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無自覚勇者は『ヒモ』になりたい!  作者: サイトウ純蒼
最終章「姫様が好きだったんだ。」
77/82

77.ウィルの焦り

(フレイムバースト!!!!)


「はああああ!!!!」


 エルティアは自由に動ける体を思い胸が熱くなる。満身創痍、怪我を負い疲労困憊なはずなのだがウィルの姿を見てから不思議と力が漲って来る。


(これが勇者に仕える『六星』の力……)


 父であった天使ガルシアが居なくなってから急にはっきりとしてきた星のアザ。それは紛れもなくエルティアが正式に『六星』に就任した証。だから思う。



(ウィルと共に魔王を倒す!!)


 剣に宿いし炎の力。強力な魔王側近の魔物達を斬り裂いていく。





「ギガサンダー!!!!」


 ドオオオオオオン!!!!


「サンダーボルト!!!」


 そしてもうひとりウィルと戦えることを至上の喜びとする赤髪の男。元黒騎士、『六星』雷撃の騎士アルベルトが鬼神の如く戦場を駆ける。育ての親ガルシアの遺志、そして尊敬する兄ウィルの敵である魔王を倒す為その持てる力をすべて出して剣を振る。



(体が軽い……、これが兄様、『勇者』の力……)


 以前ゴリラウィルと戦った時にも感じた高揚感。だが今は正式に勇者から仲間と認められ、余すことなく常時発動能力パッシブスキルが発動。アルベルトに経験のない力を与えていた。


(これなら誰にも負けない!!)



「サンダーボルトォオオオ!!!!!」


 魔王城中庭にアルベルトの雷撃が迸る。





「ブレイクブレス!!!!」


 ゴオオオオオ……


 同じく魔王城中庭に響く白竜の声。広がる石化ブレス。次々と魔王軍の手下が石となっていく。


(ああ、最高だぜ……)


 先に逝った元『六星』の長老。彼の遺志を継ぐ者としてドラゴン族の長になり、そしてその長老と同じく勇者の下にて魔王と戦う。


「滾るじゃねえか!!!」


 ドラゴン族長、長老としてはまだ若く、未熟なところも多かったハク。何をすれば良いのか分からなかった彼の前にウィルが現れた。


(お前と一緒に戦えて俺は嬉しいぜ!!!)


 勇者と『六星』と言う関係だからではない。ハクにとってウィルと言う男と一緒に戦えることが何より楽しかった。



「だから負けねえぜ!! グガアアア!!!!」


 中庭を舞うハクの鋭い牙と爪が魔王軍を次々と襲う。





(エルティア様……)


 銀髪の騎士、『王都守護者』の二つ名を持つルーシアは、愛用のオリハルコンの長棒を振り回しながら戦場を舞うエルティアを見て頬を緩ませた。


(やはりあなたにはウィル様が必要。あなたがあなたでいられる最も大切な条件……)


 ルーシアは戦場を楽しそうに舞うエルティアを見て涙腺が崩れそうになる。『飾り姫』と揶揄られ、実力がありながらも影で蔑まれてきたエルティア。そんな彼女の力を最高に引き出すのが勇者であるウィル。


(あなたと共に戦えて光栄です。だから、だからこそ……)



「私達は決して負けられない!!!!」


 ルーシアは気合と共にオリハルコンの長棒を敵に叩き込む。スキル『爆裂』の爆音が中庭に響いた。






(くそ、あいつマジで強い……)


 そんなみんなの希望である勇者ウィル。だが、彼は経験のないような強さの魔王を前に動揺を隠せなくなっていた。


(剣が通らねえ……、いや通っているがダメージがほとんど入らない……)


 研磨して貰ったはずの青赤せいせきの双剣。確かに青色の剣は以前よりもずっと切れ味が良くなっているし軽い。だが赤の剣は見た目こそよくなったが変わらず切れない。だからどれだけ斬りかかろうとも魔王に致命傷が与えられなかった。バーサスが言う。



「くくくっ、やはり勇者アルンと同じくお前も未熟のようだな」


「ど、どういう意味だよ!!」


 双剣を構えながらウィルが言う。バーサスが笑いながら答える。



「簡単なことよ。あの勇者をもってしても私を倒せなかった。だから『封印』と言う一時しのぎで終わらせたんだよ」


「一時しのぎ……」


 剣を握るウィルの手に汗が滲む。バーサスの言葉が本当かどうかは分からない。だがそれなら辻褄がある部分が多いのも事実。


「だからあの時の過ちはもう繰り返さない。お前をしっかりここで消し、勇者なき私の時代を築き上げる」


「そんなことはさせねえ……」


 勇者とか魔王とかそんなことはほとんど興味のなかったウィルだが、さすがにそんな世は看過できない。それ以前に自分や『六星』であるエルティア達は消されるだろう。バーサスが尋ねる。



