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無自覚勇者は『ヒモ』になりたい!  作者: サイトウ純蒼
最終章「姫様が好きだったんだ。」
76/82

76.勇者vs魔王

「ウィル!!」

「ウィル様……」


 真っ白なドラゴン族のハクの背に乗って表れた茶髪の少年。金髪の姫を見て叫ぶ。


「姫様っ! 無事で良かった……」


 怪我はしているものの、エルティアの無事な姿を見てウィルの顔が一瞬ほころぶ。足元には叩き折ったアルベルトの剣。その後ろにいる魔王をぎっと睨みつけながら言う。



「お前、アルに何をやったんだよ」


 魔王バーサスがウィルに答える。


「何をって、彼は私の配下に加わったんですよ」


「馬鹿を言うな。アルがそんなことする訳ねーだろ」


「ふふふっ……」


 不敵な笑みを浮かべるバーサス。ウィルの隣に立つハクが小声で言う。



「おい、ウィル。どうする? かなり状況は厳しいぜ」


 満身創痍のエルティアにルーシア。洗脳されて刃を向けるアルベルト。魔王バーサスに、それを取り巻く漆黒の魔物達。ウィルとハクが来たところでこれを一気に好転させるのは難しい状況。ウィルが周りに目をやり答える。



「大丈夫。とりあえずあいつからだ」


 そう言って洗脳され、操られたアルベルトの元へと歩き出す。


「……」


 アルベルトは折られた剣を捨て右手を前に差し出し雷撃攻撃に入る。ウィルが言う。



「アル。俺だ。目を覚ませ」


「……」


 無言のアルベルト。白濁の瞳が近付くウィルを攻撃対象として定める。バーサスが言う。



「くくくっ、無駄なことよ。そいつはすでに私の配下。決してお前の言葉を聞くことはない」


 ウィルはバーサスの言葉を耳にしながら歩き、再びアルベルトに言う。


「いい加減目を覚ませ! アル!!!」


「……」


 反応のないアルベルト。彼の頭上にオレンジの雷雲が集まり始める。



「……まったく世話の掛かる弟だぜ」


 シュン……


 ウィルはそう小さくつぶやくと消えるようにアルベルトに接近。拳を振り上げながら叫んだ。



「目ぇ、覚ませ!! アル!!!!」


 ドン!!!!


「ぎゃっ!!」


 ウィルの右ストレートがアルベルトの頬に打ち込まれる。思わず仰向けに倒れるアルベルト。魔界のどんより分厚い雲を見ながら言う。



「あれ? 私は一体……」


「本当にしょうがねー弟だぜ」


 そう言って差し出された兄ウィルの手を見てアルベルトが言う。



「あ、兄様あにさま!? いつこちらへ??」


「いいから起きろ、アル」


「はい!」


 アルベルトはウィルの手を取り立ち上がる。そして傷ついたエルティア達やハクを見て戸惑った表情をして尋ねる。



「私は一体……」


「いいから。姫様達を頼む」


 ウィルにそう言われアルベルトがすぐに背筋を伸ばして答える。


「はい! 兄様!!」


 そうして駆けて行く背中を見ながらハクがウィルに尋ねる。



「お前らは本当に仲のいい兄弟なんだな」


「まあな。たったひとりの家族だからな」


 そう言いながらウィルが腰につけた赤の剣を抜き、魔王バーサスに言う。



「色々やってくれたな。アルや姫様、俺の大切なものを随分と傷つけやがって」


 魔王バーサスは腕組みしながらそれに答える。


「ほお、私の洗脳を解くとは。さすが勇者か。だが正直なところ私は少しがっかりしている」


「俺は勇者じゃねえ! 姫様の件とかマジでお前はやりすぎた。だから許さねえ」


「勇者じゃない? 何を訳の分からぬことを言っているのだ。まあいい。だが残念だが今のお前に私は倒せない。いや、幸運と言うべきかな」


 不敵な魔王の笑み。双剣を握るウィルの手に汗がジワリと流れ出る。




「エルティア様、ルーシア様、申し訳ございません。何が起こったのか全く覚えていなくて……」


 エルティア達の元にやって来たアルベルト。何が起こったのか理解できぬが皆に迷惑をかけたことは周りにある雷撃の跡を見れば明白。謝罪するアルベルトにエルティアが言う。


「気にしなくていい。ウィルが来てくれた。それだけで十分だ」


 エルティアは改めて感じる左胸の疼きに小さく息を吐く。ようやく皆と同じ土俵に立てた。『六星』として皆と一緒に戦える。あれだけ重かった体が今は嘘のように軽い。これが勇者の力。ウィルの力。ルーシアも同じく言う。


