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無自覚勇者は『ヒモ』になりたい!  作者: サイトウ純蒼
最終章「姫様が好きだったんだ。」
78/82

78.敗北

(くっそぉ……、攻撃は入っている。だが捉えきれてない。それは……)


 魔王バーサスの攻撃を受け仰向けに倒れたウィル。どんよりとした魔界の空を見つめながら手にした双剣を思う。


(やっぱ()の切れ味が変わらねえ……、だから通らねえんだ……)


 絶対に勝てない相手ではない。技もしっかり入っているし、ダメージも少なからず入っている。しかし切れ味抜群の青の剣に対し、赤の剣は磨かれた見た目とは裏腹に未だその能力を出し切れていない。



「ウィル!!」

「兄様っ!!!」


 漆黒の魔物達の相手をしていたエルティアやアルベルトがウィルの名を叫ぶ。アルベルトが鬼の形相で言う。


「この雑魚共を倒し、今すぐ兄様の加勢に行く!!!!」


 アルベルトの頭上に集まる雷雲が一層赤く激しく光る。



「フレイムバーストぉおおおお!!!!!」


 エルティアもギアを上げ魔物討伐の速度を加速させる。よろよろと立ち上がったウィルが魔王バーサスを睨み言う。



「まだまだこれからだ。行くぞ……」


 ウィルは赤の剣を()に戻し、青の剣を両手で持ちバーサスに対峙する。


「ほお、一本で戦うと言うのですか? 舐められたものですね……」


 それを見たバーサスの表情が歪む。詳しいことは魔王にも分からない。だがあの青赤せいせきの双剣は二本あって初めてその真価を発揮する。一刀流とはつまるところ『格下相手』と見なされたという意味。ウィルが青の剣を構え静かに言う。



「一刀流・重撃」


 瞬間、ウィルの姿が消えバーサスの目の前に移動。両手で持った青の剣で魔王に斬りかかる。



 ガン!!!!


「くっ!」


 バーサスはその剣撃を両手を交差させるようにして受け止める。ウィル渾身の一撃。だがその攻撃をもってしてもバーサスには届かなかった。



「これは危ない危ない。一本でもこんなことができるのですね」


 攻撃を受け止められ動揺したウィル。バーサスから繰り出される()()に気付くのが一瞬遅れた。



 ドン!!!!


「ぐわあああ!!!!!」


 無防備だったウィルにバーサスの足蹴りが入る。大きな音を立て後方に吹き飛ばされるウィル。好機と睨んだバーサスがそのまま追撃に入る。



「これで終わりだ!!」


 ドフ、ドフドフドフ!!!!


 倒れたウィルに接近したバーサス。容赦なく馬乗りになり殴り始める。




「やめろぉおおおお!!!!!」


 たまらずエルティアが剣を振り上げ馬乗りになるバーサスへと斬りかかる。



 ガシ……


「!!」


 バーサスはエルティアの攻撃をウィルを見たまま片手で受け止める。そして剣を奪い投げ捨て、じろりと睨んで言う。



「消えろ、雑魚……」


 ドオオオン!!!!


「きゃあああ!!!!」


 衝撃波。バーサスから放たれた衝撃波が至近距離でエルティアに命中。悲鳴と共にエルティアが吹き飛ばされる。



「兄様から離れろ!!!!!!!」


 すぐにアルベルトも剣を構えバーサスに突撃。


 ガン……


「なっ!?」


 バーサスは今度は肘を立てその攻撃を受け止める。



「はあああ!!!!」


 ドオオオン!!!!


「ぐはっ!!」


 剣を止められ焦ったアルベルトに容赦なく魔王の蹴りが直撃。アルベルトもエルティア同様吹き飛ばされる。



「後ろっ!!!」


 ガシ!!!


 そして攻撃の隙を狙ったハクが後方上空から不意打ちをかけてきたが、あえなくバーサスに捕捉。右拳を叩き込まれゴミのように地面へと捨てられる。



「や、やめねえか……」


 ようやく起き上がったウィル。だが疲労困憊で倒れたルーシアを含め、あっという間にやられてしまった仲間を見て驚愕する。



「ゆ、許さねえ……」


 そう強く言うものの、現状は圧倒的力を持つ魔王の前に勇者パーティは壊滅状態。魔王の側近はエルティア達の活躍によりほぼ殲滅したようだが、残った魔王が桁違いに強い。バーサスが立ち上がって言う。



「許さないとは、一体どういう意味でしょうか?」


 倒れる『六星』達にズタボロの勇者。いまだ活力溢れる魔王とは対照的すぎる。バーサスがウィルの間の前に立ち、小声で言う。



「ねえ、どういう意味でしょうか? 教えて……」


 右拳を振り上げ大声で言う。



「下さいよおおおおお!!!!!」


 ドオオオオオオオオオオン!!!!!