「させないって、ではどうする? 今のお前に私が倒せると思うのか?」


(くっ……)


 ウィルに僅かな恐怖が生まれた。

 子供の頃親に山で捨てられ魔物と遭遇したあの頃以来の恐怖。圧倒的な敵を前に少しでも『勝てない』と思った瞬間に湧き出す感情。あれ以来、どれだけ強い魔物でも大軍でも捻り潰すように制圧してきたウィル。だが今、圧倒的な強さのバーサスを前に迷いが生じている。



「とは言え、お前は勇者。覚醒する前にきちんととどめを刺しておこう」


 バーサスはそう呟くと初めて腕組みしていた両拳を前に出し、戦いの姿勢を取る。ウィルとバーサスの間に走る緊張。双剣を構えるウィルの全身から汗が噴き出す。バーサスが言う。



「行くぞ」


(!!)


 初めてのバーサスの攻撃。それは決して対応できないほど速いものではなかった。だが圧倒的なオーラ、威圧を前にウィルが防戦一方となる。



 ガンガンガン、ガンガン!!!!


 嵐のように打ち込まれるバーサスの拳。ウィルはそれを双剣で必死に防いでいく。



(強い!! マジ強ええ!!!!)


 攻撃を受けながらじわじわと後退していくウィル。魔王だから強いのは当たり前だがここまで押されるとは想像もしていなかった。バーサスが笑いながら言う。



「くははははっ!! どうした勇者よ? その程度か!!!」


 ドフッ……


「うぐっ!!!」


 バーサスの拳がウィルの右肩を直撃。想像以上の重い一撃。ウィルが逃げるように後ろへ跳躍する。


「くそっ……」


 ウィルが口より流れ出る血を腕で拭き取り双剣を構える。

 魔王は強い。だがその魔王さえ倒せれば憧れのヒモ生活も現実となる。エルティアやアルベルト達もみんな頑張っている。


「だから負けられねえんだよ……」



「ん?」


 ウィルの気迫が一段階上へと上がる。


「行くぞっ!!!」


 その声と同時にウィルが双剣を振りかざしバーサスへと斬りかかる。



 ガンガンガン、ガンガン!!!!!


 ウィルの速攻。これまでほとんど見せなかった本気の斬り込み。


(これは……!?)


 バーサスも両手を硬化させ高速で打ち込まれるウィルの双剣に対処していく。



兄様あにさま……)

(ウィル……)


 そんな苦戦するウィルの戦いをアルベルトやエルティアが剣を振りながら横目で心配そうに見つめる。


 勇者と魔王の一騎打ち。お互い全力の打ち合いは皆の想像以上の迫力があった。側近の魔物達はもちろん、『六星』の面々ですらそこから距離を取り戦いを続ける。絶対的魔王が仕留められない。魔物達の動揺が最高潮に達した時、勇者の茶色の髪が一気に逆立った。



瞬撃しゅんげき残雪漸ざんせつざん!!!!!」


 ウィルの攻撃。目にも止まらぬ光速の剣がバーサスを容赦なく襲う。


「ウゴオオオオオオ!!!!!!」


 余裕だったバーサスが初めて苦痛の声を上げる。吹雪のように舞い上がる白銀の斬撃。その刃やバーサスを斬りつけ、まるで新雪に散る鮮血のように赤く染める。



「ウィル!!」

「ウィル様!!!」


 魔物と戦いながら思わず皆が叫ぶ。勇者が魔王を倒し喜ぶ皆。だがその顔が一瞬で凍り付く。



「……ああ、痛いなあ。やはり勇者は強いですね」


「!!」


 ウィルの攻撃を受け血に染まったバーサス。だが激しく飛んだ血しぶきほどダメージは受けておらず、その傷もあっという間に治癒されていく。



(マジか……)


 決して手加減してはいない。技も確実に入った。だがまだ届かない。回復を終えたバーサスが両拳をボキボキ鳴らしながら言う。


「さて。では勇者の終わりを始めましょうか」



 ドフッ……


「うぐっ……」


 ウィルに近付いたバーサスの光速の拳がウィルの腹部撃ち込まれる。一撃で動けなくなったウィルにバーサスが容赦なく連撃を繰り出す。



 ドフ、ドフドフドフ!!!!


「うがっ、うがぁあ!!!!!」


 まるでサンドバック。面白いように殴られるウィルを見たエルティアが思わず叫ぶ。



「ウィル、ウィル!!!!!!」



 バタン……


 倒れる勇者。一方的に殴られたウィルが仰向けに地面に倒れる。ハクが叫ぶ。



「おい、ウィル!!! ウィル!!!!!」


 初めての光景だった。勇者ウィルが敵を前に倒れる姿は。

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