「何も気にすることはないです。今はウィル様との戦い、そして周りにいる魔物達に専念しましょう」


 魔王城中庭。周りを囲むように集まって来ている漆黒の魔物達を見てルーシアが長棒を構える。


「はい、承知しました」


 アルベルトも同じくそれに答えた。





「アル、どうする? この状況」


 ウィルは一度エルティアの方を見てからハクに答える。


「ここで何があったのか知らねえけど、姫様が元気そうなんで安心した。俺のヒモ生活が懸かってるからな」


「お前、まだそんなこと言ってるのか?」


 呆れ顔のハク。ウィルが言う。


「あいつは俺がやる。お前らは周りの魔物の相手をしてくれねえか?」


 ハクが中庭を取り囲むように集まって来ている魔物達を見て頷く。


「了解した。だが無理すんなよ、何か嫌な予感がする」


「大丈夫だ。剣も新しくして貰ったしな」


 ウィルは両手にある磨き上げられた青赤せいせきの双剣を手に笑みになって答える。バーサスが言う。



「勇者よ、ひとつ問おう」


「……何だよ」


 バーサスが全身の黒き筋肉を漲らせて尋ねる。



「私の肉美は何点だと思う?」


「……はあ? なんだそれ」


 くだらなすぎて話にならない。呆れ顔のウィルにバーサスが不満そうな顔で言う。


「この私の美しき体に興味がないと言うのか?」


「ある訳ねえだろ」


 バーサスが首を振ってため息をつきながら言う。


「残念な生き物だ。この美しさが理解できぬとは。いや、それも摂理。古の勇者もやはり理解できなかったしな」


「訳の分からねえこと言ってんじゃねえ。さっさとやるぞ」


「よかろう。将来の大きな脅威となる勇者。今その根を断絶しておこうか」


 バーサスの体が一回り大きくなる。漲る筋肉。迸る肉美。そして周りにいる漆黒の魔物達に向かって命じる。



「我がしもべ共よ、勇者を支えし『六星』を討て」


「グガアアアアア!!!!」


 バーサスの言葉に応じるように集まって来ていた魔物達が一斉にエルティア達へと突撃する。その数多数。アルベルトやハクが来たとは言え一斉に攻撃されたらどうなるか分からない。すかさずウィルが叫ぶ。



「スキル、威圧っ!!!」


 中庭に響くウィルの大声。勇者固有スキル『威圧』。その強力な衝撃波が突進してきた魔物達へ次から次へと襲う。


「ギャ!?」

「グガ!!」


 中級クラス以下の魔物はすべて卒倒。漆黒の魔物達ですら一瞬その威圧に足が止まる。アルベルトが言う。



「さすが兄様!! さあ、行くぞ!!!!」


 右手を天に掲げ、アルベルトがギガサンダーの構えに入る。


「私も戦うぞ!! フレイムバースト」


 同じくエルティアもスキル『フレイム』を発動。剣に炎属性を付与する。



「エルティア様……」


 ルーシアもそんなエルティアの姿を見ながらオリハルコンの長棒を構え、そしてハクも翼を広げ宙を舞いながら叫ぶ。


「さあ、俺達『六星』が相手だ!!! 覚悟しろよ!!!」


 そう叫んでから大きな口を開き突撃を始めた。





「さあ、では始めようか。新しき勇者よ」


 腕を組み余裕の表情のバーサス。ウィルが双剣を手に斬りかかる。


「はああああ!!!!」



 ガン!!!


 それを()でいなす魔王。ウィルが叫ぶ。


(ふざけんな!!!!)


 ガン、ガンガンガンガン!!!!!


 ウィルの連撃。目にも止まらぬ速さで双剣を打ち込んでいく。だが魔王バーサスは依然として腕を組んだまま片足でそれらをすべていなして行く。



「がっかりですね。いや、安心したと言うべきですか。勇者がこの程度であることに」


「くっ……」


 後退して双剣を構えるウィル。想像以上の強さ。先のように剣が折られることはないが、まるで攻撃が入らない。初めて感じる敵の強さに警戒しながらウィルが言う。



「俺はとっとと帰って祭りの準備をしなきゃならないんだよ。いつまでもおまえの相手をしている暇はない」


 そう言って剣を下段に構え言う。



双剣そうけん演舞撃えんぶげき!!!!」


 瞬時、ウィルが双剣を振り上げながらバーサスに接近。攻撃と同時に激しい炎が舞い上がる。



 ゴオオオオオ……


 手応えはあった。攻撃は入った。ウィルが後方にひょいと飛び燃え上がる炎を見つめる。




「……いい攻撃ですね。やはり勇者と言ったところでしょうか」


(!!)


 炎の中、ゆっくりと姿を現したバーサスが感心しながら言う。黒光りする肉体。細かな傷はついているがすぐに回復していく。唖然とするウィルにバーサスが言う。



「やはり勇者はきちんと根絶やしにせねばならないようです。我が力を持って終わりにしてあげましょう」


 そう言ったバーサスの黒きオーラがより強くなった。

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