「うがああああ!!!!!」


 魔王渾身の右ストレート。激しく吹き飛んだウィルが悲鳴と共に地面に倒れる。バーサスがそれに近付き言う。


「安心しましたよ、勇者がこんなに弱くて。くくくっ……」


 バーサスが仰向けになり動かなくなったウィルの首を掴み持ち上げる。そしてもう片方の手をその腹部に当て笑いながら言う。



「ようやくこの日が来た。憎き勇者を抹殺するこの最高の日が」


 ドオオオン!!!


「ぎゃっ!!」


 衝撃弾。バーサスの手から容赦なく闇の衝撃波が打ち込まれる。



「さあ、死ねよ、死ね死ね!!!!」


 ドンドンドン、ドオオオオオオオオオオン!!!!!



 もはや反応をすることもなく一方的にやられるウィル。自分は勇者なんかじゃない。ただただ適当に生きて、ヒモになってぐーたらに生きたかっただけ。どうしてこんなことになったのか。

 ウィルの混濁した思考が停止しかけた時、その温かな声が一面に響いた。




「やめぬか、魔王っ!!!!」


(!?)


 思わずウィルを攻撃していたバーサスの手が止まる。そしてゆっくり振り返りその姿を見て感嘆の声を上げた。



「ほお、天使族ですか……」


 そこには鉛色の大きな翼を広げ、剣を片手に立つバルアシアの姫エルティアの姿があった。



「ひ、姫、さま……」


 切れかけたウィルの意識に再び火が灯る。以前一度だけ見たことのあるエルティアの翼の姿。何が起きたのか分からない。だがこれだけは思った。



「やめ、ろ、姫、さま……、逃げて……」


 エルティアの怒りの表情。放たれる強い圧。間違いなく刺し違えても魔王を倒す気である。エルティアが言う。



「ウィルを放せ。貴様の相手は、この私だ……」


 目に溢れる涙。手にした剣からはゴオゴオと炎が上がっている。バーサスがウィルを投げ捨てて言う。



「たかだが天使族の『六星』ごときが、この魔王に挑むとは。身の程知らずですね。でもいいでしょう。あなたが先に死にたいと言うならば殺して差し上げますよ」


 地面に投げ捨てられたウィルが小声で言う。


「やめろ……、お前の相手は、お、れ……」


 擦れた声。小さな声は魔王に届かない。エルティアが剣を構えて言う。



「私は何度もウィルに助けられ救われた。今度は私が命を懸けてでも彼を救う!!」


「ほお、美しき愛ですか? ただその醜い翼。そんな化け物ごときが勇者と愛を語るとはね。笑止笑止」


 エルティアの目がカッと見開き、そして叫ぶ。



「フレイムバーストォオオオオ!!!!!」


 赤かった炎が一気に()()燃え上がる。更に火力が上がったスキル『フレイム』。エルティアが翼を羽ばたかせ一気に魔王へと突撃する。



「はああああ!!!!」


 ガン、ガンガンガン!!!!!!


 光速の打ち込み。バーサスも思わず後退するほどの強撃。



「凄い凄い!! 『六星』ごときがこれほどの力を出せるとは!!!」


 エルティアの攻撃をいなしながら魔王バーサスが感嘆の声を上げる。エルティアが涙を流しながら思う。



(ウィルウィルウィルウィル……)


 倒れて動けなくなるウィルを横目で見ながら心で叫ぶ。



 ――死なないでくれ



 天使族の力を開放して全力で戦ったエルティア。

 だがすでに満身創痍、疲労困憊の状態で無理やり慣れない力を開放した反動がすぐに彼女を襲った。



(あっ……)


 バーサスに打ち込んでいた剣。その威力が突然抜けていくのを感じる。もう少しもってくれ、と願ったエルティアの願いも空しく、それを察知したバーサスが剣を受け止め隙のできた彼女の首をガッと掴む。


「うぐぐぐっ……」


 大きな鉛色の翼は萎え、魔王に首を掴まれたエルティア。苦しそうな表情を浮かべる彼女にバーサスが言う。



「バルシアの娘。なるほどねえ、見事でしたよ。最期の足搔き」


 バーサスがエルティアの腹部に手をあて小さく言う。


「これでさよならです。永遠に……」



 倒れたままのウィルが内心叫ぶ。



(や、やめろおおおおおおお!!!!!)



 ドオオオオオオオオオオン!!!!!


 エルティアの腹部に当てられたバーサスの手から放たれた衝撃波。無慈悲な衝撃音が中庭一面に響き渡った。

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