた瞬間前世の記憶が蘇る。
朝出勤しようと玄関を開けたら追い出した元彼がにっこり笑って立っていた。
「悪霊退散!!」
自分でも驚く速さで扉を閉める。勢いが良すぎて凄い音がした。
驚いているシェリアを振り返り大声で叫ぶ。
「シェリア早く鍵を、 私が力尽きる前に早く!!」
「は、はい!!」
カチャカチャ外から回されるドアノブを必死に掴む。
シェリアが慌てて施錠をしてやっと力を抜くことができた。
「ちょっとマリアンちゃん、何で急に扉を閉めるのぉ?!」
私が疲れてへたり込んでいる間もしつこくドアノブが回されている。
この世界にアイロンやドライヤーや半田ごてがあれば内側からドアノブを熱してやれたのにと思ってしまった。
しかしそんな物は無い。私はゆっくり立ち上がり、扉に向かって面倒さを隠さない声で話しかけた。
「その場で用件を言って頂いて宜しいですか?」
「その前に部屋に招待してくれてもいいでしょ、家族なんだし」
「私と貴方は血の繋がった家族では無いし、実の親兄弟でも貴族男性は気軽に女性の部屋には入りません」
「それは変だよ、僕はいつも母さんの部屋とか遊びに行ってるもん!マリアンちゃんが非常識!!」
今すぐドアノブに高圧電流流したいなと思いながら私は口を開いた。
「それは貴方のお母様が特別に許しているからです。私は貴方の入室を許可しません」
「何で? 確かに僕は兄さんと違って特別な存在だけど」
「私にとっては違います」
「それに熊みたいな兄さんと違って全然怖くないもん」
「いや貴方も十分怖いです」
屈強なフェリクスが熊に対する怖さならラウルは貧弱なゾンビに対して感じる怖さだ。
化け物の自覚のない化け物が一番恐ろしい。
「本当、会話ができないわね。 シェリア、警察呼んで頂戴?」
「お嬢様、残念ながら部屋から出ないと無理です」
侍女を振り返り言うが無念そうな顔で首を振られた。
今ここに携帯電話があれば良いのに、スタンガンやチェーンソーでも良いけど。
ずっと部屋に籠っているわけにもいかないので再びゾンビラウルと対話を試みる。
「絶対扉は開けません。用件を仰ってください。それか帰ってください」
「ちぇーっ、マリアンちゃんのケチんぼ」
「……用件をさっさと言うか消えてください」
吐き気を堪えながら言う。
予想以上にドスが利いてしまった。別にラウルが相手だから良いか。
「もうっ、折角マリアンちゃんにプレゼントを上げようと思ったのに」
「……プレゼント?」
「そう、兄さんと離婚するマリアンちゃんに僕のお嫁さんになれる予約券をプレゼントしちゃいます!」
「は? 死んでもいらないです」
「いつまでもそんな風に恥ずかしがらないで!兄さんと離婚したらマリアンちゃんは傷物になるんだよ。理解してる?」
頭の悪い子供に諭すようにラウルが言う。
鋏を持ったシェリアが私の横に立った。
「お嬢様、私刺し違えてきます」
「ゴミの為に命を無駄にしないでシェリア」
真剣な表情で宣言するシェリアから鋏を取り上げて机の引き出しにしまう。
そうしてから再度扉の向こうのゴミゾンビに語り掛けた。




